人間不信俺、異世界で謎を解き明かしたい~魔法とか知らないけど攻撃全先読みで実質最強~

@Roku78

第1話「始まりはいつも突然に必然」


「ハァ、ハァ、ハァ、一体何なんだ。。」






 とまぁ言ってみたものの恐らく、今この場を立ち去ろうと背中をこちらに向けている目の前の男にはこの言葉は届いていないであろう。


 それは何も、目の前の男が難聴であるだとか、周辺が工事の騒音で五月蠅いだとかいうそう言った外部的要因の所為などではない。



 僕の所為なのだ。


 そう、僕の肺に風穴が空いている所為なのだ。




 っておいおい自分で言って笑ってしまったじゃないか、これではまるで僕が悪い風じゃないか。勿論、いやこの場合勿論というのも変な話なのだが勿論、僕が自ら自分の肺に風穴を空けて、死にかけながらも道行く見知らぬ人に声をかけ無視されるという究極中の究極のドMプレイを楽しんでいる訳ではない。



 そう勿論、この風穴は背を向けているこの男がつい一瞬前に開けたものだ。



 を何とか身をずらして回避したのだ。



 まさに危機一髪、九死に一生を得たというわけである。




 いや、そんなはずは無かった。回避できたとはいえ僕の肺には正に文字通り言葉が出ない程の風穴があいているのであった。



 笑い事では無い、普通に死にそうである。実際息が出来ない、吸った空気が出て行ってしまうのだ。


(警察、いやその前に救急車を呼ぶ必要があるかな。。)



 警察を呼ぶにしても目の前のこの男を何と説明すれば良いのだろうか。



 先程から僕は目の前の風穴野郎の事をこの男、この男、と表現しているが実際のところを述べてしまうと本当にこの男が「男」なのかは判別しかねる所であるのだ。というのもこの男、真っ白無地の体格の分かりにくい作りになっているロングコートにフードを被り、更には真っ白で眼だけに穴の開いた仮面を装着しているのだ。


 それじゃあなんで男って言ったんだよ、この嘘つきめ、と罵りたくなるのも分かるがさっき言った通り僕はマゾヒストではないので勘弁していただきたい。

 まぁ、身長が170cmくらいであったのと通り魔って大体男だよなーという偏見から男だと判断したまでである。



 死にかけながらもそんなことを考えている刹那のことであった。



 ドS白仮面野郎、そう、ドS白仮面野郎がちらりとこちらを振り返り口を開いたのだ。




(やっべ...!!!)



 焦った僕は思わず地面に顔を伏せて死んだふりをした。





「任務完了、っと」



 ドS仮面はそう呟いて再度向こうを向き、歩き出した。



(女の声だった。。。

 いや、それも重要だが、、、今、何て言った???



 ”任務完了”?? 

 つまりこれは無差別の通り魔殺人なんかじゃなくて特定の人物、つまり僕個人をターゲットして殺人に及んだということなのか?



 じゃあ何の為に?僕を殺して何になるってんだ??)



 その予想もしていなかった展開に僕の思考は留まることを知らなかったが、白仮面さんも同様留まることを知らないようで次の瞬間更に僕を混乱させることになる。



 なんと白仮面野郎が何か一言呟いたかと思えばその目の前の空間が歪みだし、やがて一人分入れるくらいの、まるでどこかへ繋がっているかのような入り口が出来上がったのだ。



(な、なんだありゃあ...!!!

 あんなのアニメでしか見たことないぞ。。。)

 


 そう思った矢先、白仮面がまたこちらを振り返った事により顔を伏せることになった。



 何も言わない、、多少の沈黙がしばらく続いた後、



「恨むなら、君のお父さんを恨んでね。」



 と白仮面は言った。



 白仮面は確かにそう言った。



 そう言って、さっき創った入り口へと歩みを進めていった。




(お父さん、、?今、お父さんって言ったのか?あいつ)



 僕の父は、いや、母もであるが彼らは既にこの世にはいない。父は僕が12歳の頃、つまりは5年前に亡くなり、母は父が逝ったちょうど1年後に後を追ったのである。



 そんな今は亡き彼を恨め、と。今自分が得体の知れない何者かに襲われて殺されそうになっているのは既に死んでいるはずの父を恨め、と。



 正直意味が分からなかったし考える余裕も無かった。




 ほとんど直感だった。




「うぉぁぁぁらぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」



「っっっっっ!!!!!!!」




 音にならない叫びを発しながら、穴の開いた重い身体を最後の力を振り絞るつもりで引きずりまわし、僕は白仮面に飛び掛かって行った。



 しかし白仮面は慌てた様子もなく手のひらをただこちらに向け、



「やっぱり急所外れたみたいだったから生きてたんだね。これで親子仲良く地獄へ逝きな。」



 とそう言った瞬間、轟音とともに目には追えないスピードだが確かに白仮面の手のひらから何かが放出された。



 放出と共に轟音が鳴り響くなど、時速何百キロで済む話なのかは僕には分からなかったし、そもそも目に見えない速さの次元の話なので人間がどうこう出来るレベルの攻撃ではないと理解していたが、とにかく僕はその放出された何かを躱したのだ。


 顔面に目掛けて放出されたものだったので、首を傾けるだけで良く、避けるのは簡単だった。


「よ、よけッッ!!??」



「勘鈍いね、君」



 僕は白仮面の腹部に突進し、そのまま白仮面の創り出した何処へ繋がっているかも分からない入り口へと飛び込んで行った。




 こうして僕、黒衣衣墨くろえいすみは17歳にして一時的かは分からないがこの世界を離れることになったのだった。

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