第8話 少年レクス5
あの広場で、俺はわざと兄ちゃんにぶつかった。
今日も帰ってきた冒険者の皆の装備を磨こうとギルドに向かっていたところだったが、まだ皆が帰ってくるには少し時間が早かった。
しかし腹をすかしたアイツらを思うと、どうもいてもたってもいられなくて、つい早めに出て来てしまったんだ。
そこで佇んでるような、見たことがなさそうなヤツの後ろ姿を見付けた。
この街の広場辺りにいる奴らの事は、大体が顔見知りだ。
だから、知っているヤツらには下手な事はできないが、知らないヤツなら大丈夫だ。
何日かしたら街を出て行くだろうから。
見た感じが冒険者っぽくないので、何かインネンでもつけて、ちょっとでも金をせびれたら良いな、位に考えて後ろからぶつかった。
そして大袈裟に尻餅をついてみた。
振り向いた兄ちゃんの顔を見た俺は、一瞬心臓が止まるかと思うくらいの衝撃を受けた。
兄ちゃんは口を覆っていたから見えたのは目と鼻だけだけど、それでもあまりの美しい顔立ちに、戸惑う事しかできなかったのだ。
「悪い。大丈夫か?」
と声をかけられて、ハッとした。
とても清んだ、聞き心地の良い声だった。
そうだ、俺はこいつから金をを貰わないといけないんだ。
でも何故か、こいつにはあんまりそんな事は言いたく無くなってきた。
でも俺は、アイツらの腹を少しでも満たしてやりたいんだ。
意を決して、俺は顔を上げた。
「わ、悪いと思ってるんなら手をかしてくれよ!」
そう言って手を伸ばした。
あれ、こんな事を言うんじゃなくて、もっとちゃんとインネンつけないと!
「大丈夫そうだな。」
そう言って立ち去ろうとする。
ダメだ!
まだ行かせちゃダメだ!
「ちょっ、ちょっと!待ってくれよ!足を挫いたかも知れない!」
大声でヤツを呼び止める。
しかし、流石にこのぶつかり方じゃ、足は挫かないよな。
「足が痛いのか?」
かがみ込んで、俺の顔を不信な面持ちで見つめてくる。
ドキドキが止まらない!
なんだ、これ、男相手に!
「あ、手だったかな、手をついた時に痛みを感じたから。これでは仕事が出来なくなるかも知れない!」
そう言って左の手首を撫でた。
見つめてくる。
どうしよう、ドキドキが止まらないよ!
「少しこの街の事を知りたいと思っていたんだ。
食事でもとりながら話しできるか?」
そう言われて、嬉しくなった。
良かった!
まだ一緒にいれる!
だんだん、金の事はどうでも良くなってきていた。
それよりも何故か、こいつと離れたく無くなったんだ。
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