第194話 エリアスの夢


ベッドに腰かけると、エリアスも私の横に座ってきた。



「悪かった……怒った訳じゃねぇ……」


「うん……自分でも、何でああなっちゃうのか分からないんだ……」


「慣れの問題かも知れねぇけど……でも、あの状態のアシュレイは……やべぇ……」


「コントロールできたら良いんだけどな……」


「まぁ、闇の力を使わなけりゃ気にする事でもねぇけどな……で、アシュレイ、これからどうするよ?ちょっと王都でゆっくりすっか?」


「そうだな……うん、剣の事もあるし、暫く王都にいようか?」


「そっか。まぁ、今は金にも困ってねぇし、急ぐ事もねぇからな。」


「うん。」


「じゃあ、今日はどうするかな……アシュレイは行きてぇとことかあるか?」


「王都の事は分からないから……エリアスが行きたい所があるなら、別々に行動するのでも良いし……」


「そうだな、ちょっと行きたい所があるから……やっぱ、付き合ってくれるか?」


「それは構わないけど……」


「じゃあ、行こうぜ!」


「あ、うん。」



エリアスに連れられて歩いて行く。


道中、エリアスは露店で沢山の食料を買っていた。


それから王都の端の方にある路地裏へと入り込む。

そこから進んで、建物に囲まれた、少し開けた場所までやって来た。


そこには、小さな子供や、まだ成人していない子達がいた。



「エリアス……ここは?」


「ここはスラムだ。王都には孤児院はあるが、親がいて孤児院に入れねぇ奴らなんかが、ここに集まって来る。それと、ある程度デカくなっちまってから、身寄りが亡くなった未成人とかな。」


「あ!エリアスだ!」


「わぁ!帰ってきたの?!」


「エリアスっ!お腹すいたぁ!」


「久し振りだな!飯持って来たぞ!」



エリアスはそう言って、土魔法でテーブルと椅子を作り出し、買ってきた大量の食料をその上に出す。


あちこちから、ワラワラと子供達や、大人達も集まり出してくる。



「ごめんな、なかなか来れなくてよ。いっぱい買ってきたから、いっぱい食え!」



私もエリアスと一緒に、食事の用意をする。


そうか、エリアスは王都でいつも、こんな事をしていたんだな……


ふと見ると、思ったより人が集まって来ていた。



「エリアス、これじゃ足らないかも知れないから、炊き出しでもしようか?」


「良いのか?」


「当然だ!」



土魔法で釜戸を作り出し、大きな鍋を出して火にかけて油を熱して、買いだめしておいた新鮮な野菜と牛鴨の肉を細かめに切った物を入れて炒めて、塩を入れて味を馴染ませてから、酒を入れる。

旨味が出てきたら水魔法で出した水を入れて、調味料で味を整えていく。

沸騰してきたら火力を少し下げて、小麦粉を水で練って丸く薄くして茹でておいた物を中に入れて、ひと煮たちさせてから火を緩める。



「出来たよ!」



私がそう言って振り返ると、手に器を持った人達がズラリと並んでいた。

私が調理をしている間に、エリアスは器を魔法で作り出していた。


そこに料理を入れていく。


皆、美味しいって言いながら食べてくれていた。



「そうだろ?アシュレイの作る飯は何でもすげぇ旨めぇんだぜ!」


「うん!こんなに美味しいのを食べたのは、生まれて初めてだよ!」


「本当に!有難てぇ……っ!」


「おい、泣くなよ!まだあるから、寝たきりの母ちゃんにも持って帰ってやんな?」


「そうか……ここに来れない人もいるんだな……」



私は大きな鉄板を取り出して火にかけ、切ったワイバーンの肉を焼いていった。



「アシュレイはなんで、そんなでっけぇ鍋やら鉄板やら持ってんだよ?」


「え……?えと……皆で食べられる機会があれば良いなぁって思って、昔店で見つけた時に買っちゃったんだ。でも、使ったのは初めてだ。使えて良かった!」


「切ねぇな……」


「あ!エリアス、お皿作って!」


「あ、そうだな、分かった。」



それから、塩と香草で味付けしたワイバーンの肉も、皆に配って行った。

オークの肉もあったので、それもまとめて焼いていった。

オークの肉は、甘辛いソースを作って、それを上からかけて仕上げた。


皆口々に、美味しい、初めて食べた、旨い、温かい食べ物が久し振りだ、ありがとう、等と言って、嬉しそうに食べていた。


ここに来れない人にも持って帰ってあげるように言って、食事は終わっていった。


エリアスは後片付けをしていたので、私は、ボロボロだったスラムの家や通路を、浄化魔法に回復魔法を分からないように混同させて、汚れを落として、朽ちていた建物を軽く治した。


そして、水魔法で出した水に少しの回復魔法をかけて、その水を薬だと言って病人がいる家の人に渡した。


それから、汚れてボロボロの服を着た子達には、浄化魔法で汚れを全て取り除いていく。


キレイになった子供達や、大人も凄く喜んで、それから何度もお礼を言って帰って行った。

私達もなんだか嬉しくなって、ニコニコして帰って行く。



「アシュレイ、ありがとな。あんなに嬉しそうな顔したアイツら見たの、初めてかも知んねぇ。」


「エリアスはいつも、ここではそうしてたんだな。凄いな。」


「俺が出来る事は限られてる。でも、放っておけなくてな……」


「うん……」


「やっぱ、アシュレイは他の女とは違うな。」


「ん?何が?」


「いや、今迄何回か、スラム迄ついてきた子がいたんだよ。何か、一緒にどっか行こうって言ってきて、俺は行くところがあるって言ったら、ついて行きたいって言うから。でも、スラム迄来たら、皆用事を思い出したって言って帰って行くんだ。女って、そんなもんだと思ってたよ。キレイなモンが好きで、嫌なモンは見たくねぇって感じがして……」


「そんな人ばかりじゃないとは思うけど……」


「そうかもな。でも、ここまで一緒にしてくれたのは、アシュレイが初めてだ。ありがとな。」


「お礼を言われる事じゃないよ……」


「俺さ、いつか、孤児院を作りてぇんだ。どこにも行けない子達を、辛れぇ思いをした子達を楽しく笑顔に出来る、帰りたくなる家を作ってやりてぇんだ……」


「エリアス、それは凄く良いな!エリアスなら、きっとそんな孤児院を作れると思う!」


「そん時に……アシュレイが一緒にいてくれたら良いと思ってんだけど……」


「え……」


「嫌か?」


「嫌とか……そう言うんじゃないけど……」


「まぁ、まだまだ先の話だ!腹へったな、ギルドの酒場にでも行くか?!」


「あ、うん!」



それから夕食を食べに、私達はギルドまで行ったんだ。






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