第108話 女の子って


銀髪の部属の村を出た次の日、私はレクスと南西の方角へと紫の石を求めて進んでいた。


昨日、レクスと初めて喧嘩と言うものをした。

と言うより、レクスとじゃなくても、喧嘩と言うのは初めての経験だった。


思いをぶつけ合う事は、良い事だけでも悪い事だけでもないんだろう。


そうやって、人との絆は深くなっていくのかも知れないな。



ふとレクスを見ると、私を見てニッコリ笑っていた。

それを見て、私もニッコリ笑う。


レクスが笑うと嬉しい。安心する。



でも、ディルクの時の感じとは違う。



ディルクの笑顔を見ると、心臓が煩くなる。


見ていたいのに、見るだけでも心臓が落ち着かない。


触れられても嫌な感じがしない。


セルジの時はあんなに嫌だと思ったのに。


ディルクが相手だと、もっと触れて欲しいとさえ思ってしまったんだ。




そこまで考えて、一人恥ずかしくなってきた。


こんな事を考えてしまうなんて!


ディルクの事を考えているだけで、心臓がドキドキして、顔が赤くなっている感じがする!



「アッシュ、どうしたんだ?」



顔を覗きこんでレクスが聞いてきた。


「えっ!?いや、何でもないよっ!」


「疲れたのか?そういや、ずっと歩いてるもんな。ここらで休憩でもするかっ!もう昼頃だしな!」


「そうだな、レクス!うん、そうしよう!」



レクスの提案で、昼食をとる事にした。


とは言っても、昼なので簡単な物にする。


さっき飛んでいたワイバーンを雷魔法で感電させて落としたので、それを捌いて、その肉を焼いて、パンに挟んで、それを昼食にする。


「アッシュって可愛いのにさぁー……」


「ん?」


ワイバーンの肉を頬張りながら答える。


「野性的だよなー。」


「んんっ?!コホッ!コホッ!」


「あ、ごめん!アッシュ!大丈夫か!?」


レクスの言葉にむせてしまい、すぐに水を飲んで落ち着かせる。


「えっ!?なんっ?野性的って?!」


「あ、そんな悪い意味で言ったんじゃないぞ!

アッシュは男として振る舞ってるから、そう見ると格好良いなぁって。」


「じ、自分の事だから分かりにくいんだが、男として良いって事になるのか?」


「んー。まぁそうかなー?」


「じゃ、じゃあ、お、女の子としてなら、どう……なんだろうか……?」


「いや、アッシュは可愛いぞ?でも、俺が知ってる女の子ってのとは違うからなぁー。」


「レクスが知ってる女の子って、その、どんな感じがするんだ?」


「えーっとぉー。頼りなくってさー。力がなくってさー。ちっちゃくてさー。すぐ泣いてさー。あ、アッシュはすぐ泣いちゃうな!」


「それは違うって言ってるじゃないか!」


「でも、アッシュは一人で何でも出来るから、人を頼ったりしないんだろうな。男ってさ、頼って貰ったりすると、嬉しくなるんだぞ?」


「そうなのか?!」


「そうなんだぞ!女の子に頼られてる自分って凄い!とか思ったりするんだ!ジソンシンってヤツだな!」


「……そうなのか……」


「でも、アッシュは今のままで充分なんだぞ!

それ以上可愛くなると、また襲われるぞ!」


「そんな事は……でも、そうか…女の子って、そうなのか……」


「もしかして、俺の言った事、気にしてる?」


「え?!いや、大丈夫だ!気にしない!」


そう言って、ワイバーンのパンにかぶり付く。



あまり女の子の態度とか、そう言うのを気にした事がなかった。


男を装っているのだから、そんな必要は全くなかったから仕方がないんだけれど。



……ディルクはどう思っているんだろう?



もっと女の子っぽくした方が良いって、ディルクは思うんだろうか……



でも、女の子の姿をしない方が良いって言ってたし……



こんな男の子っぽくても、私に会いたいと思ってくれるんだろうか……



昨日別れたばかりなのに、もう不安になってしまう。



少しでも、私の事を思い出してくれてるのかな……





ディルクに会いたい……





ディルクも、私に会いたいって思っていれば良いのに……






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