第10話 モノノオウサマ
「結局あの人達なんだったんでしょうね。突然現れて、また消えて」
目的皆無、成り行きとしか言いようの無い通り風感。
「以前から変わった方々でしたからね気にするだけ無駄というものです。それより伝えるべき事があるのです」
「伝えるべき事?」
「ええ。
狂三郎さんが、街にやってくるみたいですよ」
「え、お父さんが!?」
「はい、本日の13時頃に」
「そんなにフランクに!
でも無理だ、今日は予定があるんだ」
「予定、ですか..?」
我が父の再開など二の次で、他にやりたい事がある。今どきや年頃ではなく父親など全ての事象の二の次だ。
「最近出来た博物館にね、見たいものが沢山あるんだ。入場料も安いからいつか一人で行こうと思ってたの。」
「そうですか、それは丁度良かったですね」
「丁度いいの?」
「はい、待ち合わせ場所が博物館だったので同じ場所かと」
「えっ..。」
数日温めていた余暇を父親に阻害される。こうして娘は反抗期を迎える。
「では早速参りましょうか」
「え..でもまだ11時ですよ?」
「そうですよ。二時間もあれば、余ってしまうかもしれませんね」
「妻鹿似さん..!」
粋な計らい。よく見ると手元の広告には〝恐竜展〟の文字が。
「愉しみですね」「はいっ!」
ここから約二時間、知識と感覚で大いに、存分に堪能した。恐竜の骨を。
「やはりいいものですね、一人でゆるりとまわるというのは」
「そうですね、本当に最高でした。」
解散・集合するポイントのみを決め、中を各々でまわるという自由システムを取る事で、見たい箇所を好きなだけ堪能するという方式が取れる。
「集団で動くと大変ですからね」
「そうそう。
大きな剥製じっくり見たいのに、よくわからない苔のゾーン見させられたりするのよね..」
意味の分からない時間、なんでここなのかと問うと「ちゃんとよく見れてなかったし」という〝知らねぇよ〟ど真ん中の解答。はた迷惑の全部のせだ。
「基本一人で来るのがマストです」
そんな彼等の集合場所は勿論謎のコケ生息ゾーンだ。
「おや、そこにいるのは妻鹿似くんだね?」
「やって来ましたか、遂にね」
「別に待ってませんけどね..」
眼鏡に白衣、見慣れた顔のこの男。
「久し振りだね、美禄。
元気でやっていたかな?」
「お、お陰さまでお父さん..。」
挨拶を交わすのが照れ臭くなった。それ程までに時期が空いたのか。いや、実験を行う訳でも無く、着た事もない筈の白衣を身に纏っていたからだ。単純にその姿に、キモさを感じた。
「突然何故ここにいらしたのです?」
「少し用があってね、顔を出したんだよ。娘にも会いたいしね。」
「私は、もう少し中を見ていたかったけど..」
「ごめんごめん、急ぎ過ぎたね、悪かった。」
「……」
穏やかな笑顔で微笑む、前と変わらぬ父だった。しかしずっと気にかかる事がある。狂三郎の奥、古い服装の見慣れぬ男が、無表情で立っている。
「後ろの方はお知り合いですか?」
「ん、あぁ。
そうだ、紹介がまだだったね。僕の助手の村正だ」
「..宜しく仕る。」
口調も古い、聞き慣れないどころか教科書に載るくらいの歴史を感じる。
「助手など今まで付いていましたか?
記憶に覚えが無いのですが」
「旅先で出会ってね、日光江戸村でバイトしてた。」
バイトの題材も古い。寧ろそこからの影響か。いや、浅い時間で培える感じではない。恐らくもっと前からだ。
「長らく携帯も繋がらない境地にいたからね、本当に久し振りだよ」
「だから待ってないんだってば..。」
「大変だぁ!」
「なんです?
物騒ですねぇ、迷惑を被ります」
職員らしきミュージアマーが注意を喚起しつつ館内を駆け回る。
「早めに一周しておいて良かった。
..それにしても何があったんだろ?」
「先生」「ああ、そうだろうね..」
何かを存じた様子の学者班、それは職員の口から軽々と告げられる。
「恐竜が、暴れ回っているっ!」
「うそ恐竜〜!?」
白亜紀からこんにちは、天真爛漫ジュラシックパーティが館内で開催されたという決死の宣伝だった。
「恐竜が動いているのですかぁ..!」
古い仲間としては心踊る催しであったが当然他の客は逃げ惑う。
「君たち、何をやっている!?
早く逃げろ危ないぞ!」
「正気ですか?
逃げるなど勿体無い、古代の勇姿を見届けるべきでしょう」
氷河期とは真逆の温度で跳ね返す。
「これって演出なのかな?」
「だといいけどね。」「違うの?」
「彼等は自分の意思で動いてる。」
「..拙者たちは元々それを抑える為に参った」
「拙者とか言うんだ..。」
恐竜に慄きたいが時代が入り組み感覚がブれ、一周回って穏やかな気分で佇めている。
「はやく逃げろっ!」
「..逃げろと言われましてもね、閉鎖したのはそちらですよ」
博物館の入り口は閉ざされ外に出れない様になっている。脅威を街まで露出させない為だ。
「館内でウロウロしたって無駄なんじゃ..」
「いいからっ!
できるだけ距離を取って安全なところに...」
『ガタガタうるせぇなぁ..現代人はみんなそうか?』
威圧的な口調、声。
声が終わると重厚な足音が、地を揺らして鳴り響く。
「あっ..あ、あっ...!」
「何?」「現れたね。」「……」
「いきなり王様ですかね」
柱を削り壊して現れたのは白い狂獣、博物館きっての大きさを誇り尚且つメインスタチュー、ティラノサウルスの化石。
「でか!」
「それはそうでしょうね、ティラノサウルスの体長は4.6m〜約6.1m。地上で最大の肉食獣で..」
「熱めの補足、余程好きなのね」
無口な奴が口弁を垂れる程の衝撃、太古のロマンという言葉があるが、現代でも凄まじくロマンだ。
「邪魔だどけ」 「うわ、嘘だろ!」
足元の職員を牙で拾い噛み砕く。バリバリとモノが散る音が空に靡き鳴る。
「まっじぃゴミだな、ここらのは不作ばっかかよ。〝館長〟ってのも似たような味してた」
「食べてる..!」
「肉以外も食されるのですね。」
「ふむ、興味深い」
「……」
職員が目の前で食べられた事を工場見学的な感覚で愉しむ各々方。見方を変えれば発見は無限大だ。
「あぁ〜?
あんなとこにいいマトがあんじゃねぇか、体でも慣らしとくか。」
こちらをぐいと睨みつけスカルビーストがふれあいに駆け寄る。
「くるぞ皆、おそらく逃げても追いつかれる。よく見て防御態勢を取るんだ!」
「そんな無茶苦茶ある?」
「止むを得ませんね..」
あたふたを度外視し、容赦を持たず化石は地響きを掻き鳴らす。
「もういい、しゃがめ!!」
抵抗のしようが無く、その場で腰を落とし体制を低くする。白い悪魔は震える小人に目もくれず、疾る足にブレーキをかけ、外と館内を隔てる窓ガラスにむかって渾身のテイルスイング。ガラスは弾けて博物館は境界を超える。
「ガラス割っただけじゃん..。」
「ダァメだ、やっぱし本調子とはいかねぇなぁ〝不完全〟だからよ。」
「大胆な事を致しますね」
「..元が恐竜だからな。」
「それよりマズい、ガラスを壊されたという事は外への道が開かれたという事だ、せっかく館内に隔離したのに」
閉鎖された扉が口を開けた。世界の時系列が今、断たれた。
「まぁいいか、その内元に戻るだろ。オイ、お前ら出てっていいぞ!」
声に呼応するように、部屋中をけたたましい雄叫びが高鳴る。
「何っ..!?」
「これは、もしや?」
「..ああ、ハザードの合図だ。」
声は形となり敵となる。館内中の化石達が、外へと空いた穴から陽の光の下へと飛び出してゆく。
「喰らい尽くして生長しろ!
過去のモノとは言わせるな‼︎」
「喰らうって、街の人の事?
皆みんなエサにするつもりなの!?」
「彼等は不完全なんだよ。」
「不完全、さっきも言ってた気がするけどどういうことなの?」
意味を深める不完全の言葉、狂三郎の話によれば、化石達は成長過程という事だ。
「化石というのは元々恐竜の成れの果て。彼等はツクモノを喰らい、素の恐竜に戻ろうとしているんだよ」
「素の恐竜にって、そんな事ができるものなの?」
「..そもそも彼奴等は恐竜の骨のツクモノ、化石になった時点で欠陥した事になり今は最大限に力を出せていない状態なのだ。」
「あれ程で全力ではないとは恐れ入ります。しかし何故でしょうね、某は今非常に息巻いています」
「何ワクワクしてるんですか。それより
感心する時系列が異なるも気分的高揚は同じ、根本がポジティブなのかもしれない。
「とにかく街が危ない。
既に相当の被害を被っている筈だ。」
「..拙者らが街の護衛に回らねば」
「私はここに残ります、個人的に用があるので。」
「妻鹿似さん、今私って..」
「拙者の方がいますかね、某は名乗り難いのですよ」
恐竜派は侍に靡かず。
「美禄さんも外へ、狂三郎から離れないように」
「嫌よ、外なんて。
何に遭遇するかわからないし!」
「..そうですか、ならば出来るだけ私と離れて館内の何処かへ身を潜めていてください」
「わっかりました!」
強めの敬礼をして距離を取る。中が安全だとは一切言っていないのだが。
「妻鹿似君、娘を頼んだ。僕たちは外をどうにかしてくる。」
「お気をつけて、武器を持たなくて構いませんか?」
「大丈夫だよ、ぼくには村正がいる。ね、村正?」
「..御意っ...!」
「さて、整いましたね..来た甲斐がありました」
「あぁ..?」
邪魔者は消えた。目当ての相手を存分に拝み調べ上げられる。
「お前は何してんだぁ?
外はブッ壊れ寸前らしいぞ。」
「知った事ではありません、某は貴方に興味があるのですよ。古きモノが好きでしてね」
「古きモノってのはオレのことか?
..馬鹿にしてっと噛み砕くぞ、いつからテメェより廃れたんだぁ!?」
「過程を終えた後にも興味はありますが厄介ですね、骨のままよく観察しましょう」
展示物では飽き足らず、距離を詰めて見たいと思った。余り物事に関心を示さない妻鹿似にしては珍しい振る舞いだ。
「テメェも糧にしてやらぁ‼︎」
「食されるのも一興ですね、ご遠慮しますが!」
本日も館内は大賑わいです。
カナモノ町
中心街には常にツクモノがごった返しているが、今回は特に活気に満ちていた。
「なんだこいつら、どっから湧いて出た!」
「犬の骨!?」「こりゃトカゲだ!」
「こんなでかいトカゲがいるか!」
「なんでもいい、とにかく逃げよう、皆アイツらに喰われてる!」
襲われる街人を見て、四方に疎らに逃げ惑うツクモノ達。しかしそれを塞きとめるように、二匹の巨体が出口を狭める。
「おっと、何処に行くんだ?」
「逃げられると思ってんのかよっ!」
二つの角を持つモノと大きな棘の背中
の竜。何人も通さんと門を気取って塞き止める。
「なんだお前らぁ!」「そこをどけ」
「だから通さねぇって言ったけど?」
「話聞いてないのかよっ!」
おちゃらけた声を上げる度床が揺れる
「..先生、先を越されたようです」
「くそ遅かったか..」
そんな処に遅れて登場。眼鏡に白衣とけして救世主感は無いが必死をこいて駆けつけた。
「君たち!」
「え、なにダレ?」
「知らないヤツ出てくるんかいっ!」
「今すぐ暴動を止めるんだ。」
質問を無視して注意を促す。取り仕切るモノに直々に告げれば現場の勢いを一気に鎮めるに効率が良い。
「は何ソレ、本気?」
「二人でやるつもりなのかよっ!」
しかし当然聞き分ける訳も無く。
「仕方ない..皆さん、下がっていて下さい。」
「やってくれるのか?」
「やるだけ力を振るってみますよ。
行くよ、村正!」「..御意に。」
村正の身体が一振りの刀に変わる。しっかりと鞘に収まり、歴史を感じさせる形状が、狂三郎の掌に握られる。
「骨の今ならなんとか斬れる、時間を掛けてられないな。」
「うそ、剣抜くの?」
「そいつツクモノだったのかよっ!」
白刃が陽を反射させ鋭利に輝く。
「速攻でいこう、村正」
「..いざ、参る!」
二心一体古代へ斬り込む。
「一体どうなってやがる?」
街の変わり果てた姿に驚嘆し眉間にしわを寄せるのは、恐竜よりも前から街の脅威を担っている音域のガディウス
「骨の化け物がガラクタをエサにしてんのか?
出し物にしちゃ寒過ぎるぜ。」
「クワセロ!」
「喋りやがるのはちと面白ぇがな」
飛びかかるオオトカゲを肘打ちで砕きつつ数少ない利点を評価。抜け目なくかつバランス良く。
「くあっ、くおっ、まったく。
..何だこの数は、何の事態だ!」
「げっ..!」
一難あれば連鎖を生む、去ることもなく次がやって来る。
「ん、貴様ぁ..何をしている?
まさかこれに乗じて逃げおおそうとしているのか!」
「バカ
「当たり前だ!
そもそも目的はお前だけ、こんな生き物眼中に無い。」
「いい加減にしやがれよ!?」
脚にローラースケートの音を宿し逃走を図る。
「待て!逃すと思うのか!」
ここだけは変わらずの日常のままだ。
「不味い、ゲロマズだ」
けたたましく暴動は勢いを付け、より多くの被害をもたらしている。
「う、クソォ!
これ以上暴れさせねぇぞ!」
「お前も同じモノを持ってるナ、動物の歯か?」
手に握る白いナイフを見つめ首を傾げる。しかしそれが何なのかは特に気にする事でも無い。
「とにかくクワセロ!」「あぁ〜‼︎」
ガブリと齧られ一気にエサに、数奇なものである。
「やっぱり不味いナ、ゲキマズだ。もっと美味ソウな奴は...ン?」
空き地の向こう、何も無い原っぱにドラム缶で作られたソファが一つ。その上でキシキシと刃を研ぐような鋭い音がする。
「オマエ、美味いのカ?
持ってるモノはサッキと違うナ。」
「..てめぇか、オレの舎弟を食い尽くしたバカは。骨剥き出しでみっともねぇナリしやがって。」
「オマエの手の牙もボロボロだゾ。」
「悪りぃかよ?
出来損ないのカラクリにやられたんだよ、お陰で
嫌な過去が、再度頭をよぎる。
「なんだ〝クイノコシ〟か、不味そうだナ..。」
「あん、今テメェなんつった?
喰えたもんじゃねえってか!?
勝手に決めんなや!
頭来た、サビ落としにしてやらぁ!」
廃れたチェーンソーの引き金を引く。マヌケな音を鳴らしながら、歪な刃が振動を開始する。
「噛みつき対決カ。
強いぞ、アロサウルスのグリジョー様はナ!」
「歯茎ごと削り取ってやらぁっ!!」
取られた縄張りを、今取り戻す。
「ん、何だアレ?」
騒動の報せの遅れた水辺、カナモノ川そこで一人釣りをする男がいた。
「でかい影が見えた気がするけど気のせいか、大物なら心震える限りだが」
別世界のように喉かな川には一匹たりとも獣がいない。見落としたのか、用がないのか。それは正当に単純な理由で、来る必要が無かったからだ。
「..また水面が上がってきた、やっぱりなんかいるな。」
大きく水面がぶくぶくと音を立て、浮上している。音は徐々に大きくなり、浮いた水が弾ける頃に最大限に鼓膜を揺らす爆音となる。
「蛇、いや..竜か?」
弧を描き空を撫でる体躯が、一瞬太陽を隠す。ひととき視えたその姿は、確実に古代を象徴していた。
「ヘイヘーイ♪
ヒューイちゃん完全復活〜!
モデルオブプレシオ〜🎶」
水の中で響く軽快な声は影をぐるぐると回転させ素性を表す。言葉を聞くとプレシオサウルスのツクモノ、名はヒューイ。一瞬露出した身体には肉が付いていたため何らかの方法で一足早く素に戻ったのだろう。
「古代魚か、また珍しい獲物だな」
「ノンノン〜魚じゃないよ〜?
プレシオ!恐竜だよ!さっき下の海まで下りてきてさー!水浴びしてたら身体が戻ってんの、嬉しくて一杯お魚喰べちゃったんだよね〜!!」
「よく喋る魚だな。」
聞いてもないのにベラベラと、パーソナルデータを吐露する。情報社会では由々しき事態だ。魚のパーソナルデータなど聞いた事は無いが。
「おじさん何やってる人なの〜?」
「俺か?俺は釣りだよ。」
「嘘釣りやってんだぁイカス〜♪
チンボクの事も釣って見る?ムリだろうけど〜🎶」
「お前を?
そういや恐竜はまだ釣った事無かったなぁ、面白そうだ!」
「え..本気なの?」
「当たり前だぁっ〜!!」
躊躇なく釣り糸を放り込む。獲物は一つ、道具も一つ。
「ウヒャア!マジでやりがった!
でも甘いなぁ〜甘い甘い〜♪」
水中で廻転し、生じた渦に流れる。名人河童山も負けじと回る体躯を目で追い釣竿を振る。
「よし、捕らえた!」「嘘嘘〜🎶」
腹部に刺さると思われた先端のルアーは、入りが浅く直ぐに抜けてしまう。貰った釣竿だからか、多少欠陥しているからか、前者は無くとも後者の要因は多分にある。しかし上手くいかぬ理由は他にもあった。
「魚じゃないからか..形だけじゃあ難しいなもんだな。」
河童山は釣竿のツクモノ、釣竿は本来魚を捕る道具。シルエットがいくら酷似していようと魚でなければ充分な力を発揮する事は出来ない。
「仕方ない、獲物への侮辱になると思って使わなかったアレをやるか。」
竿を一旦置き、床に掌を打ち付ける。
川につながる川原の芝生の盛り上がりから、等間隔の装置が現れる。
「高性能網付き捕獲竿、お前に逃げ場はねぇぜ?」
ピッチングマシーンの様な四角いその機械が、角度を調節し水面の獲物へ狙いを向ける。
「捕らえろ!」
飛び出す鎖が四肢を、そして胴体を縛り上げる。
「ちょっと!ズリぃくねコレ〜!?」
生憎口を塞ぐ本数はない為強めに無視をかまし仕上げに入る。
「完全拘束だ、魚もどき」
勢い良く放たれた身体を悠々覆う程の大きな網が、のし掛かるようにプレシオを包む。
「全っ然動けねぇっ!
自由を奪うって酷すぎドロボー!」
「仕方ねぇだろそれが釣りなんだよ」
「悪趣味なんだよオジさん!
だからって縛ることないよね〜?
..ま、関係ナイけど♪」
固まった体を小刻みに動かす。初めは無意味な抵抗だと思ったが、そういった事も無く、よく見れば拘束が緩み出しているようにも見える。
「ダンスダンス♪
エボリューションパーリナイ!!」
小刻みに揺れた事で振動した空気が小さな刃となり、水の衝撃波を生み出す
馬鹿馬鹿しいかもしれないが、これが古代の力だ。
「ズバッといきまショウ♪」
黒光りする鎖を断ち、網を斬り裂く。活きの良い首長竜が自由を戻し水を弾く。
「上手くいかねぇなぁ..」
「もうこんなマシーンいらんよね♪」
尾を打ち付けた水の衝撃波で網付き竿を破壊、川の藻屑と消える。
「ああっ!」「次はその釣り竿♩」
「それだけは渡せねぇな。」
欠陥こそしているが修復を早める要因となった贈り物の釣竿。これを奪われれば釣りは完全に行えなくなり、再び深い欠陥を生む。
「これは護り通す、絶対な」
「持久戦って?無茶するね〜それ!」
水衝波の標的が実質河童山へ、竿を抱えて逃げ回る。直接受ける事も危うい一つ残らず避け切って、隙を待つ。
「ほらほらぁ〜!」
「..実は網付きマシンの破壊で結構やられてるからなぁ、これ以上の傷は確実に破壊に繋がる。」
周囲の人工物をかき集めて作った事もあり、直接の傷は半減しているが危機を逃れた訳では無い。
「やっぱ一本釣りに限るか!」
「一本釣り?面白そうじゃん♪」
「覚悟しろよ、そらっ!」
釣竿の先端を形状変化、槍の様になり廻転。水を泳ぐプレシオの腹に目掛けて突き刺さり、食い込む。
「ぐあぁっ..こんなヤバイ隠しタネまだもってんの?
ホントにズリィじゃんよ〜...。」
「大物釣る為なら何だって仕込むだろ。釣りってのはな、命懸けでやるもんじゃねぇ。隅っこでひっそり愉しむ余暇なんだよ。まぁ釣り上げるのは、魚だけだけどなっ...!」
たかが釣り、されど釣り、けれどもどこまでいこうと釣りは釣り。
「くあぁ〜!!チカラワザする〜!?
でーもパワーならまけナイよ♪」
「お前、海に降りたって言ったよな」
..?...降りマしたケド??」
「大きな魚喰ったよな。」
「鱈腹いただきまシタ🎶」
「ったく、親に教わらなかったか?
落ちてるモン勝手に食うなって。生態も知らずに喰ったんだな」
「関係ないでしょー?♪」
ゴミはゴミ箱へ、キノコは図鑑で調べてから。順序や在り方を誤ると、大のつく失敗に繋がる。
「お前が食べたのは広晶魚、陽の光を反射して水面を光らすこの川の主だ。
..だけど太陽は熱過ぎて、身体が火照っちまうから直ぐに水に潜らなきゃ焼けちまうんだよなぁ。」
反射した後水が待つ、しかし今は腹の中。熱を冷ますには暖か過ぎる。土台は打ち上げられ水の遥か上、浴びるには遠過ぎる。
「嘘、嘘..嘘っ〜!!」
「ホントだよ、喰ったエサに中から焼かれろ。」
空いた口から刺した光が、身体を炙る
時間を掛けて得た肉は溶け、剥けた骨は跡形と残らず
「悪りぃな川の魚達、餌になる程残らなくてよ。」
川と釣り人、共に収穫は無しとなる。
「流石に硬いね、良く絶滅なんてしたものだよ。」
「それ本気で言ってんの?」
「褒めてんのかよっ!」
「段々指摘が雑になってきているね」
「..急がねば。」「だねっ!」
鍛えてもいない細身の歴史学者が刀を有利に振り回すのは力のベクトルが腕では無く刀にあるから。持ち手は単なる支えでしか無く、動いているのは刀の方。百戦錬磨の名刀は、主である武士ですら操るのだ。
「痛くねぇけど骨にひびくな、そろそろ戻ってもいいんじゃね?」
「もうそれできたのかよっ!」
骨に肉が付き、特徴がより際立つフォルムとなった。ステゴの棘、トリケラの角。穿たれる特出した骨達。
「君たち、自分から戻れるのか?」
「条件があってさ、オレらの場合打撃を骨に当てる事だった訳、わかる?」
「しっかり説明すんのかよっ!」
「個人差によって異なるのか..」
「……。」
捕食の数で戻るモノ、特徴にちなみ変わるモノ、中にはまったく関係の無い事で覚醒するモノもいる。
「それで、本気出していいのね?」
「全力で潰すのかよっ!」
立ち伏して、動かなかった二頭が動の形へ移行する事を告げる。
「..悪いね、そうされると厄介だ。回帰したばかりで申し訳ないが、斬らせて貰うよ。」
「無理じゃね?」
「無駄な行動かよっ!」
「君たちが体慣らしをしていたならば、此方も同じく刃を研いでいただけなんだ。知ってるかい?
刀には逸話というのが存在してね」
名刀や伝説、世に知れた刀は意味を持ち、飛び抜けた話を皆抱えている。
「え何、昔話?」
「聞く意味あるのかよっ!」
「そう、例えば
斬れ味の鋭い刀でね、重ねた死体を使って試し斬りをしたら、簡単に二人を切断して三人目の背骨で止まったらしいんだ。」
「へぇ、そんなのあんの?」
「三人目、斬れなかったのかよっ!」
「見せてあげよう。これが、名刀大典田の斬り口だよ..!」
踏み込む早斬り、狂三郎の身体が巨軀を突破するとトリケラは半分、ステゴは抉るように一部が削ぎ落とされた。
「身体がっ..?」
「もう斬ったのかよぉっっ!!」
傷をつけられ欠損した事で、徐々に骨の化石へと戻っていく。
「動けないだろうけど、留めは刺さない。あとは任せたよ、街の皆さん?」
「おう任せとけ」
「よくも脅かしてくれたな!」
狂三郎の剣撃の魅せられてか周囲の恐竜達は既に町人に倒されていた。あとは親玉、元凶を断つのみ。
「あれ〜、これ結構ヤバくねぇ?」
「俺たち、仕返しされんのかよっ!」
ガラクタ達はその日、古代の支配者のマウントを取った。
「クソっ、トカゲもどきのいるせいで上手いこと動けねぇ!」
区切る必要も無いのだが処変わればまた別の戦いが存在し、置かれている境遇も異なる。
「どうした音域のガディウス、脚元がモタついているぞ?」
「うるせぇないちいち!
あと名前しっかり呼ぶんじゃねぇ!」
「クワセロ!」「あぁ邪魔だ。」
しつこい追跡者に追いかけられ、脚元は昔の犬に阻害され、自由な逃亡者の筈が手枷に足枷をはめらめガチガチの状態に。
「そもそもお前は、なぜ逃げる?」
「お前が追いかけて来るからだろ!」
「それは貴様が強盗と殺人を..邪魔だトカゲ...繰り返すからだ!」
「こっちだって事情があんだよ、そもそもな..邪魔だトカゲ...何年も捕まえられねぇなら諦めろっての!」
「そんな訳には..」「こっちもな..」
『「だぁっ〜トカゲうぜぇっ!!」』
話の端々で迫り来る恐竜のレプリカを煩わしく思い、声を上げる。するとその声を聞き分け、手を振る者がいる。彼の逃亡中に声を聞きつけ手を振る者など、彼女しかいない。
「お父さーん!こっちこっちー!」
「お父さん?
お前、家族が有ったのか!」
勘違いすんな!
あんのガキ、こんなタイミングで。」
「おーいおーい!」
関係無く両手で手を振る少女。逃亡犯と少女、余りにも組み合わせが悪過ぎる。当然疑いの目だ。
「おい、説明しろどういう関係だ!」
「んな事言ってる場合か!
..取り敢えず今は避難が必要だな、一緒に来るか?」
「話を逸らす気か!?
まず今の状況をしっかり説明して..」
「来るのか来ないのかどっちなんだ?
それともここに一人残って、群れのエサんなるか!」
「...後でしっかり聞くからな!」
辺りの様子を考慮して止むを得ずに従った。
「ここでゆっくりしててね、今紅茶入れて来るねー」
腰の高い椅子に座らされ、浮いた裏をなんとか地に付けながら気取りすます
「おい、それであの娘とはどういう関係だ、まさか誘拐じゃあるまいな?」
「バカ言うな、招かれたのはオレの方だ。..成り行きで知り合ったんだよお前には関係無ぇ。」
普通ならばここで何とか終息する。しかし警察というのは、情報を隠される事を忌み嫌う。あの手この手で聞き出そうとする様はおぞましく、変態の極みだ。
「言え、一息着く前に止められたいか?」
「..何てもん出してやがる、仮にもガキの前だぞ」
「指名手配犯が云うな、これは元々お前を撃ち抜く為の道具だ。」
「使い慣れてんならよく考えろ、期待はしねぇが正義語んなら..」
「ギャース‼︎」「なんだ!?」
扉を強く叩く音、喚き鳴く獣の雄叫び
「..こんなとこまで来やがるのかよ、人もモノも見境無いんだなアイツら」
「お父さん。」
「じっとしてろ、外出んな。」
余計な真似はするなと指示し、扉の様子を伺おうと席を立つ。
「待て」「今度は何だ!?」
威嚇の為の拳銃が、眉間に向けられた
「..本当に何のつもりだ?」
「彼女との関係を言え、行動に移るのはその後だ。」
頑なに口を割ろうといって聞かない。
「マジでロクな野郎じゃねぇよなお前
ガキ、耳塞いでろ。」
「耳?」「いいから!」「う、うん」
せめてもの配慮、こうでもしない限り侮辱に近い扱いをする事になる。
「気になる点がいくつかある。何故こんな大きな家に一人で暮らしているのか。それにその女の子、に...」
「言うな!」「..何?」
「わかってんだろ、口にしなくても」
己と違う、彼女が年を取り死んでいく存在だという事。口にするのは下品過ぎる。
「昔は母親と父親、多分その三人でここにいた。当然父親はオレじゃねぇ。
街の連中とは違う、平和なもんだ」
「それを貴様が殺めた、そうだな?」
「..あぁ、そうだ。」
「白状したな、遂に貴様...‼︎」
潔い吐露、負けを認めた訳じゃない。
「お前も知ってるだろ、何年か前に騒ぎになってた〝人工ツクモノ寄生事件〟。」
「お前、そんな事件にも関係が..!」
「人の気配のしねぇこの家に侵入(はい)ったときによ、ここの両親は自我を失って部屋を彷徨ってた。」
生気を吸収されては、人の影を失うのも当然。
「仕方ねぇから壊してやったら父親の方が死ぬ直前に我に還りやがってよ、娘の名前を呼ぶんだよ。」
「……お前まさか..」
「オレは名前にある通り音を拾う体質でよ、その声が、全部頭に入ってきやがんのよ。」
「それで、それで...!」
「クローゼットに入っていた私の耳にそれが届いて貴方をお父さんだと勘違いしていた。」
「耳塞いでろって言ったろ?」
「..君、聞いていたのか」
壊れた記憶の形が鮮明に修復される。
「貴方が、私のお父さんを殺したの」
「..母親もな。」
「ずっと、騙していたの?」
「お前が忘れてただけだろ。」
「お嬢ちゃん違う、コイツは君の両親を..」
「五月蝿い!!」
知らなくていい真実を、知るべきではない年代に垣間見た。誰も悪くは無いだが、皆が悪人だ。
「出てって!」「我儘なもんだな」
街を潜んで疾るのと、同じ顔つきで冷たく部屋の床を踏む。別れを告げず、されど二度と会う事は無いと。
「行くぞバカ刑事、ついてこい」
「何処に行く気だ?」
「決まってんだろ、寂しさを紛らわしに行くんだよ。あんだけ外で暴れてりゃ、一匹くらい可愛いペットも見つかんだろ」
「..まぁ確かに、このままという訳には行かんしな。」
叩かれる門を強く蹴り、外へ宣戦を布告する。
「有難うなガキ。
会った事はねぇが、お前の親父は多分とんでもねぇ良いヤツだぜ?」
音はとうに消えているが、プレイリストが脳裏にへばりついている。
「やっと出て来たカ!
スピノサウルスの餌食にナんナ!」
「..聞かせてみろよ、お前の音」
逃げる事無く、立ち向かう。
調査メモ
ティラノサウルスの骨格は非常に硬く拳銃、マシンガン、ショットガン、いずれの如何なるものでも傷を負わない
「あと特出すべき点はと..」
「メモなんかとってんじゃねぇよ!」
「すみません、生憎データ保存機能は付いていないのですよ。ですからこうしてメモをとらないと、得た情報が確保できませんご了承を」
相手にとっては数年ぶりのハメ外し、妻鹿似にとっては貴重な生きた個体の生態調査、空気感がまるで違う。
「さて、続いてのセクションに参りましょう。ドリーム・ギア」
何に変わるかわからないギャンブルパーツドリームギア、名前の通り儚く散るか、日の目を見るか。
「このパーツの可能性を最大限に引き出す必要性があります、その相手としては有り余る程のタフですからね」
「何か言ったかぁアリンコ?」
「いえ、何も..」
右手が徐々に、形を成していく。
「大口の当たりがいいのか、じわじわとした破壊がいいのか..某に決定権はありませんがね」
ぶつぶつと独り言をしている間に、右手は突起の着いた砲台のような形へ変わる。ショットギアと形は似ているが先端に丸い金属が張り付いていた。
「これは、何の円盤ですかね?」
「チョロマカ動くなよ、いちいち見分けがつかねぇからよ!」
「動いてませんよ、今から酷く稼動しますがね」
「噛み砕いてやらぁ!」「それ。」
大きく開いた口から生える前牙に金属の円盤を撃つ。牙に張り付く丸い円盤はカチカチと何度か鳴った後、爆風を放ち破裂する。
「ぐふあぁぁ!!」
「成る程、これは爆弾ですね。
..中々良い当たりクジです」
「イデェ!
てめぇ何しやがる、バカみてぇな声上げちまったじゃねぇか‼︎」
意外に恥じらいはあるようだ。
「そうですね、暫く経てば叫ぶ時間も奪われますよ」
「あぁ?
てめ一体何言って..いっ!」
二発目の準備をしている姿が目に入る恐らく三発、四発と続くだろうと勢いと表情で判断が出来た。
「もう撃たせねぇぞ、一発もなぁ!」
「遅いですよ?」「なっ..クソッ!」
野性、策に呑まれる。
「ひっ!
今なんか大きな音した!」
外に危険を感じ博物館で身を案じている美禄の情報量は最早フクロウ。目で見えるものは何も無く、耳に入る音程度しかヒントを持てないでいた。
「恐竜相手だっていうからあんまり興味持たなそうな場所に来てみたけど、考えてみれば他の展示品が動かない保証もないのよね。」
目立つものがあからさまに暴れているというだけで、それ以外の古墳の中にいる人や何処かの民族の祖先的な人物のレプリカが何らかの動きを見せる可能性は充分にある。
「今だって展示物の棚の下に..」
「おい!」「えっ?」
「おいって!」「今なんか声が。」
「上だよ上、おいっ!」 「上?」
上だと促す声のする棚の方へ身体を起こして見てみると、その正体は何ともいえない存在だった。
「なんだ苔じゃん。」
「なんだってなんだっ!」
「何か用?」「え、ナメてる..?」
待ち合わせ場所で人と話す事はあっても、待ち合わせ場所が話す事は無いので特別かつ初めての感覚、二度はいらないが。
「大変な状況だな、俺もここから様子を伺ってたが凄かった。次々と骨の恐竜が外へ出て行っちまってよ。」
「黙って見てたの?」
「ちょっと厳しくない?
俺苔だよ、生えてるだけだろそりゃ」
「役に立たねぇ..」
「はっきり言うなよぉ、苔なりに悩みもあんだぜ?」
「じゃあなんか教えてよ、この状況どうにかできる方法とかさ。」
「どうにかできる方法?
そうだな、役に立つかはわからねぇが敵の秘密なら一つ知ってるぜ!」
「秘密?
何よそれ、教えて。」
「どうしよっかな〜?」
「早く教えろバカコケ。」「..はい」
お前に焦らす権利は無い、すっと伝えてフェードアウトが望ましい。
「あのでかい奴いるだろ、顔に包帯巻いた男か?」
「それが何よ。」
「アイツが俺の方向いてな、隠れるように包帯外して巻き直してたんだけどよ。露わになった顔見てびっくりよ」
「え..?」
「ほかの部分は普通なんだけど、包帯で巻かれた箇所だけは穴空いて深く陥没してんだよ、びっくりするよな!」
「うっそ..!」
ずっと気になっていた秘密が暴かれるスパナでも直せなかった、恐らくツクモノになる前の持ち主に付けられた傷であろう。
「びっくりだろ、な?」
「それ敵じゃないし。」「何!?」
「ていうか何でこんな処でわかるかな本人の口で聞きたかった..。」
どうでもいい苔の告げ口での判明は、週刊漫画のネタバレに近い感覚。酷く落胆する衝撃。
「なんだよ、お前が聞いたんだぞ?」
「そうだけど..」
「元気だせよ!
..そうだ、楽しい祭りに参加させてやる。」
「祭り?」「ああ、待ってろ、な?」
コケが指笛を鳴らすと、聞き取れない言語で唄う浅黒い殆ど裸の人々が現れ美禄を担ぐ。
「ちょっ、ちょっと!何コレ!?」
「大丈夫だ、ヘタな事はされねぇ。
愉しい宴だソイツらなりのな!」
「オッオッ!」「いや、いやぁ〜!」
悲惨な場所にも、娯楽が在る。
「おかしいですねぇ、徐々に火力が落ちている?」
「違げぇよザコムシ、オレの骨がモノともしてねぇんだ!」
軋んでいた骨格が、爆破に順応し克服した。少ない間で急成長を遂げている
「元に戻るのも時間の問題か?
それならば仕方ありませんね、形を変えるしか..」
「オレを潰す形がわかんのか?
ありゃしねぇんだよそんなモンは!」
「隕石以外には、ですか?」
「..てんめぇ」
変化の動作までは自在に機能する。その後は相手次第だ。今回腕に宿りしは、長く太い拘束具。
「縄、微妙ですね」
「なんだぁハズレかよ、嫌われ者が」
「当たりが珍しいのですよ、嫌われていて通常通りです、よっ..!」
凶の出来の縄を首にかけ裏側の筋の部分へ飛び乗る。といっても未だ骨なので設置面は少ないのだが。
「それでひっ捕らえたつもりかぁ!?
ドライブと行こうじゃねぇか!」
妻鹿似を薙ぎ払う勢いで地団駄を踏み首を振り回し走り回る。床を踏みしめるたびにヒビが割れ、コンクリの破片を周囲へ飛ばす。
「節度のない..!
理性もモラルもありませんね」
「そんなもんいらねぇ!
力さえありゃ生きていけんだよ!!」
「これでは足りない、せめて全身を拘束し、電流でも流れれば気がきくのですがね..」
右手がひとりでに変化を始める。
「何っ!?
変わるタイミングも自由ですか!」
「なんだ?
首元が緩くなったぞ、振り落とされちまったのかぁ!?」
横暴な獣、我儘な右手。
巻き込まれる迷惑を被る薄情者は、更に以外なものを見る。
「このままでは本当に身が危ういのですが..おや?」
首元から降り、恐竜の足元で右手を振るう。巨躯は全身を拘束され、電流に刺激される。
「ぐおっ..なんだぁ!!」
「拘束具に電撃、そうか。
..わかってきましたよ、このパーツの使い方が」
拘束具を付けたまま跳び上がり、右手を前へ
「貫通する拳..」
右手が姿を変え、貫通する拳を腹に入れる。
「ぐおっ...!」
「炸裂する巨斧」
くるりと振り返り斧で一閃、斬られた切り口から衝撃は拡散し爆裂。
「があぁぁっ〜!!」
膝を落とし、床へ突っ伏した。
「やはりそうですね、ドリーム・ギア
頭で考え、思い浮かべた形が武器になる」
元々が子供の玩具ゆえ限界はあるだろうが、思い浮かべた想像を、物理的な現実の武器に変える。それがドリーム・ギアのギミックだ。
「夢なんて寝ながら見やがれ、オレにぶつけてくんじゃねぇっ...!」
「立ちますか、タフですねぇ。
..それに貴方カラダが」
「あぁ、おかげさまでよ。昔のムカつく感覚を思い出したようだぜ..」
骨の周囲に肉が形成され、本来の力を取り戻していく。
「現代の奴は呑気だなぁ、夢だなんだと語りやがって..生きてる事が当たり前だと思ってやがる!
その上の多大な犠牲も知らずによ!」
「まったくですね、夢の為に欲の為にと周りを殺すのをいとまない。下品で無様です」
「テメェも人の事言えた義理かよ!!
見透かしたように斜に構えやがって、傍観者にでもなったつもりかぁ!?」
「笑いたいけど笑えない、泣きじゃくりたくても涙が出ない。悪戯に表情を使い回している者共がいるからですよ
..肩を持つ訳ではありませんが、理性なく肉を喰らう獣の方が余程美しく価値があると思いますよ」
嘘をつかず、欺かず、本能のみで一撃の暴威。これのなにが憎むべき悪か。悪意を隠し、同じ量の綺麗事で偽りに微笑む偽善者よりはずっとマシだ。
「お前の気持ちがわかるってか?
ナメんなよガラクタ!」
「………」
「オレ達は喰らうしかねぇんだよ、再びこの世に還って来たってやる事なんかねぇ。餌が増えただけだぁ!!」
「モノがあろうと無かろうと、絶望は止まりませんね。..ツクモガミはなんの為に在るのでしょうか?」
「..決まっているであろう、階級誇示の為だ。」
恐竜の背中から、血飛沫が溢れ出る。
夢を持ってすら起き上がる概念が、一撃で沈む。
「がはぁっ..!」「くだらぬ..」
傷を付けたのは刀の刀身、斬りつけたのは、以前見たシルエット。
「貴方は、狂三郎さんと共にいた..村正さんですか」
「..名を覚えていたか、光栄とはいかぬがな」
「ぐっ..てめぇ...!」
「まだ息があるか、流石太古の王。」
表情は変わらず同じ、狂三郎に見せていた謙虚な姿勢は見当たらず、剣豪の風格が滲んでいる。
「どういうおつもりでしょう?」
「..最初からこのつもりだ、隠し事は嫌い故口上してやる。」
都合良く思惑を口にした。武士故のナンタラというやつか。
「拙者は此奴らを利用するべく狂三郎に近付いた。過去の歴史に増資の深い狂三郎は街に博物館を開きたいと告げたら直ぐに力を貸した。化石や展示品は頃合いを見て拙者が設置し、今や街は見ての通りだ。」
「〝酷い〟と叫ぶほど貴方に思い入れもありませんが迷惑ですね、ここまで派手な事をされると」
「仕方のない事だ、全てはツクモガミになる為。」
「そこまでしてなりたいですかね?」
ツクモガミになる事は階級誇示だ。そう唱える彼の思想とは。
「付喪神というものに本来意味は無い。物の神など、存在しなくていいものだらかな。だがそこに君臨さえすれば、誰もが崇め讃える新たな概念となる。」
神や言い伝えは良く見れば無意味な存在ばかりだが、神だと名乗り有り余る力を持てば周囲は自然とそれを崇拝し始める。全ては集団的な真理の元生まれるのだ。
「しかし難しいものでな、おかしいと思わないか?
拙者のみでなく周りの恐竜達も充分力があるにも拘らず神にはなれない。力のみでは受け入れられないようだ。」
しかし力の概念は無理矢理にでも遣り方を通す。
「屈服させて受け入れさせる。
その第一歩がこれだ」
懐から針の付いた容器を取り出す。中には何らかの液体を含んでいる。
「注射器..ですか?」
「狂三郎に展示用の遺伝子サンプルが欲しいと云ったらすぐに解析してくれた。凄まじくお人好しな奴よ」
「あの方は人を疑う事を知りませんからね、美禄さんを預けるときもそうでした」
研究や資材に没頭し、人に対して良心以外の感情を与える事を忘れた変人だ他のエネルギーは全て他の事へ。
「知っているか?
かつて恐竜人間なるものが存在しうる事になる筈だったことを」
「テメェまさかっ!?」
「知っているのですか古代王さん」
「..オレ達が絶滅せず、生き物として残っていたら人と共存して生まれていたっていわれてたんだよ。」
隕石によって無くした存在、新たな進化を拒絶された、過去の遺物。
「この容器に入っている遺伝子はギガノトサウルス、拙者もなるのだ。
サンプルを己に投与する。暫く悶え苦しみ続け、その後じわじわと姿を変えていく。
「過去と現在が、今繋がれる!
新たな生命の誕生を祝うがいいぞ!」
「やっちまったな..」
「冷静ですね」
「どうしろってんだ他によぉ」
変貌を遂げ、村正の姿は見る影も無く
全身が爬虫類のような鱗に覆われ、右手に握った刀は皮膚に取り込まれ大きな尻尾を生やし、内側から延びる発達した骨に刀身が包まれ太さを増している。
「これが望んだ人類ですか?
なんだか獣感がつよいですねぇ」
「理解などしなくてもいい、ただ一つこれが真実なのだからな!!」
全方位に威圧的な音波を放つ。それは街に流れ、より野性を増していく。
「なんだ?
ケダモノの身体が..」「覚醒したか」
「覚醒、なんだソリャ?」
「ショクヨク..マシタ!」
「何だテメェコラァ!?
肉ごと斬り裂いてやらぁ!!」
街中の骨に、身が宿る。現代とジュラ期の完全なる融合だ。
「オッオ!」「オッオ!」オ〜!!」
またとある処では、目の下を赤いラインで塗られ、木ノ実のメイクを施されていた。
「これは何の儀式ですかね?」
座らされ、他のものがヤシの実を持って周りを囲んでいる。
「刀は武士の魂と聞きますが、それではまるで妖刀ですよ?」
「何を言っている、歴とした魂の形だ
歪んでこそ人の心だ。」
「そうですか、ならば作り物の力も見ておきますか?」
ドリームギアを起動、想像したのは無くした筈の魂、以前の記憶。
「貴様、馬鹿にしているのか」
「していませんよ、これが分からないという事はもう忘れてしまったのですね。..村正の本当の姿を」
延びる刀身煌めく刃、雑味の無いその剣はかつて名刀と呼ばれ百年をとうに超える代物となっていた。
「そんなもの、へし折ってくれる!」
激しく打ち合う刀と刀。本来己の夢を投影し映し出す右腕だが、今回は人の夢、正確には〝かつて夢として残っていたもの〟を形とした。
「お忘れですか、何故百年の刻を超え神になっていないのか。..それは貴方自身がそれを望まなかったからです」
「そんな訳があるか!
何故そんな事をお前が知っている?」
「先程の、一振りを見て直ぐに分かりました。名刀村正、歴史に残る伝説の一本です。付いた異名は〝鈍地蔵〟」
強く鋭いその刀は持つ者を皆柔和にさせ平穏に保つ。戦う為の道具が戦を嫌っているとよく言われていた。
「貴方は神や王などと派手なものを好まず日常を好んだ、少なくとも文献にはそう刻まれていました」
「時代は変わっていくのだ、いつまでも思想が昔のままだと思うなぁ!!」
妖刀と化した刀には歯が立たず、圧し敗けてしまう。最早止めようが無い。
「はぁ..はぁ...参りましたね」
「終わりだ、文字通りガラクタとなるがいい。」
「..やはり、
万事休すと諦めかけたそのとき、館内の時空が曲がり、歪む。
「悪足掻きか、情け無いな..。」
「違う、これは私の仕業ではありませんよ」
「..何?」「そう身構えるな。」
空からゆるりと降りてきたのは座禅の客人、それも二人。
「神にいやしく近付こうとは愚かな」
「あんなものの何がいいのだ?」
「カリムに、イラハムだと..!」
未来の預言者と、創造者。
仲の悪い二人が合わさる事など極稀な出来事である。
「また禍々しい方が降りて参りましたね」
「余等だけではないぞ、腕のいい科学者も連れてきた。」
扉を開け、狂三郎が息を切らし飛び込んでくる。
「狂三郎さん」
「はぁ、はぁ..妻鹿似!
村正はどこに?」
変わり果ては村正の姿を指で示す。
「遅かったか..」
「狂三郎、残念だったな!
お前の作ったサンプルのお陰で拙者は神となるのだ!!」
「いや君はここで終わりだよ。
カリム、イラハムお願い!」
「云われずとも未来の為に。」
「指図か、新鮮だな。
妻鹿似とやら、助力を頼む」
「外は平気なのですか?」
「案ずるな、どこぞの逃亡犯が戦っておる、街の為にな。」
「それは頼りになりますねぇ」
「あれ、そういえば美禄は何処に?」
「館内に居ると思いますよ」
急いで我が子を探索に出る。街より世界より娘に会いに。
「して私は何をすれば?
お二人が居れば助力など不要だと思うのですが」
「ああ」「物理的に身体を借りる」
カリム、イラハム共に形を変え腕へと宿る。
「
「未来は過去に」
左は破壊を、右は強化をもたらす。
「ゆくぞ小童」「過去へと還れ」
「甘くみるなぁ!」
尻尾を打ちつけ破片を飛ばす。カリムの左の掌に触れるとそれは風化し灰となる。
「イラハム」
「わかっている。小僧、力を少々借りるぞ」
ショット・ギアを起動。
形状は通常のショットガンだが口径が増し、少し大きくなっている。
「くらうがいい」
弾は大きく威力を増している。
「ぐうおぉ!」「強化されてますね」
「ブラスト・バズーカ」
形状を変化、単発の弾撃。
「ぐっはぁ..くたばるかぁ!!」
妖刀を構え正面から突撃。それを冷静に目で流し
「カノン・ギア」
特大大砲に形状を変え、真っ向から容赦をせず、エネルギー波を発射する。
「ぐっ..何故だ、何故追いつかん。」
刀を包む骨格は破れ、鱗の身体は壁に崩れる。
「これが未来を諭した力だ。」
やる事をやった後は身体を棄て元の姿で座禅を組む。勝手な奴等だ。
「玩具でなによりです、人であれば節々が痛むところです」
「妻鹿似くん!」
「狂三郎さん、どうされたのですかその出で立ち」
「あぁ、ちょっとね。」
上半身を脱がされ、ペンキの様な木ノ実の果汁を満遍なく塗られた狂三郎が、肩にぐったりした娘を抱えて現れた。
「終わったぞ」「終焉は終わらんぞ」
食い違い気味だが一先ず難は去ったという事だ。
「そうか、なら街に行こう。
まだ大変な箇所がある筈だ」
「まだやる事があるんですね」
「..わりだ。」「何?」
「みんなみんな終わりだぁ!!」
「まだ起きていたか..!」
タフなのも困りものだ、しこたま打撃を食らっても未だ活力に秀でている。
「無駄な足掻きを」「くだらん」
「黙れ老獪!
全て終わりだこの街ごとな!」
「街ごと?
何を企んでいる」
「落ちるのだ、隕石がな!
この街ごと粉砕するのだ」
「やはりか。」
「どういう事だカリム?」
カリムは未来を予測する、近々街は多大な脅威に見舞われ消滅する。これが一番近くの預言だった。
「過去の品を弄りすぎた事で、昔の時間軸に起きた悲劇が現在にも生じたのだ。」
「隕石を止める事は出来ないのでしょうか?」
「..時系列が遠すぎる、被害を最小限に留まる事は出来るが過去のものを定位置に止める必要がある。」
「なら村正を的にすれば!」
「私が彼を拘束します」
「ならぬ、お主は今を生きる者。
隕石と時系列が同じくなければ、それこそ落下地点は疎らに分かれる。」
放っておいても落下する、止めようとしても止まらない。八方塞がりも良いところだ。
「儚きものよ!
つまらぬ、つまらぬな貴様らぁ!!」
「まったくだ、つまらねぇよな。
オレ達恐竜はよぉ!」
ティラノサウルスが村正の後ろを取る
「なっ、貴様まだ息があったか..!」
「太古王さん」
「よぉガラクタ、これでいいんだよなさっさとやってくれよ。」
「ティラノくん、君..いいのか?」
「なんだぁ?
オレにまで情けかけんのかよ!
ホンットに人がいいんだなテメェ!」
村正の首をガッチリとロックし、一瞬寂しげな眼を向ける。
「心残りはねぇ、そんなもん持つ程生きた覚えがねぇからな。..ただよ、短い間だが博物館っていうのか?
ここにいるのは愉しかったぜ。有難うなぁ人間、作ってくれてよ」
「カリムさん、やってください」
「妻鹿似くん!」
「情けはかけませんよ?」
「..そうだね、やってくれ。」
室内からは見えないが、カリムの地球儀が隕石の標準を村正に移す。
「さよなら村正」
「やめろ、やめろぉ!!」
「みんな離れて!」
館内を出て直ぐ、隕石が落ちた。衝撃や威力を含め全ての標準は村正へ。受けるのは、大きく打ち付ける音くらいだ。
「これで本当に終わりだね..」
「はっ!
ここどこ?」「お目覚めですか?」
時期を遅れて何故か疲弊していた美禄が起きる。
「まさか..」「厄介だな。」
「そんな、嘘だろ!?」
隕石の割れた果て、跡形も消えた場所からズルズルと足を引きずり動くモノがいる。
「何あれ、村正さん!?」
「まだ形がありますか、異常ですね」
「..るさんぞ貴様、息の根を止めてやる...!」
剣は折れ、ボロボロの状態で眼だけは殺意を抱いている。
「諦めろ」「最早出来る事は無い」
「……」
聞く耳を持たず、睨み歩く。
「..残酷だけど妻鹿似、壊してあげてくれ。」
「やむを得ませんね」
銃の腕を構え、留めを刺さんとした直後、空から雲が現れる。
「なんでしょうこれは?」「雲?」
「奴か..」「だろうな。」
雲からひょいと跳んだのは、ヨボヨボの老人。カリム達は顔見知りのようだった。
「ヤッホー元気〜?」
「消えろ」「顔も見たくない。」
「知り合いですか?」「誰?」
「..すみませんが、どちら様でしょうか?」
おそるおそる狂三郎が問いかける。すると返答を聞くと衝撃が走った。
「鷲?鷲ツクモガミ。」
「..え?」「は?」「何!?」
「ツクモガミ、だと..!」
「何の御用でしょうか」
驚嘆し驚く中に真顔で問いかける男が一人、偶にこういう冷めた奴がいる。
「こいつ滅しに来た」
村正を指差し、笑顔でそう言う。
「何?」
疑問を覚えたときには遅い、雲に誘われ天に連れていかれる。
「んじゃあ帰るわ」
悲鳴を上げる間も無く颯爽と帰っていった。
「連れていかれてしまった..」
「なんだったの?」
「あれが付喪神だ。」
「悪しきツクモノを滅し二度と動かないように処理を施す。何が神なのか、奴は神でも死神だ。」
残忍かつ乱雑、彼等が忌み嫌う気も理解出来る。少なくとも王などでは決して無い。
「本当に無意味なのですね..。」
崇める程に神格化されるものは、短絡で、安易なモノの事が多い。
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