第177話 ラリサの道程3
少しして、アシュリーと名付けた女の子にも、異常な現象が起こる。
何故かアシュリーに触れた者達は、アシュリーの事を忘れてしまうのだ。
それから時々、アシュリーを恐ろしい者でも見たかの様に、恐怖に駆られて逃げ出して行く。
この子にも異常な能力があると悟ったが、迂闊にもう一つあった腕輪を着ける事ができなかった。
またこの子にも、とんでもない負担がかかってしまうかも知れない……
そう思うと、アシュリーには腕輪を着ける事が出来なかったのだ。
二人の我が子は、離すと泣き出し、そばに置いてやると、安心した様に機嫌が良くなる。
ずっとお腹の中で一緒にいたから、二人でいることが嬉しいんだろうと、寄り添う様に眠っている子達を見て微笑ましく思ったものだ。
そんな折、遠征に出ていたベルンバルトが、私が出産した事を知り、後宮までやって来る事になった。
生まれたばかりの赤子の状態で、この様な異常な能力があるとベルンバルトが知ったらどうなるのだろう……
成長すれば、もしかするともっと何かの能力に開花するかも知れない。
そうでなくても、ベルンバルトに良いように利用されるのが目に見えている。
しかも、ベルンバルトは男と女が生まれたら、その子達で子供を作れば良いと言ったのだ。
この国で、私は子供達をベルンバルトの良いようにさせる訳にはいかなかった。
そんなのは、私だけで充分だった。
あの男は、自分の為や、この国の為ならば、どんな非情な事でも平気でやってしまう。
それはこの数年、この国で暮らして、ベルンバルトの側にいたことでよく分かっている。
私はこの国から逃げ出す事にした。
しかし、産まれたばかりの赤子を二人連れて行くのに不安が残る。
その事を感じたベアトリーチェが、自分に一人子供を預ける様に提言した。
今までの事を、ベアトリーチェだけには話していたので、全てを分かってベアトリーチェは私にそう告げたのだ。
幸い、双子が産まれた事は分かられていない。
一人を、ベアトリーチェの亡くなってしまった赤子の代わりとして育て、一人を私が連れて逃げる、と言う事になった。
ベアトリーチェには、リドディルクを預けた。
もし、アシュリーを残した場合、あのベルンバルトであれば例え我が子であっても、もし銀髪である私との子だと分かった時、私にした事と同じ事をするかも知れない。
いや、ベルンバルトなら必ずそうする。
だから、女の子を置いては行けなかった。
ベアトリーチェは、自分の首にしてあった首飾りを外して、それを私に着けた。
自分の一番大切にしていた宝物だと、ベルンバルトが自分にくれた贈り物だと言って、青の石が綺麗な首飾りを私に渡し、貴女の大切なリドディルクを必ず守るから、私の大切な首飾りも守ってね、と微笑んだ。
ベアトリーチェは、ベルンバルトを愛していたのだ……
そして、その首飾りは、村から奪われた宝でもあった。
ベアトリーチェの首にあるのを見て、それがそうだとすぐに分かったが、その事を言うことは出来ないでいた。
こんな形で戻って来ることになるなんて……
この青い石が着いた首飾りは、精霊の加護がつく効果がある。
能力があれば、精霊と契約もできると言った物だ。
ベアトリーチェから加護が無くならなければ良いんだけれど……
ベルンバルトが来るまで時間がなかったので、すぐにベアトリーチェにリドディルクを託し、後宮にいる使用人達やメイド達に、忘却魔法をかけた。
姉の様に優しかったリーザに忘れられるのが凄く辛かったけれど、私とアシュリーの事だけを忘れる様に魔法をかけた。
それから、ベアトリーチェに何かあれば、リドディルクを引き取って育てて欲しいと言うことと、連れて逃げる子は男の子だと暗示の様に告げて、私は後宮を後にした。
生まれたばかりのアシュリーを連れて、思い残すのは置いて行ってしまったリドディルクの事……
それと、私を探した為に捕まった両親の事……
でも、私はベアトリーチェを信じて、リドディルクを託すしかなかった。
そして、両親よりも、我が子を守る事を決めた事は仕方の無かった事だとしても、悔いしか残らなかった。
もしかすると、もう両親は殺されてるかも知れない……
それでも、いつか必ず助け出すと心に決めた事は忘れた事がなかった。
そうして、私は遅くなったけれど、ここに戻って来たのだ。
アシュリーが成人して、もう私がいなくても生活していける様に成長して……私が一緒にいることで、アシュリーが狙われる事になる方が怖くなって、私はアシュリーから離れた。
美しく成長したアシュリーを、ベルンバルトが無理やり抱く姿を、何度夢に見て恐怖に怯えた事だろう……
美しい姿のまま、美しい心のままで、ずっとアシュリーにはいて欲しかったのだ……
それと……
生まれて間もなく手放したリドディルクに会いたいと言う思い……
それから、リドディルクの腕にある、腕輪の外し方を、両親なら知っているかも知れない。
それらの事もあって、私はオルギアン帝国まで戻ってきたのだ。
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