第60話 永訣
「あなた に、 渡す、物、が あります。」
私を見上げて、ナディアは青の石の事を話し出した。
私はベッド脇にあった椅子に腰掛けた。
その間もずっと、ナディアは私の両手を握ったままだ。
手と手が触れている。
それだけでも、くすぐったくて嬉しくて、いつまでもこうしていたかった。
「石は、 持って、いるだけ では
効果は、 発揮し、 ません。」
ナディアは続けて話し出す。
「石は、 あ、集めれ、 ば ……」
そう言ってから、ナディアの呼吸が荒くなってきた。
胸を押さえて、苦しそうに呼吸を繰り返す。
私は咄嗟に、回復魔法をナディアにかけた。
ナディアはビックリした表情になって
「貴女は 女の子だ、った のね……」
と呟いた。
しかし、彼女の容態はあまり良くならずに、呼吸は苦しそうなままだった。
私がまた回復魔法をかけようとした時、
「いいんで、す、 もう、 長く生きて、これ は、 防ぎよう の、 ない事 で……」
「で、でも!せっかく会えたのに!」
「ごめん、 なさい ね、 アシュレ イ、
ま だ、 はな、 し が……!」
また苦しみだす。
「しっかりして下さい!ナディア!」
私の大声で、メイドと教員の女性が部屋へ駆け込んできた。
「ナディア様!」
「校長!」
メイドは直ぐ様、ベッドまで走って行き、息が絶え絶えになっているナディアの顔に耳を傾け、何度も頷いていた。
私と教員の女性は、そばまで行って、しかし、ただ佇んで見守る事しか出来ずにいた。
メイドが私の方を向き、こちらへ来るように促した。
私はナディアのそばで跪ずき、彼女の手を、そっと両手で握る。
ナディアは目に涙を溜めながら
「あ、なた に、あ えて、良かっ……」
そう言って瞳を閉じた。
閉じた瞼から涙が一滴。
やすらかそうに、微笑んだ彼女の姿は美しかった。
メイドと教員女性の泣き声が部屋に響く。
私は声をあげることなく、ただ涙を流していた。
私の事を分かってくれた、分かってくれていた、ただ唯一の……
そして上を向いて、ただ涙がとまるのを待っていた……
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