第176話 ラリサの道程2


後宮に移ってきて、やっと私は落ち着ける場所が出来た。


拐われてから後宮に来るまで、ベルンバルトが側にいない時も、常に従者が側にいてたので、私が落ち着ける事はほぼなかったのだ。


ここでは常に見張られている、と言うことはなく、必要な時に呼べば、私の為に動いてくれる者達がいた。


ベルンバルトも、監視されているストレスもあって子を産むことができない、と思ったか、もう諦めたか、それは分からなかったが、ここで生活をする事が私には安らぎとなったのだ。


それから、近くに住む王妃達との交流も出来る様になった。


その中で気が合ったのは、第10夫人ベアトリーチェだった。


年が近かった事もあり、私達は姉妹の様に何でも話し合える仲になった。


後宮にも、ベルンバルトはやって来る。

そして、どこかの王妃の元へ行き、夜を共にするのだが、特に私とベアトリーチェの所に来ることが多かった様なので、他の王妃からは妬まれていた様だった。


ベアトリーチェには既に子供がいて、名前はアンネローゼと言う、とても可愛らしい女の子だった。

私は幼いアンネローゼとよく遊んだものだ。

子供が出来るとこんな風に楽しいんだなと、彼女達に会えるのが待ち遠しかった。


そして、私とベアトリーチェは、同じ時期に子を宿した。


子が出来た時のベアトリーチェは、それは嬉しそうにしていたが、私はまた流れてしまうかも知れない恐怖に、ただ怯えていた。

それを癒してくれたのもベアトリーチェだった。


子を宿した時、何故か私には新たな力が宿る。

それはその子が持って産まれて来る筈の力だったのかも知れない……


初めての子の時は、魅了の力を。


二人目の子の時は、錬金術の力を。


三人目の子の時は、光魔法の力を。


そして、今お腹にいる子を宿してからは、忘却魔法を使える様になった。


子が流れても、私には力だけが残る。


その事の、なんと虚しいことか。


それでも、亡くなった子供達が私に残していったものとして、この力を大切に思ったものだ。


お腹に子を宿すと、いつもベルンバルトは体を求めなくなる。

その時だけが私には、全てが解放されて落ち着ける日々となる。


私が妊娠6ヶ月、ベアトリーチェが妊娠7ヶ月の頃、ベアトリーチェは木に登って降りられなくなったアンネローゼを助けようと、落ちてきたアンネローゼを受け止めた時に後ろに倒れこみ、脳と体全体に強く衝撃を受けてしまった。


母子共に危険な状態に陥って二日間、なんとかベアトリーチェは助かったが、子供は助からなかった。


子を失って、ベアトリーチェは哀しみに打ちひしがれた。

私はその気持ちが痛いほど分かるので、彼女の側にいることが多くなった。

ベアトリーチェも、一人が辛かった様なので、私の後宮に居着く様になった。


自分もいつ子が流れるか分からない不安と恐怖に耐えられたのは、同じ思いをしたベアトリーチェが側にいてくれたからだ。


しかし、私の子は流れる事なく、初めて無事に出産することが出来たのだ。

取り上げてくれたのは、メイド頭のリーザだった。


私は男の子と女の子の、双子の子供を産むことが出来た。

初めて母になれて、どんなに嬉しかった事か……


こんなに我が子が愛しいと思えるなんて……

私は無事に生まれて来てくれた子供達に、感謝するしかなかった。


しかし、生まれて間もなく、この子達に不思議な力が宿っているのが分かった。


リドディルクと名付けた男の子に触れたメイドや使用人が、いきなり倒れたり、かと思えば元気になったりするのだ。

私が触れても何もならないが、他の者が触れると、途端にその者の調子が変わる。


何が起こっているのか、じっくりと観察してみると、リドディルクが左手で触れた者は、体調が悪くなったり、倒れたりする事が分かった。

それから、右手で触ると、触られた者の体調が良くなって行くのだ。


何とも不思議な力がこの子に宿ってしまった、と思っていた時、リドディルクが左手で触れた使用人が倒れて、そのまま亡くなってしまったのだ。


これはこのままにしてはいけないと思い、リドディルクには誰も触れてはいけないと通達し、私がどんな現象が起こっているのかを更に観察した。


リドディルクは、左手で触れると、触れた者の生気を奪い、右手で触れると、触れた者に生気を与える事が出来る事が分かった。

右手は問題ないが、左手の力をこのままにしておく訳にはいかなかった。


私は村の宝である物を思い出し、腕輪を取り出した。

それは能力制御の腕輪だった。


この異常な能力を閉じ込めた時に、どんな負荷がこの子に起こるのか……この能力を閉じ込めて、この子は無事でいられるのか……そんな恐怖が私を襲うが、人の命を奪いかねないこの力をそのままにしておく事が私には出来なかった。


私は腕輪に、青の石を錬金術で埋め込み、リドディルクの左手に着けた。

腕輪は手首に収まるように、赤子の腕の小ささまで形を変えた。


青の石は、精霊と交流が出来る様になる石で、能力があれば契約もできる。

せめて少しでも、リドディルクの助けになるようにと考えて、青の石を着けたのだ。


腕輪を着けたリドディルクは、左手で人に触れても生気を奪う事はなくなった。

良かった、と安堵していた時、手に怪我をしたメイドがリドディルクに触れると、メイドの怪我は良くなり、リドディルクが泣き叫んだ。


生気を与えるだけになった筈なのに、代わりにその負担を受け入れてしまう体になってしまったのだ。


我が子になんて事をしてしまったのか……!


急いで外そうとするも、その腕輪は外れなかった。


私は、自分の軽率な行動に、深く悔やむ事しか出来なかった……







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