第175話 ラリサの道程1


私達部族は、誰も立ち入らない、森の奥に隠れる様に、他の者達と関わることなくヒッソリと暮らしていた。


物心ついた頃から父と母には、私達の部族は狙われていて、前の村は兵に滅ぼされた、と聞いていた。

だから、ここで身を寄せ合う様にして、部族だけで暮らしているんだと。


そんな事を聞いていた事もあって、私は怖くて村から出ることなく、慎ましく生活をしていた。


私が14歳のある日、盗賊達が村を襲った。


しかし前の教訓があった為か、村人達は魔法を使い、盗賊を倒す事に躊躇しなかった。


次々と倒されて行く仲間を見て、盗賊達は撤退する事を決断したが、盗賊に襲われていることを知らず、たまたま近くの畑から帰ってきた私を見つけた盗賊の男は、逃げる時に私を拐って行った。


なにがどうなっているか分からない状況で、恐怖だけが自分を襲う。


盗賊達は私をある者に預け、その者がまた他の者に引き渡し、何度か色んな人を巡って、辿り着いた先がオルギアン帝国、皇帝ベルンバルトの元だった。


私を見た時の、ベルンバルトの冷たい笑みが忘れられない……


それから湯浴みをさせられ、身支度を整えられて、ベルンバルトの元へ行かされ、そのまま私はベルンバルトのものにされた。


泣いても叫んでも、誰も助けてくれる事はなく、ベルンバルトはまだ幼い私を、容赦なく何度も抱いた。


そんな、私にとっては地獄の様な日々が幾日も続いたある日、私はベルンバルトの子を宿した。


ベルンバルトはそれには喜んだが、妊娠8ヶ月頃、お腹の中で子が亡くなっているのが分かった。

出産しても、その子を育てる事が出来ない悲しみに打ちひしがれるが、そんな私を構うことなく、ベルンバルトはまた何度も私を求めてきた。


こんな生活に嫌気がさし、自決する事を決めたが、間際でそれを止められる。

それから捕虜にした者がいると、牢獄へ案内された。

見ると、そこには私の父と母がいた。

私を探しに、情報を得ながら旅をして、オルギアン帝国に来てから捉えられたのだと言う。


泣きながら父と母に抱きつこうとするも、それが叶う事はなく、日に一度、10分間だけ会わせて貰える事になった。

私が迂闊な行動をすると、父母の命は無いと脅されて、またベルンバルトに弄ばれる様な日々に戻った。


ベルンバルトはいつも強引に私を抱くが、それ以外は優しかった。

私の機嫌を取る為に、宝物庫へ案内された事があった。

好きな物を選んで持って行っても良いと言われ、宝石等に興味は無かったが見て廻っていると、部族の宝が目についた。


私の父の父、つまり祖父は、前の村の宝物庫の責任者をしていたらしく、それを受け継がす為に、幼い父に宝の事を伝えていたのだ。

そんな立場だったので、父は村にあった全ての宝の効果を知っていた。

それを受け継ぐ事も、受け継がす事も出来なかったと、幼い私に嘆く様に言いながら、私を膝に乗せて、宝の絵を描いては効果の説明をよくしていたのだ。


だから私は村の宝を知っていた。


その宝がここにあった。


村は兵に襲われて、何人も命を奪われて、女の人は連れ去られて……そして村の宝を全て奪って行ったのは、このオルギアン帝国だったのだ……


私が生まれる前の事だけれど、父母から昔話の様に聞いていた私は悔しくて仕方がなかった。


宝物庫にあった、村の宝を私は持ち帰った。

それから何度か宝物庫へ行きたいとベルンバルトにねだると、嬉しそうに連れて行ってくれたのだ。

宝物庫に行く度に、私は村の宝を持ち帰った。


父母に会う時にこっそり宝を持って行き、その宝の効果を確認した。

父や母は、それは嬉しそうに宝の事を語ってくれた。

それから父母から、いつ自分が処分されるか分からないからと、赤の石と黄色の石を手渡された。

そんな父母を見て、私は必ず助ける事を心に誓ったのだ。



そんな日々を送り、それから二度、子を宿す。


子を宿した時、ベルンバルトは男と女が産まれれば、その二人で子を作れば良いと言い出した。


何を言い出すのかと驚いていると、銀髪の部族との子は、高い能力を持って産まれてくる、その高い能力同士の子であれば、より優れた子が出来るのではないか、と、嬉しそうに話すのだ。

ベルンバルトの常軌を逸した言葉に、私は怯む事しか出来なかった。


子を宿す度にベルンバルトは喜び、子が流れ無いように細心の注意をはらう様に周りの者にも徹底させたが、最初の子と同じ様に、産まれる前にお腹の中で亡くなってしまう。


私は子を宿すことも産むことも怖くなって、帝城ではなく、後宮で暮らす事を望んだ。

何度も子を流して、悲しみに打ちひしがれる私を見たベルンバルトは、仕方なくそれを許した。


森の中にあった村を懐かしく感じ、森に一番近い後宮を与えて貰った。


それから私は後宮で暮らすことになったのだ。






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