雑貨屋さん

よる

No.1

からんころん


昔ながらの懐かしい音に心が弾むのを感じながら、雑貨屋に入った。

「いらっしゃいませ。」

と言われることもなく、静かで優しい音楽が満たしていた。

なんだったかな、この音楽。

鏡、マグネット、靴下、ピン留。

たくさんのものが置いてあった。

値段は書いていない。どれも触らないでくださいと書いてある。気に入った人形があった。くまさんの。値段が見つからない。

「すみません。」

言葉を発しても誰も私の元へはこない。まあいいか、と思い、私は足を動かした。綺麗なものから汚れたものまで様々なものがあったが、どれも懐かしく感じた。 


一周し終わったが、店員は相変わらず見当たらず、もう帰ろうと思い、ドアに手をかけた。


ドアは開かなかった。


その瞬間、昔の記憶を思い出した。


はまっていた音楽。大切にしていたはずの鏡。友達からもらったマグネット。どこかに消えた片方の靴下。付録で付いてきたピン留。一緒に寝ていたくまの人形。


いつのまにか、私の元からなくなっていたものだった。私が何かをきっかけに、無くしたり、壊したり、捨ててしまったものばかりだった。


私も同じになってしまった。





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雑貨屋さん よる @September_star

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