第2話「思い出すのはいつも突然に偶然」




(一体ここは何処なんだ…?)




見上げた天井は見知らぬものだった。

木造でそれもかなり古びており、所々にシミが付いていた。

僕の住んでいる家は新築なので少なくとも僕の家の何処かの部屋というわけではなさそうだった。



そもそも僕の家にはベッドは一つしかなく、現在寝転がっているベッドの感覚に違和感を覚えた時点でまず間違いなくここは僕の家ではないと言えた。




(そもそもなんで僕はこんな所でスヤスヤ寝てられるんだ?確かさっきまで訳の分からな い白仮面野郎に殺されかけてたはずじゃなかったか…?あのまま白仮面は去って行って、 その後に誰かが救急車を呼んでくれでもしたのか...?)




僕の記憶は乱れる呼吸の中、去って行く白い後ろ姿を眺めている所で途切れている。



あのまま僕は気絶してしまったのか...?




と、そこまで考えて気付いた。




肺に空いていた穴がきれいさっぱり埋まっているのだ。

胸には包帯も巻かれておらず、縫った後すら見当たらないのである。

不思議なんてもんじゃない、まるでさっきまでの出来事が、さっきまで生きてきた人生がまるっきり夢でしたなんて言われても信じてしまいそうなほどである。


それくらい不自然なほどに怪我は完治していた。



(まるでファンタジーの世界に来ちまったみたいだな、それともあれか?もしかして実はもう既に怪我で死んじまってて、天国に来ちゃってましたってオチか?だとしたら天国の家は木造建築なのか、僕は天国と地獄ならぬ天国の地獄に来ちまったってわけか?)



そんな下らない事ばかりを考えていた。




すると突然、ギィ…という音と共に部屋の入り口のドアが開き、人影が見えた。




「ふぉ、ふぉ、ふぉ、そう警戒しなさんな。怪我が治ったか見に来ただけじゃのうて。」




人影の正体は老婆だった。

髪は白く長髪で後ろで束ねており後ろから見れば普通の老婆のようにも見えるのだが、如何せん顔立ちが青い眼に高い鼻といった感じであったのでとても自分と同じ人種の人間とは思えなかった。



見知らぬ場所での見知らぬ人ということで僕の警戒心は最大まで跳ね上がっていたのだが、取り敢えずこの老婆からは一切の『殺意』も感じられなかったし、怪我が治ったか見に来ただけだという言動からも一切の『嘘』も読み取れなかったので多少の警戒は解くことにした。



「あの、僕はなんでお婆さんの家のベッドで寝ているんですか・・・??

 僕の胸に空いたあの大怪我はあなたが治してくれたということでしょうか?」




「なんじゃ覚えとらんのかい、お前さんは昨夜ワシの家の前でくたばっとったんじゃよ。それを介抱してやったんじゃわい、怪我を治したのもワシじゃ。」





家の前で....?





「しかしがの、放置しておいてはまずかったじゃろうがわい。」




この老婆は『嘘』偽りなくそう答えた。




なるほど...




つまりこの老婆の言っていることから推測されうる事はこうだ。




怪我を治療したのがこの老婆という発言から、普通老婆は医者であると考えられる、だがお世辞にも整っているとは言えないこの設備でオペができるとも思えない。しかもあれほどの大怪我を、だ。


そしてさらに老婆はこの大怪我のことを、と続けたのであった。



この時点で普通なら老人の戯言だと思うはずであろう。




しかし老婆は『嘘』偽りなく言ったのだ。




つまり僕の肺に空いた大穴を、老人が、一晩で、大した設備もなしに、更に一切の傷跡も縫い跡も残さず、完治させたというわけである。




そうなったらもうここは僕の知っている世界じゃない。




どうやら僕は本当にあのまま死んでいて、輪廻転生の過程に神様の間違いでファンタジーの世界に紛れ込んでしまったみたいだ。





.......




(あれ?さっきは何とも思わなかったのに冷静になればなるほど非現実的な”ファンタジーの世界に紛れ込んだ”という考えに謎の納得感を感じるぞ...)




僕は途切れてしまっている記憶を”何気ない日常から突然ファンタジーの世界に紛れ込んでしまう可能性が存在する”という仮定のもとでもう一度たどってみる事にした。




そう、あの時白仮面は僕がもう死んだと思って立ち去ろうとしたんだ。それで奴はまた振り返って何か言ってそれから.......




(.......あっ!!!!!)




そして僕はあの世界ではあまりにも非現実的であり、普通ならば夢でも見ているのかと思ってしまってもおかしくないような、白仮面が創り出したあの”空間の歪み”の事を思い出した。



振り返って僕に呟いた白仮面の「父を恨め」という謎の言葉や、白仮面に決死の覚悟で飛び掛かってからこの家の前で寝転がり気絶するまでのこと、その全てを思い出したのであった。



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