第13話 石の効果
宿に帰って短剣を手に取る。
柄にある窪み。
そこには丸い赤い石と、ひし形の黄色の石が埋め込まれている。
これは母が置いていった短剣だ。
その近くに置いてあった、革袋の中にあった丸い赤い石と、ひし形の黄色の石。
一人になって暫くは、一人で旅をする事に必死だったし、何故か初めは短剣に石をあて填めるのに躊躇したのだ。
短剣は鞄の奥に仕舞い込んだままだった。
3年が過ぎ、一人旅が慣れた頃、何の手掛かりもない母の事に苛立ちを覚えて、思い出したように鞄の奥深くに仕舞い込んでいた短剣を手に取り、石を填めてみたのだ。
赤い石をあて填めたとき、全身に魔力の様なモノがみなぎった。
驚いて短剣を確認すると、うっすらと赤く輝いていた。
短剣から手を離してもその力は留まらず、全身を駆け回るように、体の中を確認するようにうごめいている。
戸惑いはあったが、不思議と何故かその感覚が懐かしくも思えたのだ。
よく見ると、私の体もうっすらと赤く光り輝いていた。
しかし暫くすると全身に駆け巡ったモノは、元いた場所に落ち着くように収まった。
私から赤い光は無くなっていた。
自分の体に何がおこったのか。
私は体に魔素を採り入れられる様になっていた。
それよりも驚くことに、周囲の魔素をコントロール出来るようにもなっていたのだ。
これは魔物に合った時に便利な機能で、魔法を打って来ようとする時に使えなくすることが出来るのだ。
魔法を使わない魔物にはあまり意味は無いが、その他にも魔素を多く必要とする薬草が欲しいときは、森の中で魔素を一定の範囲に留めると、とても稀少な薬草が育つのだ。
それも凄く早く育つ。
これのお陰で、私はお金には困らなくなった。
もう一つの黄色の石。
これを短剣にあて填めたとき、赤い石の時と同じ様な感覚に襲われた。
全身を駆け巡るモノ。
不思議と嫌な感じはしない。
体の隅々まで行き渡らせるように駆け巡り、落ち着いた時に、分かったことは。
この短剣に填めるであろう、他の石の存在が何処にあるのかが分かるようになったのだ。
とは言っても、近くにない場合は大体の方角しか分からず、今回の場合は淡い緑色が強くある方角に見えたのだ。
他の方角よりも、一際強く。
場所は他の石よりも遠かったかもしれないが、これだけ強く感じると言う現象に、いてもたってもいられなかったと言うのもあり、砂漠を選んでやって来たのだ。
それがこの街に来た理由。
黄色の石による力はそれだけではなく、五感が研ぎ澄まされる様になった。
遠くまで見えるようになり、遠くの音まで聞こえるようになり、鋭く匂いを感じるようになり、食事は何が使われているのか全て分かるようになった。
が、普段は疲れるので、制御するようにはしている。
一番気に入ったのは、鑑定が出来るようになったことだ。
物であっても、人であっても、魔物であっても、今のところは全ての物を対象に鑑定が出来る。
まぁ、鋭すぎる感覚も制御出来れば問題ないが、慣れるまでは感じすぎる事にホトホト疲れたものだ。
淡い緑色の石。
あのダンジョンにあるのは、恐らくそれだろう。
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