第143話 複雑な思い


部屋にあるベッドに、レクスは横たわって眠っていた。


その側に、前に見たことのある、ディルクについている精霊がいた。



「あら、貴女は以前会った事のある子かしら?」


「あぁ、そうだ。」


「随分と変わっちゃったのね。可愛らしいわ。」


「いや……これは……それより、レクスは?!」


「今は安心して眠っているわ。森から離れたから、自分を維持するのが難しかったようね。」


「そうなのか?」


「この子には、森の精霊の加護がついてるわ。でも霊体だから、その加護自体が弱いのよ。あまりこの世に留めてはいけないわ。なるべく早くに還してあげなさい?」


「……!」


「じゃあ私は帰るわね。」


ドリュアスは風を纏って消えていった。



私はレクスのことを何も分かっていなかった……


自分の側にいて欲しいだけで、レクスを縛りつけていたんだ。


レクスはきっと辛かったんだろう……


その事に、ディルクだけが気づいていた。


一番一緒にいた筈なのに、私は何も分かっていなかったんだ……



「アシュレイ、あんまり気にするな。」


「でも…レクスはきっと辛かった筈で……」


「これからをどうすれば良いか、一緒に考えていけば良い。アンタは1人で抱え込もうとするな。」


「エリアス……」


「俺の事も頼ってくれ。ディルクって奴程、俺は頼りになんねぇかも知れねぇけどな。」


エリアスは私に微笑んでみせる。


「ありがとう……エリアス。」


「ここは多分王都だろ。俺は一旦帰るな。報告とかもあるしな。あ、後でアンタの服とか持ってきてやるよ。流石にずっとそのまんまじゃいられねぇだろ?」


「助かる。エリアス、本当にありがとう。」


「こんな事位、どうってことねぇよ。アンタはレクスの側にいてやんな。」


「うん、分かった……」



エリアスが出て行って、レクスと2人になった。


安心した顔をして、レクスは眠っている。


こんな安心した顔……最近は見ていなかった……


ごめんレクス……ごめん……




レクスの横に、私も横たわった。




今日は色んな事があった。


色んな事が分かった。


驚きや戸惑い、それから悔い……


複雑な気持ちが胸を締め付ける。


ディルクの事も


レクスの事も


私は何も分かっていなかった……


レクスの手に、重ねる様に手を置く。


決して触れられはしないけど、今はレクスを感じていたかった……






ーーーーーーーー






「アシュレイ、荷物持って来たぞ!」


勢いよく部屋に入ったが、アシュレイとレクスはベッドで2人寄り添う様に眠っていた。


アシュレイの目からは、うっすらと涙が滲んでいる。


そばまで行って、膝を折る。



「また泣いちゃったんだな……」



アシュレイの涙を優しく拭う。


髪をそっと撫でる……


愛しい気持ちが溢れて来る。


こんな気持ちになったのは初めてだ。




そっと顔を近づけて




俺はアシュレイの頬に口付けをした……








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