第225話 救助された


扉が勢いよく開けられる大きな音がした。


その音に驚いて、私とニコラウスは扉の方を見る。


そこには、ディルクがいた。



「アシュリー……!」


「ディルクっ!」



壁に追いやられている私を見て、ディルクは急いで私達の所までやって来て、ニコラウスの襟ぐりを後ろから鷲掴みにすると、そのまま後ろに投げ捨てた。


ニコラウスは吹っ飛ばされて転げて行った。



「アシュリー!大丈夫か?!何かされたのか?!」


「ディルク、大丈夫!何もされていないから……」



言い終わる前に抱き締められる。


あぁ……


やっぱりこの腕の中は安心する……



「おい、お前っ!なんて事をするんだ!」



ニコラウスがディルクに向かって怒り出す。

きっと投げ飛ばされたのも初めての事だったんだろう。

ニコラウスは顔を真っ赤にして、私とディルクの元まで来ようとした時に、また後ろから襟ぐりを掴まれて投げられる。



「ったく、アシュレイに何してんだよ!」


「エリアスっ!」



ディルクに抱き締められている事が急に恥ずかしくなってすぐに離れようとしたけど、ディルクが私を離そうとしない。


エリアスは私を見て安心したように微笑んだけれど、ディルクに抱き締められているのを見たくない、と言った感じで、顔を横に反らす。



「お前達っ!この僕にこんな事をして、ただで済むと思うなよっ!!」



言いながら、後から入って来たシルヴィオ王と従者を見て、ニコラウスは嬉しそうに側まで駆け寄った。



「兄上っ!この者達をすぐに捕らえて下さいっ!僕に攻撃したんですっ!今すぐ極刑にして下さいっ!!」


「この馬鹿者がっ!」



シルヴィオ王は、ニコラウスに思いっきり平手打ちをかました。

また投げられた様に倒れて、ニコラウスは何が何やら分からない、と言った顔でシルヴィオ王を見る。



「誠に申し訳ございません!我が弟が貴方の聖女様に……っ!」


「アシュリーは何もされていない、と言っていた。が、その者にはもう一度きちんとした教育をした方が良いだろう。何でも思い通りに出来る、と常日頃思っている様だ。……その者には財務整理をさせているんだな。横領している額が多すぎる。すぐに担当を変えるべきだ。……このままではこの国の先が思いやられるぞ。」


「は、はい!直ちに調査し、改善致しますっ!」


「兄上っ!違いますっ!こんな奴の言う事を聞くなんてどうかしていますっ!それより、こいつ等をどうにかして下さいっ!」


「黙れっ!リドディルク皇帝陛下になんて口の聞き方だっ!」


「え……?」


「ニコラウスを連れて行けっ!」



直ぐに従者がニコラウスを捕らえ、呆然とした顔のままのニコラウスを連れ出して行った。



「リドディルク皇帝陛下……本当に申し訳もなく……」


「今は良い。アシュリーにここに来てからの事を聞く。事と次第によっては、俺はどうなるか分からんがな。」


「……っ!」


「ディルク……そんな言い方……」


「これでも穏便に済ませているんだ。俺のアシュリーに何かあったら、この国等どうなろうと知った事ではない。それ相当の報いを受けさせるのみだ。」


「ディルクっ!」


「アシュリーは何も気にしなくて良い。シルヴィオ陛下、また後程話しをしよう。」


「はい……お部屋はご用意させて頂いておりますので、他に必要な事等あれば、外に待機させている従者になんなりと……」



そう言って、シルヴィオ王達は出ていった。


後に残ったのは、私とディルクとエリアスの3人だった……


なんか……気まずい……



「ディルク、この国がどうなろうと構わないなんて、そんな事……」


「あぁ、あれは牽制して言っただけだ。本気でそんな事をするつもり等無い。アシュリーに手を出すとどうなるか、分からせておかなければいけないのでな。」


「それなら良いんだけど……あ……あの、ディルク、離して……?」


「嫌だ。」


「でも……」



私の困った顔を見て、ディルクは仕方ない、と言った風で、そっと離してくれた。


ディルクの手を離れて、ゆっくりエリアスの元まで行って



「エリアス……勝手に出て行って……こんな事になってごめんなさい……」


「いや、俺の方こそすまなかった。余計な事言っちまったから……」


「ううん……今回は皆に迷惑かけちゃって……迂闊な行動だったって反省してる……」


「まぁ……アシュレイが無事で良かった。」


「あ、そうだ、アンナが人質にっ!」


「アシュリー、心配しなくて良い。それも手配はさせた。彼女は明日にでも解放されるだろう。良ければ、解放前に会いに行くか?」


「うん、ありがとう。あ、それと!エリアスの指名手配の……!」


「それもディルクがちゃんとしてくれたぜ?」


「そうなんだな!ありがとうっ!ディルクっ!」


「礼等必要ないと言っただろ?エリアスにはオルギアン帝国のSランク冒険者となって貰った。縛り付けるつもりはないがな。」


「え……」


「他で依頼を受けて貰うのは構わない。が、ギルドが他国のSランク冒険者に依頼を流す事は無いとは思うが……」


「そんなの……っ!」


「アシュレイ、大丈夫だ。旅をしてたら、依頼を受ける暇もねぇしな。依頼とかなくても、俺は稼げるし、気にする事はなんもねぇよ。」


「規定により、2年間はオルギアン帝国のSランク冒険者となっていて貰うが、それを過ぎればAランクに戻る事も可能だ。それに依頼を受けずとも、国から毎月報酬が出る。それで何もせずとも生活はできる。」


「んな金、いらねぇよ!」


「手続き上、これは仕方の無い事なんだ。受け取って貰わなければ、こちらが困ってしまう。」


「アンタが困るのは知ったこっちゃねぇよ!」


「エリアス……ごめん……」


「なんでアシュレイが謝んだよ?!」


「だって……」


「それは言いっこ無しだって言ったろ?この話しはこれで終わりっ!な?」


「うん……」


「では、これからの事も含めて話をしようか。」


「ん?話?」



そうか。


私はオルギアン帝国に行く途中でこうなったんだ。


それも踏まえて、どうしていくか話をしないといけないんだな……


ちょっと気まずい雰囲気の中、三人で話しをする事なった。





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