第3話 残されたモノ


宿をとり、部屋に入る。




この街は「イルナミ」という名前だ。


インタラス国の北東あたりに位置する、国境近くにある街だ。




前にいた街「アストラ」という街は、アクシタス国であり、私は国境を越えてきた。


アクシタス国はインタラス国の北側にある。


両国は友好を結んでいるので、国境を越えるときも特に何事もなく入国出来た。




着ていた外套を脱ぐ。


革手袋をとり、肩当てと革の胸当てを外す。


腰の剣も外して、ベッド脇の棚に立て掛ける。




私は冒険者ではなく、只の旅人だ。


しかし街から街への道中、魔物や盗賊や山賊にも出合う。


軽装では対処できないのだ。


だからと言って、鎧等動き辛いモノは旅人には邪魔にしかならない。


必要最小限の防備を身に纏う。


手袋や肩当て胸当ては、その他にも私には大切な役割をこなしている。


これを人前で外す事は無い。


だから外せる時は、本当にゆっくり1人で休める時だけだ。




ベッドに横たわり、胸元から首飾りを取り出す。


首飾りには大きめの青い石がついており、それを手に取り目の前にかざす。


窓から入る光を受けて、キラキラと光る。


凄くキレイなブルーだ。




これは母の物だった。




いつも母が身につけていた。


長い銀の髪に、とてもよく似合っていた。


しかし、母はそれをいつも服の中に入れて見えないようにしていた。


2人の時だけは胸元から出していた。


その時はその様にするのも、特に何の疑問も持たなかった。




母がいなくなった時。




ある街の宿屋で朝目覚めると、首飾りは私の首にかけられていた。




体を起こし周りを確認するも、母の姿が見えない。


ベッド脇のテーブルに目をやると、短剣が置いてあった。




これも母の物だ。




しかし、その短剣を使った所は一度も見たことがなかった。


いつも腰に装着していたが、薬草を採取する時も、狩った動物や魔物を捌く時も料理をする時も、短剣ではなくナイフを使っていた。




これについても、いつもそうだったので特に疑問も抱かずにいた。


装飾の為のモノなんだろうとか勝手に思っていたのだが、そう思わせる位その短剣は美しかったからだ。




刃渡り30㎝程で、両刃仕様である。


金色に輝く柄には、窪みがいくつかあった。


何かが填まっていたのか、填める為に窪みをつけたのか。。。




短剣の横には革の小袋が置かれていた。


手に取り中身を確認すると、2つの石が入っていた。


鮮やかな赤色の丸い石と、ひし形の黄色い石。


その形は、短剣の鞘にある窪みに当てはまりそうだった。


しかし、一先ずそれらは鞄に仕舞い込む。




他に見当たる物は何もなく、手紙等も無かった。


何処かに出掛けているのかも知れないと思い、急いで支度をして宿を飛び出し、母を探した。


しかし何処を探しても見つからなかった。


私といるとき以外で母を見かけた人もいなかった。


連れ去られた可能性も考えたが、首飾り、短剣、革の小袋の事を考えると、母は自ら私から離れていったのだろう。




恐らく、母は私の為に私から離れたのだろう。


いつも一番に私の事を思って行動してくれていた。


それは甘やかすだけの親ではなく、しっかり一人でも生きていける様に育てられた事から導きだした答えだ。




そうは分かっても、簡単には納得できない。


私から離れた理由を聞きたい。


残していった物の意味も知りたい。




母を思う感情が胸に渦巻いて行く。




それから私は一人で、母を探す旅をして行く事になったのだ。




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