第184話 教皇


法衣に身を包んだ教徒達。

それに、武装された兵達が私達の周りを取り囲んでいた。


私達二人に対して、何百人用意したんだ……?!


兵達の後ろには教徒達がズラリと並んでいて、その後ろに法衣の色が違う教徒の男達が並んでいる。

恐らく後ろにいる者達が高位の者達なんだろう。


兵達の後ろにいる教徒達が、首を刺した木の棒を片手に持ち、含み笑いをして私達を見ている。




こんな事を……



平気で……



笑いながら……!



あり得ないっ!!




「アシュレイ……落ち着け……俺も同じ気持ちだ。……分かるな……?」


「……あぁ、エリアス……分かっている……!」



私達は背中合わせになった。


エリアスは結界を張る事で覚えた、結界解除の魔法を発動させて、兵達の周りに張り巡らせた結界を解除していく。


それを確認してから、私が雷魔法を周りにいる者達に放つ。


感電した兵達が、次々と倒れて行く。


しかし、兵達の後ろにいた教徒達は倒れなかった。

教徒達には更に強力な結界が張られていた、と言うことか……!



「ストラス!」



エリアスがそう叫ぶと、目の前に強い竜巻が起きて、その竜巻がおさまると、そこには淡い水色の短い髪をはためかせた精霊がフワリと浮いていた。


風を纏わせながらエリアスの側までやって来たストラスは、嬉しそうにエリアスの周りを回りだした。



「ストラス、アイツ等が持っている首を取り上げてくれねぇか?」


「ヒドイ事をするんだね!ああ言うのは嫌いだ!」


「気が合うな。俺もさっきからハラワタが煮えくり返ってんだよっ!」


「分かった!」



ストラスは強い風を纏って、首が刺さった木の棒を持つ者達の元まで竜巻を起こしながら行き、結界もろとも吹き飛ばした。


吹き飛ばされた教徒達はその後落下し、そのまま気絶した。



「ありがとな!ストラス!預かっててくれ!」


「お安いご用だよ!」



ストラスはそう言って、子供達の首と共に何処かへ消えた。



「エリアス…ありがとう!今、魔素を集めてる!時間を稼いで欲しいっ!」


「分かった!任せろ!」



エリアスが魔眼を最大に発動させる。


しかし、その魔眼が効いた者は、僅か数人だった。



「しっかり対策してやがる……!ここまで俺の魔眼が効かねぇとは、笑かせてくれるぜ!」



炎の槍がいくつも飛んできた!


それをエリアスが無効化させるも、数が多すぎて間に合わない。


すぐに結界を発動させる。


いくつもの火の攻撃があちらこちらから降り注ぐようにやって来る。


しかしこのままでは、防ぐ事が出来ても攻撃は出来ない!



「仕方ねぇ……!ヴェパルっ!」



エリアスが叫ぶと、どこからともなく水が沸きだし、その中から深い青の濡れた髪が艶かしい、身体に鱗を纏った妖艶な精霊が現れた。


ヴェパルは何も言われずとも、降り注ぐ火の攻撃を、全て無に返していった。

それから、火魔法を使っている術者を、水の中に引きずり込む様にして溺れさせて行く。

息が出来なくなった者達はもがき苦しみ、そのまま絶命していった。



「ハっ……!相変わらず容赦ねぇなぁ!」



最初は余裕の笑みで見ていた者達も、段々顔が青褪めて行き、エリアスに集中攻撃を始めた。


土の槍が地面から突き出してくるかと思えば、遠くから氷の矢が無数に飛んでくる。

風の刃も飛んでくる。

稲妻が空から降ってくる。



「くそっ!何でもアリかよっ!」



ヴェパルは土の槍を水で泥にしてくれる。

無数の氷の矢も水に帰す。

それから次々と術者を水で飲み込んで行く。

水から逃れた者達は安心するも、体からは無数の蛆が這い出て来た。

内蔵を食い散らかす様に腐食された教徒達は、苦しみ喘ぎながら次々と倒れて行った。

ヴェパルは、こと戦闘に関しては強力な力を持った精霊だった。

ヴェパルの力で、かなりの教徒が絶命していった。


エリアスは、襲ってくる風の刄や、頭上から落ちてくる稲妻を無効化させながらも、私の結界を強化させている。

それから氷の矢や、雷魔法を放つ事も忘れない。

エリアスの魔力が心配だ……!



「エリアスっ!ありがとう!今から浄化魔法を発動させる!」


「あぁ!頼んだぜ!」


「ルキスっ!」



眩しい光がはためき、ルキスが姿を現した。


ルキスが私と重なって、浄化魔法を発動させる。


集めた魔素を魔力に変換させて、光魔法を首都全体に行き届かせる。


光に飲まれた教徒達は、次々と倒れて行く。


所々、法衣を残して消え去って行く者達もいた。


エリアスと背中合わせで、それでもまだ倒れない高位の教徒を睨みながら、お互いの状況を確認する。



「アシュレイ……何人か消えたけど、何でだ?」



息を切らせなが、エリアスが聞いてくる。


私も肩で息をしながら答える。



「今回の光魔法を、ルキスに頼って強化したんだ……あまりにも脳に悪い影響があって改心出来ない者は、それに耐えきれずに体も浄化してしまったんだ……本当はそこまでしたくはなかったんだけど……」


「我慢の限界ってヤツだな……」


「あぁ……許せなかったんだ……でも、強化しても、高位の教徒達は浄化されないで立っている……!浄化魔法が効いてない……っ!?」


「何なんだ?コイツら……普通じゃねぇ……っ!…アシュレイは魔力は……大丈夫か……?」


「まだ少し……残している……エリアスは?」


「俺もまだもう少しは……問題なく使えると思うぜ?」



不意に凄く嫌な気配がして、すぐに教会の奥に目をやった。


そこからは5人の男達がゆっくり歩いて出て来た。

その中央の、紫の法衣を着た初老の男が私達を微笑みながら見ている。



「いやぁ、こんなにお強いとは知りませんでした。お陰で私の可愛い信者達がこんな目にあってしまいました。」


「おめぇら……なんで平気なんだ……?」


「私は光を司る神、アフラテス神の申し子と言われているんですよ?そんな私に、光魔法が効く訳ないじゃありませんか!」



男は声高らかに、ハハハハハハっ!と笑っている。



「おめぇが……教皇か…!」


「おや、言葉遣いがなってませんねぇ。私は教皇ですよ?言わば、国の王と言われる立場の者ですよ?慎んで欲しいものですねぇ。」


「神の申し子?!そんなヤツが子供達の首をっ!あんな風にするなんてっ!あり得ないっ!!」


「あれは仕方が無かったんですよ?我らの教えに反していましたからねぇ。教えに従えない者がどうなるか、貴方達に見せてあげたくてね?貴方達が余計な事をしたから、あの者達はああなったんです。少しの偽善で救った気になるなんて……ハハハ、烏滸がましいにも程がありますよ。いかがでしたか?分かって頂けましたか?」


「……っ!お前みたいなヤツがっ!神の申し子な訳がないっ!!」



両手を前に出し、しっかりと狙いを定めて闇魔法を教皇に放つ!


しかし、それは光で遮られた。


教皇の周りにいる4人の教徒達が、教皇を守るように光の壁を作り出していた。



やはりただ者ではない……!



これからが本当の戦いになる……!






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