第9話 少年レクス6

それから兄ちゃんと飯を食いに「群青の牛亭」に行った。


ここは冒険者達も多く、俺もよく連れて来られた。


ここのおばちゃんは荒くれ者達に怯むことなく、喧嘩がおきても逆に怒鳴って追い出す位に威勢が良く、度胸があるんだ。


でも、本当は優しいんだぜ?


俺が冒険者に奢ってもらってる時、こっそり冒険者の支払いを少し上乗せして、俺にこっそり食べ物を持たせてくれるんだ。


店から差し出すんじゃなくて、冒険者の支払いに上乗せるのには、流石としか言いようがないけどな。


冒険者達は、少し支払いが多くなってたとしても酒に酔っぱらってるし、俺に飯を奢るって事はその日の実入りが良かったからで、勘定時に気付かれた事は一度もなかった。


おばちゃんはそのあたり、しっかり見抜いていたんだろうな。



兄ちゃんと席に座って、見えない様に膝に鞄を置いておく。


兄ちゃんが首に巻いている布を取った時、更にその美しさに驚いた。


息をするのも忘れる位に。


本当にこんなに整った人間がいるんだな。


本当に人間なのかな。


もしかしたら、天使とか、神の使いとか、何だったら神様とか、そう言われた方が納得出来るような、そんな感じにしか思えなかった。



それから酒を飲み、話しをした。


かぁちゃんを探してるんだって。


それと、緑のモノも探してるって。


探し物が多いよな。


ついて行って、一緒に探してやりたいな。


いつもより、俺はいっぱい喋っていた。


他の冒険者達は、自分達の武勇伝を聞かせたいから、俺の話なんか全然聞かないし、俺もそれは分かっているから持ち上げるように相づちを打つだけなんだけどさ。


俺の話に、兄ちゃんは少し微笑みながら相づちを打ってくれた。


それが嬉しくて、兄ちゃんの微笑みをもっと見ていたくて、更に色んな話をしたんだ。


ずっとこうして一緒に話していたかった。


気づくと、鞄は食べ物が溢れだしそうな位になっていた。


ふと、アイツらの顔が浮かんでくる。


まだ朝から水と、少しの硬くなったパンを少しずつ皆で別けて食べただけだった。


俺だけがここでいっぱい飲んで食って、凄く申し訳なく思えてきた。




早く食べ物を持って帰ってやらなきゃ。


こんだけあれば大丈夫だな。


名残惜しいんだけどさ……




帰ろうとした時、おばちゃんが大きな袋を持ってきた。


それを兄ちゃんは、子供達にってくれたんだ。


その時は本当にビックリした。


でも有り難く貰う事にする。


これで、明日の分も大丈夫そうだ。



そうしたら情報料と言って、大銀貨1枚を差し出してきた。


こんな大金、本当に貰って良いのか悩んだけど、これだけあれば1ヶ月は飯に悩まなくてすむ。



有難い。



戸惑ったが、遠慮なく貰う事にする。



俺、兄ちゃんの為なら何だってしてやるよ!



そう思いながら、俺は孤児院に帰ったんだ。


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