第61話 青の石


大魔法使いナディアの訃報が街中に拡がり、人々は悲しみに暮れた。



彼女がこの街で、人々に愛されていたのがわかる。



街をあげての、追悼式がおこなわれた。



ナディアが亡くなってからの3日間、街は喪に服し、静まり返っていた。





葬礼でナディアを送り出したあと、ナディアのメイドが家に来るよう、伝えてきた。


言われるがままナディアの家に向かう。


部屋に通され、リビングへと案内される。


そこには、前に魔法学園の前で会った、初老の白髪の男性がいた。


ソファーに腰掛けるよう促され、私は男性の対面に腰を掛けた。


メイドはそっと離れ、キッチンへと向かった。



「お会いするのは2回目ですね。私は校長代理をしておりました、リオネルと申します。」


「貴方が校長代理だったんですね。私はアシュレイと申します。」


挨拶を交わしていると、メイドがお茶を持ってきた。


お茶を置くと、メイドは校長代理の横に座った。



「私はミレイユと申します。私とリオネルは夫婦です。」


「そうだったんですね。」


「昔、ナディア様に大変お世話になり、それからナディア様のお側で働かせて頂いておりました。」


2人はそう言って、顔を見合せ微笑んだ。


「今日お呼びしたのは、ナディア様の事について、お話しがあったからです。」


「私が……無理をさせて話を聞き出したから…ナディアは……」


申し訳ない気持ちで、そう伝えると、


「い、いえ!そう言うことではありません!」


驚いた様に、ミレイユが言う。


「医師の方からは、もって2日程だと言われておりました。それでも、最後まで校長は、探されていた方の情報を求められておりました。」


リオネルが言うと、少し落ち着いたミレイユが


「ええ、ずっとずっと、ただナディア様はお嬢様や同郷の方に会える事だけを夢見て、この、なにもなかった小さな街を、こんな大きな魔法の街へと発展させたのです。最後に貴方に会う事が出来て、ナディア様も喜んでおりました。」


涙を浮かべて、ミレイユが私に伝える。


「私達はナディア様から、亡くなる数日前に伝言を預かっておりました。自分が亡くなった後に、自分の同郷と思われる方が現れたら渡して欲しい物がある、と言って……」


涙ぐみながら、ミレイユが席をたった。


それから少しして戻ってきたミレイユは、装飾の美しい箱を私の前に差し出した。


戸惑っていると


「開けてみて下さい。」


と促される。


手にとって開けてみると、そこには腕輪と、ベルトらしき物が入っていた。

腕輪には、赤、黄、緑、青、紫、白、黒の石が嵌め込まれていた。

ベルトらしき物には、碧い石がついている。


「その腕輪には、ナディア様が大切にされてた青の石がついていました。それを数日前にそこから外し、別の、御守りに使われている石に付け替えられました。ですので、今その腕輪には青の石はついていません。ですが、使われている全ての石に、魔法が付与されています。それと、そのベルトですが、着いている碧い石は魔力制御の石です。ナディア様のお嬢様は、人より魔力が高めで、それをもてあましていたそうなんです。碧い石は、部族の中でも貴重な物として宝物庫にあったそうですが、お嬢様の為にと何年も頼み込んで、やっと貸し出された石だったそうです。それをナディア様が縫製をし、頭につけられるようになさいました。特に瞳への魔力が強かったお嬢様の為に……しかし、お渡しする前に兵に村を滅ぼされた、と、嘆いておられました。」


「これを、私に……?」


「亡くなる少し前、私は息も絶え絶えなナディア様から言伝てを頼まれました。貴方にそちらをお渡しする事。それと……」


「それと?」


「石を全て集める様に、と。」


「なぜ、石を……?」


「それは、私にも分かりません。お聞きする時間がありませんでした……申し訳ありません。」


「いえ、こちらこそ、すみません。」


「それと、青の石は、森の中で……と。」


「森の中で……」


「はい、その様に。」


そう言って、小さな革袋を出した。


「こちらが青の石です。」


「私が持っていても良いのですか?」


「ナディア様が残した物は、この街に溢れています。魔法も、学園も、人も、全てです。ですので、私達はいつでもナディア様を感じて生きていけるのです。街を離れる貴方には、ナディア様の思い出としてそれらをお持ち頂けると、私達も嬉しいです。」


「ありがとうございます。彼女との時間は短いものでしたが、私の大切な人でありました。有り難く、受け取らせて頂きます。」





それから2人は、ナディアの話を嬉しそうに、楽しそうに、そして悲しそうに、それから幸せそうに、これまであった色々な事を話してくれた。




そうしてしばらくして、2人に見送られながら、私はナディアの家をあとにした。





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