第226話 その先は


外で待機していた従者を呼び、お茶を用意して貰った。

三人で丸いテーブルを囲み、お茶を飲みながら話しをすることにする。



「アシュリーには、ひとまず俺の馬車に乗って、オルギアン帝国へ向かって貰う。助け出した聖女を、そのままここで解放だけする訳にはいかないのでな。」


「うん、分かった。」


「何もオルギアン帝国まで来なくても良いんだ。いや、来て貰っても勿論構わないが……」


「……そうだな、途中迄で良い。それからは、歩いてオルギアン帝国まで行く。」


「そうか……その依頼が終わった後、どうするつもりでいる?」


「え……それは…母を探す……」


「空間移動しようにも、何かに阻まれて行けねぇんだよな?」


「あ、うん……そうなんだ……」


「そうか……母親に会う事が出来たら、アシュリーはどうする?」


「え……それは……また…母と旅をする……?」


「そうなのか?」


「………」


「んな事、会ってみねぇと分かんねぇだろ?それ聞いてどうするつもりだよ?」


「いや……ただ聞いてみただけだ。」


「それより、アシュレイが受けた依頼なんだけどよ、誰が何の為に出した依頼か分かんねぇか?」


「それはこちらでも調べているところだ。まだ何も分かってはいない。」


「そうなんだな……まぁ、行けば分かるんだろうけどな。」


「あ、ディルク、ここを出ていく前に王都の街を見て回りたい。それは良いかな?」


「あぁ、そうしたいのであれば構わない。一緒に回るか?」


「うん!」


「俺も行くぜ?」


「うん、エリアスも一緒に行こう!」


「あぁ。」


「ん?」



何やら、エリアスとディルクが見つめあってる……


なんか……変な空気だ……


でも、さっき……ディルクに母に会えたらどうする?って聞かれたけど、戸惑ってしまった……


何故私の元から離れて行ったのかを知りたい。


けど、知った後は?


また一緒に旅をする?


母はどうしたい?


もしかして、私達は何かから逃げていたのかも知れないけど、それを聞いた後どうする?


母を探す旅をしているけれど、会った後の事は考えていなかった……


いや、違う。


以前なら……一人で旅をしていた頃なら、会えたらまた今までと同じ様に、母と旅をするつもりでいてた。


けれど、色んな疑念が出てきた今となっては、知った後どうすれば良いのか、なんて考えてもいなかった……



「アシュリー?どうした?」


「え?あ、ううん、なんでもない……」


「そう言えばアシュリー、マルティノア教国の教皇を倒したそうだな。」


「え?!なんで知ってるんだ?!」


「情報は色んな所から上がってくる。大きな力を持つ者は、それ相当の事案が降りかかってくる。あまり無理をしないようにな……」


「うん……」


「アシュレイは俺の事を思って、マルティノア教国を正しに行ったんだ。」


「エリアスの事は調べさせて貰った。エリアスは言わば、あの国の犠牲者だ。しかし、教皇のいなくなった国は放っておけば、破綻していくのが目に見えていたのでな。オルギアン帝国の属国とする事にして、新たにマルティノア国として再建させた。」


「もうそんな事しちまったのかよ!」


「少しの間でも、人々の生活を脅かす事は出来ない。他国が手を加えるより、オルギアン帝国が手を加えた方が、情勢は安定するだろうしな。」


「俺達の後始末をしてくれたって訳か……」


「いや、これはこちらも望んでいた事なんだ。正直助かった。これで不遇な境遇であった者達や、人々に染み着いた悪しき感情を持つ者達も無くならせて、皆が貧富の差がなく正常に戻って行けば良いと思っている。それのテコ入れが出来て良かったよ。」


「ディルク……」


「すげぇな……」


「凄いのは、その切っ掛けを作ってくれたアシュリー達だ。」


「あの国を助けてくれて……ありがとな……」


「それはこちらの台詞だ。それと、これは別の話になるが……エリアス、君に聞きたい事がある。」


「え?なんだ?」


「君の手首には、腕輪があると思うが……」


「なんで知ってんだよっ?!」


「……それも調べて分かった事だ。」


「すげぇな……オルギアンの情報網は……っ!」


「その腕輪は、精霊と交流が出来る石が付いているが、元は能力制御の腕輪なんだ。」


「やっぱりそうなんだ!」


「気づいていたのか?!」


「先日俺が生まれた村へ行ってよ。そこで俺の持つ能力が分かったんだ。けど、今は俺にはそんな特別な能力なんて使えねぇ。物心ついた頃からあるモンってのは、俺にはこれしか無かったから、この腕輪のお陰で俺の能力が抑制されてんのかもって思ったんだ。」


「そうなんだな……」


「ディルクは?!ディルクにはどんな能力があるか、分かる?」


「……いや……それはまだ……」


「そうなんだ……」


「俺にも腕輪が着いているが、これを外すのは、対になったもう一つの腕輪が必要だと分かったんだ。」


「俺の腕輪が必要なのか?!」


「そうだ。」


「外した後、この腕輪はどうなるんだ?」


「それは分からない……」


「じゃあ、迂闊に外せねぇよ。俺の能力、知ってっか?触った奴の光を奪うんだぜ?質が悪いだろ?!」


「それはそうだが……」


「ディルクは腕輪を外したいの?」


「そうだな……出来ればそうしてみたい。」


「じゃあ……どうすれば良いかな……」


「無理にエリアスに協力を要請はしない。でも、もし外したくなったら連絡して欲しい。」


「どうやって連絡すりゃあ良いんだよ?」


「それはアシュリーに言ってくれれば、話が出来る。」


「え?!そうなのか!?」


「あ、うん。」


「俺の知らないところで、連絡取り合ってたのかよ……」


「それの何がいけない?」


「いけないとか、そんなんじゃねぇけど……」



その時、ノックの音がして、ゾランがやって来た。

報告がある、と言って、ディルクを部屋の外へ連れ出して、部屋には私とエリアスの二人になった。



「アイツ、やっぱすげぇな……」


「え?」


「いや……今は良いか、そんな事……」



そう言って、エリアスが私の手を握ってきた。

両手で私の手を包む様にして、自分の額まで持っていって目を閉じる。



「アシュレイが無事で良かった……心配で気が狂いそうだった……」


「エリアス……ごめん……」


「良い。無事ならそれで良い。頼むから……もう一人でどこにも行かないでくれ……」


「うん……」



エリアスが、私の手にキスをする……



「エリアス……」



不意にノックの音がした。

ビックリして思わず手を離して、入るように促した。

ディルクとメイド達が入って来た。

それは、オルギアン帝国のメイド服を着た者達だった。



「アシュリー様、お召し物のお着替えを……」


「え?」


「今アシュリーが着ているのは、グリオルド国の法衣だからな。それをオルギアン帝国の法衣に着替えて貰う必要がある。アシュリー用にあつらえさせた。」


「え、採寸もしてないのに、なんで……?」


「大体分かっているからな。」


「え、何?ディルク、なんで分かるの?!」


「では、男性方は退室をお願い致します。」



言われて、ディルクとエリアスは部屋から出て行った。


ディルクにそう言われていたのか、メイド達は私の手に触れる事なく、着替えを手伝ってくれた。

法衣のドレスは、私にぴったりだった。

それから、髪を整えて何故か化粧まで施された。


用意が終わると、ディルクとエリアスが部屋まで戻って来た。


私を見て、二人は暫く何も言わずにただ立ち竦む様にしてそこにいた。



「あの、ディルク?エリアス?」


「え?……あぁ、アシュレイ、いや、ちょっとビックリしてな……」


「何が?」


「アシュリー……」


「な、なに?ディルク?」


「その肩の傷痕は……」


「え?あ、あれ、この服だと肩が見えちゃうのか。」


「あ、それっ……!……すまねぇ……」


「エリアス、それはもう良いって……」



ディルクが私の肩に手を置く。


少ししてから離すと、傷痕が無くなっていた。



「あれ?!無くなってる!」


「すげぇ……っ!」


「アシュリーの綺麗な肌に、あってはならないモノだったのでな。」


「ありがとう……ディルク……」



従者がやって来て



「お食事のご用意が出来ましたので、こちらまでお願い致します。」



そう告げて、私達を案内していく。


ディルクと腕を組む様に言われて、言われるがままそうする。

私達の少し後ろを、エリアスが護衛の様に歩いている。

見ると、ゾランも後ろからついて来ていた。


部屋に入ると、そこはパーティー会場のような感じになっていて、多くの貴族と思われる人達がそこにはいた。







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