第186話 闇の力


エリアスが邪神のオーラに抗って苦しんでいる……


地中には、教皇に操られたせいで埋められた教徒達がいる。


首を晒された子供達。


逃げ出しただけで殺されてしまったエリアスの友だち達。


戒めだと手足を切られて見世物にされたアデル……




こんなこと……




許せる筈がない!!






「テネブレ……」



黒い光の粒が集まって、テネブレが私の元に現れた。



「アシュリー!会いたかったぞ?」



テネブレは私の身体中を纏わり付く様に這う。



「テネブレ……アイツを……教皇をやっつけたい……どんな事をしてでも……アイツを……っ!」


たぎるねぇ……嬉しいぞ?」



テネブレが嬉しそうに、私の中に入る様に重なってきた。


身体中がテネブレに侵食されていくような感覚に襲われる……


足先……指の先……髪の毛の一本まで……全てが闇の力に飲まれていく……


ルキスと重なった時とは違う……


何だ……この感じは……!?




「ア、シュレイ……?」


「アシュリー……その姿は……」



エリアスの瞳には、長くなった髪が暗闇色に染まり、闇の瞳を持ち、黒の衣装を身に纏った、妖艶で美しい姿をした、異様なオーラに包まれたアシュレイと思われる女性の姿が写されていた。



その姿を見て、初めて教皇が恐怖に顔を歪ませた。



ゆっくりと、教皇の前まで歩いて行く。


あちこちから光の矢が飛んで来るが、私の身体に当たっても、受け入れる様に全て闇が吸収して消して行く。


教皇の前に張られている光の壁を手で払うと、難なく壊れて消えた。



「なんだ?!お前はっ!来るなっ!近寄るなぁぁっ!!」



恐ろしいモノでも見るような、恐れおののく教皇の姿が可笑しくって、思わず笑みを浮かべながら、逃げようとするも動けなくなった教皇の頭を左手で掴んだ。



「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」



頭を掴まれた教皇が、見る見るうちに生気を吸われた様に痩せて行き、そして干からびていった。


手を離すと、教皇はその場に崩れ落ちた。



「呆気ない……こんな簡単に死んじゃうんだな……」



思わず、ふふふ……と笑いがこみ上げる。



周りに残った、邪神のオーラを全て吸収するように自分の手の中に収めていくと、オーラに操られていた者達が、バタバタと倒れだした。


エリアスを苦しめていたオーラも、全て手の中に吸収させた。


光の壁を作り出していた教徒の者達も、事切れた様にその場に崩れた。



「こんなものなのか……つまらない……」



私は辺りを見渡して、向かってくる敵がいなくなったのを残念に感じた。


そのまま、教会の中まで進む。


それを見たエリアスとルキスも、私の後に続いた。


事が終わったと思ったのか、いつの間にかヴェパルは消えていた。


教会の一階奥にある、地下へと続く階段を降りて、一番奥にある大きな扉の前にやって来た。


両手に魔力を這わせて、その扉を開ける。


中へと進むと、祭壇があった。


その祭壇に両手をかざすと、辺りが白く耀き出した。


眩しい位の光の中から、一人の美しい女性の姿が現れた。



「すげぇ……」


「貴女は……アフラテス様……」


「私の封印を解いてくれてありがとう……アシュリー……」



アフラテスはニッコリと微笑んだ。


あぁ……そうか


一緒に封印されていたのか……



「心優しい人達……貴方達に加護を……」



アフラテスは腕を広げて、私達を包み込む様にすると、優しい光が体を覆った。



「ルキス……貴女も力を貸してくれたんですね。ありがとう。」



ルキスが光出すと、その様相が変わっていた。


纏うオーラが格段に上がっていた。


ルキスは上位精霊となったのだ。



「アフラテス様……ありがとうございます。」



ルキスが微笑んで、周りを緩やかに飛びながら、光と共に消えて行った。



「テネブレ……もう良いのよ?出ておいでなさい?」



アフラテスがそう言うと、私から何かがゴッソリ抜けていく感じがした。


その脱力感に、思わず膝から崩れそうになったのを、エリアスが支えてくれた。



「ハハハハっ!アシュリー!お前の中は素晴らしい!いつでもお前と交わってやろうぞ!ハハハハっ!」



私の周りを撫でる様に這って、テネブレは黒い光の粒となって消えて行った。



「あれ……?…私……」


「アシュレイ、分かるか?覚えてるか?」


「うん……自分じゃない感じがずっとしてて……でも……覚えてる……」


「よっぽど貴女が好きなのね?テネブレは……。あれは精霊王にもなれる力をもった精霊なのです。神にも匹敵する……いえ、それ以上の力を持っているわ。貴女との相性がすごく良いのね。でも……飲まれない様にしなさい。」


「……はい……」


「これを貴女は探していたのね?」



アフラテスの手から、白く輝く石が出てきた。



「持っていきなさい。助けてくれたお礼よ。」


「ありがとうございます。」


「こんな所にあったのか!」


「女神と一緒に封印されていたから、見えなかったんだ。」


「そうだったんだな……」


「あの、アフラテス様……これからこの国はどうなりますか?皆邪神の影響で……」


「ええ、見ていたので分かっていますよ。後は私に任せなさい。この地を浄化し、人々を元に戻します。時間はかかるかも知れませんが、邪神に侵食される前のマルティノア教国となるように、私が尽力致します。」


「お願いしますっ!」


「ふふ……私達の為にありがとう。エリアス……貴方も辛かったわね……何も出来ずにごめんなさい……。」


「………いえ……」



エリアスは唇を噛み締めて、我慢しているようだった。


この国を変えられたからと言って、犠牲になった人達が戻って来る訳じゃない……


それでも、これから犠牲になる人がいなくなっていく事を思って、今は心を落ち着かせなければ……



それから、エリアスはストラスを呼んだ。

ストラスに子供達の首を持って来て貰ったのだ。

教会の中には首以外の体の部分が、折り重なる様に乱雑に放置されていた。


一人一人寝かせて、首を元の体に合わせて行く……


私とエリアスの目からは、勝手に涙が流れていた。



「やっと触ることが出来て……それがこんな形で叶うなんて……」


「アシュレイ……」


「この子達の温もりが……もう…感じられないんだ……もっと……温かかったんだよね……?」



不意にエリアスが私を抱き寄せた。


私はエリアスにしがみつく様にして泣いた……


エリアスも一緒に泣いていた……





暫くして、アフラテスが子供達を天に還す……




私とエリアスは、膝を折って、指を組みながら祈って、静かに子供達を見送っていった……






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