第144話 エリアスの決意


朝、目覚めると、レクスがもう起きていた。



「おはよう!アッシュ!」


「おはよう。レクス。」


レクスが微笑んでいたので、私も笑顔で返す。


ベッド脇にあるテーブルに、コレットのところに置いてきた私の衣服と装備類が置いてあった。

エリアスが持ってきてくれていたんだな。


あの時は慣れないドレスを着るのに戸惑い、空間に収納する事をすっかり忘れてしまっていたんだ。


あのままドレスで眠ってしまっていたのか……


紫の石、これは会いたい人を思うと、その場所まで移動できる。

『闇夜の明星』のボスは、紫の石を使うといつも目の前から人がいなくなるから、それで殺せたとでも思っていたのかも知れない。


あの時私は、目の前にいるディルクの事を考えていた。

そうしたら、彼の邸の近くの森に飛ばされていた。

きっとボスは、この紫の石を使いこなせていなかったんだろう。



すぐに体を浄化させ、服を着替えていつもの自分に戻る。

やはり慣れた格好の方が落ち着く。


ディルクに貰ったピンクの石の首飾りをつける。

そして、石を握り締める。

しかし、ディルクの声は聞こえない。


ディルクは大丈夫だろうか……


まだ苦しんでいるんだろうか……


考えるとまた涙が出そうになる。


レクスが私の顔を覗き込む。


「アッシュ?どうした?」


「ううん、ないんでもないよ。」


レクスに笑ってそう答える。



一階の食堂へ行くと、おかみが嬉しそうにしていた。


「もしかして、エレーヌが帰ってきたんですか?」


「えぇ!そうなんです!拐われていたみたいで、もう少しで売られて行くところだったんですよ!でも助けて貰えて……本当に良かったです……!」


涙ぐみながらも、おかみはそう教えてくれた。


やはり、エレーヌも囚われていたんだな。


でも、本当に無事で良かった。




朝食を済ませ、それからギルドに行く。


私からも、ギルドにきちんと報告しないといけない。


ギルドにある酒場で、いつものようにエリアスが朝食をとっていた。



「アシュレイ!よく寝たか?!」


「エリアス、昨日はありがとう。いつの間にか眠っていたみたいだ。」


「色々あったんだ。そりゃあ疲れるだろ。」


「私も報告に行ってくる。コレットにもお礼言わないといけないしな。」


「ああ。俺はここでレクスと喋っとくよ。」



買取りカウンターにいるコレットが目についたので、そこに向かう。


「コレット、昨日はありがとう。お陰で、無事に潜入できた。」


「良かったです!なかなか帰ってこないから心配してました。エリアスさんが来て話を聞いて、やっと安心できました!」


「心配をかけて悪かった。色々あったが、無事に『闇夜の明星』を撲滅する事ができて良かったよ。」


「囚われていた人達も全員無事でした!本当に良かったです!ありがとうございました!あ、それから、これはギルドからの依頼となっていたので報酬が出ます。その件も踏まえて、ギルドマスターからお話があるとの事ですので、客室へお願いします。」


「あぁ、分かった。」


言われた通りに客室へ向かう。


ノックをして「どうぞ」と言われたので入室する。


私の姿を見ると、ギルドマスターのアルベルトが立ち上がった。


「ありがとう!アシュレイ!素晴らしかった!」


アルベルトは大きな拍手をして、私を出迎えた。


その様子に、ビックリして少し後ずさってしまった。


「エリアスからも報告を聞いている!本当によくやってくれた!」


「いや、今回はエリアスの力が大きかった。彼がいなければ達成できなかった。」


「エリアスからは、潜入にアシュレイは凄く役立ったと聞いている。幹部達も、アシュレイがいなければ討伐出来なかったと言っていた。」


「それは……。」


「まぁ、座ってくれ。」


促されてソファーに据わる。


「まずは、今回の報酬を渡そう。」


アルベルトはトレーを差し出してきた。


そこには、白金貨が5枚乗せられていた。


「っ!こんなに?!」


「あの組織を一網打尽にできた事は、この国に大きな恩を売った事になる。勿論、国からも報酬金が出ている。これでも少ない位だ。」


「本当に良いのか……?」


「勿論だ。受け取ってくれ。」


「では、有り難く受け取らせて貰おう。」


「当然の権利だ。それから…これは相談なんだが……。」


「何だ?」


「王都に残ってくれないか?」


「え?!それはどういう……?」


「アシュレイが旅をしているのは分かっている。しかし、エリアスがいなくなるのは、王都にとっても、勿論この国にとっても大損害なんだ。」


「ん?!何?」


「勿論、残ってくれるなら、住むところも全てこちらが用意する!アシュレイは身一つでここに残ってくれれば良い!」


「ちょっ、ちょっと、待って!」


「他に要望があれば何でも聞く!頼む!」


「いや、だからちょっと、待って!どう言う事なのか、ちゃんと説明して貰わないとっ!」


「エリアスと旅に出るんだろ?!」


「えぇーっ!?」


「え?違うのか?!」


「聞いてないっ!」


「そうだな。言ってなかったな。」


気づくと後ろにエリアスがいた。


「エリアス!」


エリアスは私の横に座った。


「俺がそう決めた。アンタと一緒に旅に出る。」


「エリアス、考え直してくれないか?!お前がいなくなればギルドは大損害だ!」


「俺がいなくても、後に続く奴らはいっぱいいんだろ?今回参加したヴィリーやアドルフ、フェルドなんかは、これからもっと強くなるぜ?俺がのさばってると、育つモンも育たねーよ。」


「しかし……っ!」


「これで話は終わりだ。行くぞ、アシュレイ。」


エリアスは私の手首を掴んで、私を連れ出す様にその場から立ち去った。




え……どうなってるんだ……?




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