第160話 マルティノア教国


翌朝、エリアスはスッキリした顔をして、朝ご飯を作ってくれていた。


「おはよう。エリアス。早いんだな。」


「おはよう、アシュレイ。まぁ、たまには、な。」


無理に作った感じではなく、いつものエリアスに戻った様だった。


エリアスが作ってくれた食事はなかなか美味しく、冒険者の年期が伺われた。


「エリアス、美味しいな。」


「アシュレイの飯には敵わねぇけどな。」


「そんな事はないよ。」


「……なぁ、アシュレイ。」


「ん?」


「今回の事は……本当に助かったし、アシュレイの気持ちが嬉しかった。ありがとう。」


エリアスはテーブルに頭がつく勢いで、頭を下げた。


「そんなっ顔を上げてっ!エリアス!当然の事をしただけだからっ!」


「いや……こんな事、誰にでも出来る事じゃねぇ……本当にありがとうっ!」


エリアスはずっと頭をテーブルにつけて、お礼を言い続ける。


「本当に、もう良いから!私もしたくてした事なんだ!本当に気にして欲しくないっ!」


「……あぁ、分かった。でも、俺はこの恩は絶対に忘れねぇ。」


やっと顔を上げたエリアスは微笑んでいた。


良かった。


少しだけだろうけど、エリアスの気は晴れたんだろう。


「アシュレイと旅に出るって決めて良かった。じゃなきゃ、俺は何も知らねぇままだった。」


「エリアス……」


「…ったく……なんでアシュレイは俺じゃねぇんだ?」


「ん?」


「いや、なんでアシュレイはディルクって奴が良いのかって思ってな。」


「なっ!なんだ?!いきなりっ!」


「……なぁ。アイツの何処がそんなに良いんだよ?」


「えっ!?何処がってっ…そんなの……分からない……」


「きっかけとかはないのか?」


「……何だろう……?出会ったのは…レクスが私を庇って亡くなって……落ち込んでいる時に助けて貰って……」


「あぁ、弱ってる時に優しくされて惚れちまうってヤツか?」


「……そう、なのかも…だけど……」



何だろう……


それだけなのかな……


確かに、私の心が弱い時に知り合って、優しくして貰って、心が動いたと言うのは否定できないけど……


それでも、なんで私はディルクにあんなに惹かれたんだろう?


レクスは、人を好きになるのに理由はないって言っていたけど……


ディルクとは……何だか初めて会った気がしなかった……?


ディルクの言葉に、自分が一喜一憂しているのは事実だけど……


彼は……初めて会った時から……私には特別だった……?


あの時会ったのは……本当に初めてだった……?



「アシュレイ?」


「えっ?!あ、エリアスっ!ごめん、考え事してた……」


「チッ!アイツの事でも考えてたんだな。まぁ、俺が話しを振っちまったから仕方ねぇか……。でもまぁ、今は我慢しとく。俺は諦めた訳じゃ……」


「あ、ワイバーン。」


勢いよく飛んできたワイバーンに、雷魔法を一発食らわせて落とす。


「エリアス!食料と素材を確保できたぞ!」


にこやかに振り返って私が言うのを見ていたエリアスが、いきなり大きな声で笑いだした。


「ハハハハっ!やっぱ良いわ!こんな女見たことねぇっ!」


「え?!なにそれっ!どう言う意味だ?!」


「アシュレイはずっと、そのままでいてくれよな!」


「……レクスと同じ事を言う……」


「アシュレイは最高だって事だ。」


落ちたワイバーンの元へ行くエリアスが、すれ違う時に私の頭をポンポンしながら言う。


エリアスにも子供扱いされたっ!


私もワイバーンを解体するべく、エリアスに続く。


一緒に解体しながら、レクスに言われた事を思い出す。


「前にレクスに、私は野性的だと言われた…レクスの知ってる女の子とは違うって。」


「あぁ、そうだな。そこらへんにいる女ってのとは違うな。」


「レクスの知ってる女の子って言うのは、 頼りなくって…力がなくって…ちっちゃくて…すぐ泣くって…言ってた。」


「まぁ、そう言う子ばっかりって訳でもねぇけど、そうだなぁ。普通の女の子ってのは、そんな感じなのかもな。」


「やっぱりそうなのか……」


「なんだ?気にしてんのか?」


「そう言う訳じゃないけど……」


「気にする必要なんかねぇよ。俺にとっちゃぁ、アシュレイは最高の女だからよ。そのままで良いんだよ。」


「ん?……うん……よく分からないけど……うん…分かった……」


「ったく……可愛すぎんだろ……」


「え?」


「何でもねぇよ!」



エリアスと2人でワイバーンを解体して収納し、マルティノア教国の街まで移動する。


もう近くまで来ていたので、昼頃には街に着いた。


エリアス達にあんな酷い事をした人達がいる国の街……


ここはどんな所なんだろう……


緊張した面持ちで、私達は街へ入ったのだった。







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