第一章 記憶がない少年      

5


 静に手を引かれ外に出た。

「……ごめんね、旅介。疲れているのに、無理矢理連れ出して……」

 外側の玄関で足を止め、呟いた。

 なんか、様子が変だ。朝よりもテンションが低い。

 どうしたのだろう、学校で何かあったのか。静が元気になってくれるのなら。

「良いよ。街に行こう。僕も街の歴史を知りたいから」

 そう言うと、静に笑顔が戻り、ニッコリと「ありがとう」と言った。

 僕の手を握り締めながら歩き出した。

「旅介、冒険だよ!」

「冒険って……何処に行く気なの?」

 記憶がない僕にとっては、この街は迷路みたいな所だ。

 時計塔の針が五時を差しているのを確認してから、気付く。

「レンガの壁で造られている建物や家が多いよね。そして、広い。本当に冒険するの……?」

「うん。きっと、楽しいよ!」

 白衣の少女は金色の髪を靡かせながらどんどん前へと進んで行く。

 丁度良い、戦争の手掛かりがあるかもしれないし。冒険する序でとして調べるか。

 静はいつの間に手を離していて、坂道の所にいた。

「旅介、早く!」

 静が手招きをしていた。

 強引に連れて来て、何を言っているのだと言いたい。

 それに、さっきから感じる嫌な気配は一体……なんだろうか。

「そう言えば、リエさんが言っていたな。夕方に何かが起きると。……なんか、嫌な予感がするな」

 僕が必ず静を守らなきゃ。何があっても。

 守れるのだろうか。


 夕暮れ時、僕と静は再び街に行くのだった。


「ほう~元気に行ったのう。頼むぞ、旅介君」

 屋敷の外に出て呟く、礼司。

「本当に……良いのですか? 旅介君に任せても?」

 メイド長の香が心配そうに問い掛けた。

「あぁ……これは、旅介君にとっては試練なのだ。もう始まってしまったなら、見守るしかない」

「礼司……様」

「なーに、いざとなればワシが居る。香よ、見守っては貰えないか」

 礼司は優しげに言い、香はゆっくりと目を閉じて……

「分かりました。礼司様が言うのであれば従います」

「ありがとう。……さて、何が起きるか、見物だ」

 礼司は夕暮れの空を見上げた。


 その頃、街では。

 一人の少女が走っていた。

 その少女は商店街を走り、叫んでいた。


「大変、大変!」

「おやっ、縁ちゃん」

 突然に呼び止められた。

「八百屋のおっちゃん! 今日も気合いで野菜売っているかい!」

 ナイスガイのポーズで言った。

「おうよ! いつも新鮮だぞ。どうだ、買って行くか?」

「はは、遠慮しとくよ。私は行く所があるから。じゃ、おっちゃん、またね」

 少女は笑顔で走り出した。

 その少女は制服を着ていて、赤い髪が特徴的だ。

「ははっ、相変わらずだな……縁ちゃんは」


「はぁ、はぁ。大変に面白くなりそう! 飛鳥、まだやっているかな」

 

 縁は夕暮れの空を見上げ呟く。

「静ちゃんの執事か……どんな人かな。ワクワクだよ!」

 そして、縁は再び走り出した。

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