第195話 指名依頼


夕食を摂る為に、ギルドの酒場に二人で向かう。


もう日が落ちてきた頃なので、冒険者達が帰ってきていて、受付に人が多かった。


入り口から、向かって右側の奥にある酒場へ行こうとしたら、ギルド職員に声をかけられた。

見ると、それはコレットだった。



「アシュレイさん!お久し振りです!」


「コレット!久し振りだ!昨日はいなかった!」


「昨日、私は休みだったんです。アシュレイさん、Cランクになられたんですよね!おめでとうございます!」


「え?もう知っているのか?!」


「勿論ですよ!アシュレイさんは、今このギルドでは時の人となっているんですから!」


「そうなんだ……」


「私もアシュレイさんの模擬戦、見たかったです!」


「そんな大したことは無いよ?」


「噂では、圧倒的だったと聞いてます!」


「そんな事は……何でも尾ヒレってつくから……」


「あ、そうだ、それから!」


「ん?」


「凄いですよ!昨日の今日で、アシュレイさんに指名で依頼が届いています!」


「えぇ?!もう?!」


「こんなに早くに指名されたのは、今迄どなたもいませんでした!凄いです!」


「いや……でも、私がCランクになったって、どうやって知ったんだろう?」


「ギルドの情報は常に開示されてますからね。特に昨日は、ちょうど夜にギルドの総会があったんです。加盟国が毎年どこかの国でするんですけど、今年はインタラス国の王都、ここで開催されたんです。それで、情報が行き渡ったんだと思います。もしくは、来られてた国の方が、昨日の模擬戦をたまたま見ていたとか……?」


「そうなんだな……どんな依頼だろう?」


「あ、依頼書をお持ちしますね!少々お待ち下さい!」


「すげぇな、アシュレイ。もう指名依頼がきたとはなぁ……もしかしたら、コレットの言う通り、昨日の模擬戦を見てたかも知んねぇな。でも、嫌なら断りゃぁ良いからな?」


「うん。分かった。」



少ししてコレットが戻って来た。



「はい、こちらが依頼書です。どうぞ!」


「ありがとう。」


「どんな依頼なんだ?」


「……オルギアン帝国からだ……」


「オルギアン帝国だぁ?!何であんな所から!内容は?!」


「……詳しくは、直接話すって……だから、オルギアン帝国まで来て欲しいと書いてある。」


「なんだ?その依頼!怪しくねぇか?!あそこはお抱えのSランク冒険者が何人かいる筈だぜ?わざわざ昨日Cランクになったアシュレイに依頼出すか?」


「それはどうなのかは分かりませんが……依頼内容を隠すのは、たまにありますね。情報漏洩を恐れての事が殆どだとは思います。オルギアン帝国は最近皇帝が代わられてますしね。」


「あぁ、それなら聞いた。皆、この国も属国になるのか、不安がっていたよ。」


「今回即位されたリドディルク皇帝は、まだお若く堅実だと噂で聞きました。その皇帝の出方によるかも知れませんが、噂通りであれば今は安心して良いかと……」


「コレット……今、何て……?」


「え?あの、皇帝は堅実な方だと……」


「違う、皇帝の名前だ!」


「あ、はいっ!リドディルク皇帝です!」


「コレット!それマジか?!本当に皇帝の名前はリドディルクっつうのか?!」


「え?!は…い、その様に……聞きました……あの……どうされました?」


「いや……何でもねぇ……悪かったな。」


「そうですか……?アシュレイさんも……大丈夫ですか?何か……顔色が……」


「大丈夫だ!腹でも減ってんだろ。ここには飯を食いに来たからな。じゃあな、コレット!」


「え……あ、はい……」



不思議そうな顔をしているコレットと別れて、エリアスに連れられる様に酒場へ行き、奥の方のテーブルに座る。



「アシュレイ、大丈夫か?」


「………」


「……アシュレイ?」


「……え?……あ、うん……あ、何食べようか?」


「……リドディルクって……あの、ディルクって奴の事だよな?」


「………うん……多分……」


「何にも聞いて無かったのか?」


「……うん……」


「そっか……」


「…………」


「依頼……オルギアン帝国からだろ…?それはどうする?」


「あ……うん……どうしよう……」


「気になるんなら、行ってみても良いんじゃねぇか?まぁ、行って何が分かるか、分かんねぇけどな。」


「……うん……」


「……んな顔すんな!俺も一緒に行くからよ!」


「……エリアス……」


「ん?どうした?」


「お腹すいた。」


「あ、そうだな、まだ何も頼んでねぇな。おーい、注文取りに来てくれ!」



エリアスの気遣いと優しさが有り難かった……



ディルク……



あれから何度もピンクの石を握っても、ディルクと話す事が出来なかった。



時々石は光ったけど、すぐに握っても、やっぱり話しは出来なかったんだ……



石が光ると言うことは、ディルクも私を想ってくれているって、信じても良いって事なんだよね……?



ディルク……



私は……



オルギアン帝国に行く。






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