少女と紙風船

ヒヤムギ

少女と紙風船


真っ暗闇の中にポツリと灯がともった。

ジワリジワリと灯が暗闇ににじんでいく。


そこはどうやら四方を襖に囲まれた四畳半の座敷。

灯の根源は蝋燭台の明かりでその下にちょこんと正座した少女が一人。


少女はどうやら微睡んでいるようで前後に船を漕いでいる。

こくりこ、こくり。こくりこ、こくり。2、3度前後に揺れると、どうやら目を覚ましたようで右手で目元をこすった。


右手を挙げた際にずれ堕ちた袖口から覗いた華奢な細腕が少女の幼さを浮きだたせており、年齢相応ではない華美な和服姿が少し微笑ましかった。


少女はきょろりきょろりと辺りを見回すと、つまらなさそうに息をついた。少女は自分の帯に右の掌をこする様に這わせながら暫し虚空に視線を漂わせると、いきなり前のめりに四つん這いになり自分の辺りを手で探り始めた。


よく見ると少女の周りには多種多様な玩具が散らばっている。蝋燭の灯りに照らされて殊更にきらきら光るおはじき、毬に可愛らしいお人形。それ以外にも沢山の玩具が散らばっている。その中から少女は笹の葉のような形の鮮やかな色に彩られた紙の束を掴んだ。


束の中から1枚、紙を引き抜くと少女はそれを自分の口と這わせるように重ねた。

少女は少し胸をそると静かに息を吹き込んだ。すると笹の葉は徐々に丸みをおびていき少女の顔ほどの大きさに膨れた。それは鮮やかな紙風船だった。


少女は片手にその紙風船を乗せるとじっとそれを見つめている。背筋をぴんと伸ばして綺麗な正座を保ち、その顔には小さな微笑みを浮かべていた。


少女がぱちぱちと二度ほど瞬くほどの間のあと、風もないのに紙風船がゆらゆらと揺れ動きはじめた。揺れは徐々に大きくなっていきそしてピタッと止まった。その次の瞬間、紙風船は少女の掌を飛び跳ね始めた。


少女は掌を畳の上にそっと下した。紙風船は少女の手の甲が畳に着くと同時に掌から飛び降りた。ポンポンと飛び跳ねながら紙風船はまるで舞うように少女の周りをくるくると廻った。それを目で追いながら少女はきゃっきゃと少しはしゃいでいる様だった。紙風船は時々、少女の肩に着地してじゃれつく様に自分の体を少女にこすり付けた。その度に少女はより大きな声で「きゃっ」と声を上げ、紙風船が乗った肩とは反対側に手をついてしな垂れたような体勢になってさらにはしゃいで笑った。


暫くの間少女は紙風船とじゃれて楽しそうに笑っていたが、徐々に紙風船を目で追うのをやめて近くに落ちていた人形をいじり始めた。


紙風船は、自分にはもう関心を示していない少女の周りをまだくるくる舞い続けていた。舞って、舞って、舞って、舞い続けていた紙風船を少女は躊躇いなく掌で叩き潰してしまった。


少女が掌を上げると空気を失った紙風船は、くしゃくしゃのぺしゃんこになっていた。少女はまた人形をいじりだすと、つぶれた紙風船にはもう目を向けることはなかった。


暫くすると人形にも飽きてしまったらしく、片手でぽいと人形を放り出してしまった。少女はつまらなさそうに息をついた。


少女はきょろりきょろりと辺りを見回すと、ぺしゃんこの紙風船に視線を止めた。

少しの間逡巡し少女は辺りを手で探り始めた。鮮やかな色に彩られた紙の束を掴むと、そこから1枚紙を引き抜き自分の口と這わせるように重ねた。

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少女と紙風船 ヒヤムギ @hiyamugi

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