第30話 ぐあっが!
妙に納得した俺はグレンに深く頷きを返す。
「それって何か影響が出るのかな?」
「分からねえ。そもそも聖と闇の地域は遠く隔てられているもんだからな」
「そ、そっか……」
その時、肩をポンと叩かれる。
「まあ、大丈夫じゃねえか。こうして共存しているわけだしな! ガハハハハ」
「そ、そうだよな。うん! どっちも美味しい実をつけるしさ」
うん。問題ない。
問題ないんだ。この先も幸せに農場を運営していこう。
スッキリした俺は、アルコールの助けもあってすぐに就寝する。
寝そべった時、階下からきゃいきゃいした女子たちの声が聞こえてきたけど、俺にはよい感じの子守歌にしかならなかった。
◇◇◇
――翌朝。
何故かげっそりしているピピンには触れず、俺はみんなの飲み物を準備している。
朝からこれを飲まないと元気がでないからな。
「俺は遠慮しとく。水でいいからな」
あれ?
いつもは快く朝の清々しい雑草ブレンドティーを飲むイルゼとプリシラも首をぶんぶんと振っているじゃあないか。
「バルトロ殿。ピピンとグレンから紅茶を頂いたのだ。その飲み物は必要ない」
「おいしくないもんー」
「……せっかくみんなのために用意したってのに……」
し、仕方ない。
無理に勧めるもんでもないし、俺一人で飲んでしまうとしよう。
これだけの量があれば昼も夜も楽しめるじゃねえか。
そう考えると逆にテンションが上向いてくる現金な俺である。
朝食を食べた後、グレンとピピンを農場の外まで送っていく。
お土産として農場で採れた作物を持って帰ってもらおうと思ったんだけど、荷物になるからと謝辞されたんだ。
それならグアッガを連れて一緒にファロまで行こうかなと提案したら、珍しくグレンが苦い顔をしたのでこれ以上何も言わず彼らを見送った。
「んー。グアッガがお気に召さなかったのかなあ」
少し成長したグアッガのお腹をポンポンと叩くと、彼はいつものように「グアッガ!」と嘶きをあげる。
「せっかくカッコよくなったのにねー。しまうまさん」
「シマウマじゃなくてグアッガな」
全身がシマシマなわけじゃないから、縞の馬って呼び方には違和感を覚えるんだよな。
縞があるのは確かなんだけどね。
プリシラがヒラリとグアッガにまたがり、片腕を振り上げ「いくぞー」と楽し気に笑っている。
ん?
何かおかしくないかって?
俺が馬やロバを買わずにグアッガを購入したのは安いからだ。
グアッガが安いのはお尻から足元にかけて縞々があって見た目的にあんまり……だから安いってわけじゃあない。
純粋に馬やロバと比べて性能が落ちる。人が「乗ることができない」し、人が乗るような荷台も引けない。なので、グアッガに荷物を引かせる時は二輪の台車を引かせるんだ。
いやいや、プリシラがまたがっているじゃないかって?
確かにそうだ。
俺のグアッガは特別でね……ククク。
いや、特別になったんだよ。
グアッガは草食動物だから、草を食べる。
一日放っておくと俺の背丈ほどまで成長する雑草を引き抜いてはグアッガに与えていた。
それがあってか、グアッガは雑草の強靭さを取り込むかのように二回りも成長したんだ。
よくわからんが、カルシウム過多なのかユニコーンみたいな角まで生えてきた。
足首は赤色の毛束が集まるようになり、足元にまるで炎の輪をまとったようになっている。
「クアッガと呼ぶのはどうかと思うぞ。バルトロ殿」
眉をひそめて苦言を呈するが、イルゼの手はクアッガを撫でまわしていた。
「いやいや、こいつは我が家畜……いや我が相棒のグアッガだ」
「……ステータスを見てみろ」
めんどくせえな。全く。
グアッガに目を向け、ステータスを閲覧する。
『名前:グアッガ
種族:
レベル:四十一
状態:ペット』
「……何か変わっている気がするが、名前はグアッガのままだ。だからこいつはグアッガだ。うん」
見たことのない種族になっていた気がするが、気のせいに違いない。
首をブンブン振って邪念を取り払っていたら、プリシラがバンザイのポーズで首だけこちらに向けた。
「先に帰ってるねー。行こ―ぐあっがー」
『グアッガ!』
プリシラの声に応じたグアッガが駆け始めるが、彼の行く手を遮るように大根が立ちふさがる。
あれ? あんなモンスター……作物いたっけ?
大根は高さが二メートル半くらいあって、足元が二股に分かれた見事な大根脚をしている。
顔はなく、頭の先から見事な緑色の葉っぱが生えていた。
「やっちゃえー」
プリシラが手を振ると、グアッガの角に稲光が集まり始める。
『グアッガ!』
彼の嘶きと共に、稲光が収束し一直線に大根へ襲い掛かった。
どごーーん。
轟音をたて、大根は四散した……。
「今のってライトニングだよな……」
「そのようだな。いいじゃないか。賢者殿に相応しい」
ま、まあいいか。
彼は俺たちの言う事をよく聞くし、とても懐いている。
Bランク魔法を使うことなんて些細なことだよな。うん。
細かいことを気にせず、俺とイルゼはグアッガの後を追う。
◇◇◇
持ち帰った大根はなかなか美味だった。
いやあ、どんどんいろんな作物が成長しているよなあ……我が農場は。
自分の意図した作物以外が育っているのは余り良い状態ではないけど、雑草じゃないならまあいいかってことで。
その日の番、屋根裏部屋で星を見ながら「明日は北側の整備でもするかあ」と思いを馳せていたら、コンコンと扉を叩く音が響く。
「開いてるぞー。どうぞ」
ガチャリと中に入ってきたのはイルゼだった。
いつになく真剣な顔でどうしたんだろう。
これはただ事ではないと思った俺は、寝そべった態勢から頭を起こし……。
ってえええ。
「後生だ。バルトロ殿、どうか」
イルゼがいきなり土下座でお願い事をしてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まずは何を頼みたいのか教えてくれ」
「す、すまぬ。気が動転していて」
「あ、あと、普通に座ってくれ。ほら、ここに」
「か、感謝する」
藁で編んだクッションを置き、ポンとそれを叩く。
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