第109話 気付いた想い


昼食が終わって、再び歩き出す。


紫の石の輝きを求めて歩くのだが、今までの感じとは違う。



「おかしいな……」


「ん?アッシュ、どうしたんだ?」


「石が……移動してる?」


「え?!」


「どうやら、紫の石は誰かが持ち歩いている様だ。」


「そうなのか?!」


「あぁ、レクス。前はかなり遠くに感じたのに、今は近くなっている。」


「でも、誰かが持ってた場合さ、それってどうするのさ?」


「持っている者が使えているのなら私にはどうすることも出来ない。が、もし使えていないようなら、譲って貰うよう交渉する。」


「そうか。うん、分かった!」


「方向は変わらず南西だ。行こう、レクス。」


「おう!」



移動する紫の石。



持ち主は譲ってくれるのだろうか?


それは会ってみないと分からないな。


そう思いながら、紫の光を求めて私達は歩き続けた。


今は街道が近くにある、森の一角にいる。


日が落ちたので、この辺りで野宿をする。


食事が終わって、焚き火の側で腰掛けながら、お茶を飲む。


胸元にある、ディルクから貰った首飾りの先に付いている石をそっと触る。


それから、ディルクに会いたい、と、心で想ってみる。



「アッシュ?どうしたんだ?」



レクスが顔を伺う様にこちらを見てる。


言われて、ハッとして、石から手を離した。


「ううん、何でもないよ。」


レクスに笑顔で答えると、レクスが私の胸元を見て、ビックリした顔をした。


「アッシュ!なんか光ってるぞ!」


「えっ!?」


自分の胸元を見ると、ピンクの石が光っている。


どうしたら良いのか分からないが、とりあえず光る石を触ってみる事にした。



『アシュリー?』



頭の中で声が聞こえる。



「ディルク?!」


「え?!どこに?!」


レクスがキョロキョロする。



『アシュリー、聞こえるか?』


「ディルク、聞こえる……」


「アッシュ、ディルクはどこにいるんだ?」


「え?あぁ、頭の中でディルクの声が聞こえるんだ。」


『レクスか?』


「あぁ、うん、そうだ。」


『またすぐそうやって、俺とアシュリーの仲を邪魔しようとするんだな。』


ハハハってディルクが笑ってる。


「ディルク、そんな事……!」


恥ずかしくなって俯いてしまう。


「何だよ!俺だけ何にも聞こえないぞ!」


「ごめん、レクス!」


「いいよっ!あっちに行っといてやる!」


『どうした?レクスは怒ったか?』


「うん……あっちに行っといてやるって。」


『そうか。アシュリー達は、今はどこにいる?』


「銀髪の村から、南西に行った所。街道沿いにある、森の一角で野宿をしている。」


『森に危険はないか?』


「旅には慣れているから、大丈夫だよ。」


『アシュリー。』


「なに?ディルク。」


『会いたい。』


「……っ!」


『アシュリー?』


「あ、いや、ちょっとビックリして……」


『そう思ったらいけないか?』


「……ううん。ディルク。私も会いたい……」


『良かった。ありがとう。』


「そんな……お礼なんて必要ない……」


『あぁ、そうか。うん、分かった。』


「ディルク、体は大丈夫?」


『なぜそう聞く?』


「凄く疲れているのが感じ取れる。何かあった?」


『ハハ、凄いなアシュリーは。でも大丈夫だ。

アシュリーの感情が流れ込んできて、俺を癒してくれている。』


「本当に?」


『本当だよ。』


「それなら良いけど……」


『そこからインタラス国の王都は遠いか?』


「そんなに遠くはない筈だ。2、3日で着くと思うよ。」


『俺は明日、そこに行く。寄れるのであれば、そこで会う事は出来るか?』


「うん、会える……」


『またこうして話をしたい。石が光ったら触って欲しい。』


「分かった。」


『ではまたな、アシュリー。』


「うん、また。ディルク……」



フッと光が消えた。


光が消えても、暫くは石を握りしめたまま、ディルクとの会話を思い出していた。


ディルクの一言一言が、私の心に染み込んで行く。




声を感じただけなのに。



何故こんなにも心が満たされるんだろう。



私は



ディルクの事が好きなんだ……







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