第35話 運命の日(3)
「とにかく、僕だって荷物が大量にあるんだ。そんな状態で、お前のことを手伝うことなんて出来ない。分かるか?」
「ぶー、隼人の意地悪」
「意地悪で結構。それよりもさっさと荷物を片付けた方が良いんじゃないか?」
今の時間がどういう時間なのか、きちんと説明しておいた方が良いだろう。
先生の話も終わり、帰りの会も終わった。その後残されたのは、さっさと帰らなかった生徒ぐらいだろうか。僕達は荷物が大量にあったことと、学校をさっさと去ることも何だか気分が乗らなかったので適当に会話をしていたのだった。
「……あら、三人とも。未だおったんやねえ」
声をかけてきたのは、はるかだった。
「はるかちゃん! はるかちゃんも未だ帰ってなかったの?」
「ええ。荷物がぎょうさんありましてなあ。少し苦労していたところだったんよ」
「そうなんだ……。それじゃ、一緒に帰らない?」
「そうしたいのも山々なんやけれどなあ……。ちょいと、隼人はんお借りするで?」
「え? 隼人を?」
「ええやろ?」
「別に否定は出来ないけれど……」
「それじゃ決まりや。ささっ、隼人はん。行くで」
そう言って。
はるかは強引に僕の腕を引っ張って、廊下へと向かっていくのだった。
※
はるか――その正体は天使エリザだ――とともに向かったのは、空き教室の一つだった。
「はるか……いや、エリザ? どちらで呼べば良い?」
「そりゃあ、あんたの好きな方で呼べば良いわ」
すっかり京都弁も抜けきっているようだった。
はるか――ああ、七面倒くさいので、こちらで統一することにしよう――は、話を続ける。
「私はね、あんたが大嫌いなのよ。あんたみたいなちゃらんぽらんな存在がね。どちらかにさっさと決めれば良い物を、決めることなく、三人との日常を永遠に送れれば良いと思っているような愚か者を」
「ちょ、ちょっと待てよ。……それは、世界を管理している量子コンピュータが決める話じゃなかったのか? だから、そのコンピュータが、もしこの関係を良いと認めれば、永遠にこの世界はラブコメな世界として認められることなく、平穏に過ごすことが出来る筈なんだ。だったら、そうすれば!!」
「……あんた、ちょっと勘違いをしているようね?」
「勘違い、だって?」
「おかしいって思わないの?」
「?」
「それを言ったのは、他ならないガラムドの筈よ。そして、ガラムドはそう言って、あなたに自制を求めた。どうして? どうして自分達が作ったコンピュータを管理することすら出来ないの? それぐらいに、神の世界は落ちこぼれてしまったのかしら? いいや、そんなことは有り得ない。有り得ない筈なのよ」
確かに。
あのときはあれで納得してしまったが、普通に考えてしまえば、自分の開発している、或いは管理している環境を操作出来ない訳がないのだ。
にもかかわらず。
ガラムドはそれが出来ないと言っていた。
ガラムドはコンピュータによるものだと言っていた。
「それは、果たして正しいことなのかしら? 実は、あなたに憂いを見せるためだけのことなのではないかしら?」
「それは……」
否定出来ない。
だが、肯定することも出来なかった。
「……では、質問を変えましょう」
「質問を……変える?」
「ええ。その方があなたにとっても悪い話じゃないでしょう?」
それは、質問を聞いてからじゃないと判断出来ないのだが。
そう思いながら、僕はエリザの話を聞いていた。
「あなたは、この世界をどうしたいのですか?」
エリザの質問は、ひどくストレートだった。
その質問は、はっきり言って、直ぐに答えることが出来ない質問だった。
「……この世界を、どうしたい……だって?」
「だって、そういうことじゃないですか。この世界をどうしたいか、判断することが出来ないということなのでしょう? だとしたら、あなたはこの世界には無意味。必要ない存在、という意味になるのですよ。それぐらい分かっているかしら?」
分かっていようが、分かっていまいが。
そんなことはどうでも良い――というのが、彼女の信条なのだろう。
でも、しかし、どうやって。
「……僕は、そんな広い視野を持っている人間ではないよ」
「では、あなたは、その役割を投げ捨てると言いたいのですか……!」
「投げ捨てるとか投げ捨てないとか、そういう問題じゃない」
「?」
「僕は今居る状態を一生懸命守り抜きたいだけ。ただそれだけなんだ」
「そんなことを言われても……! いいえ、この世界は変わってしまうことは間違いないのですよ!! あなたは、それを知っていてなお、『一生懸命守り抜きたい』だけですって!? そんなこと、出来る訳がないでしょうが!! あなたは……何処まで愚かな人間なのか……!」
「愚か……か。そうかもしれないな。僕は」
一歩、前に踏み出す。
それでも僕は、やるべきことをやるだけだ。
さあ、動き出せ、十文字隼人。
結論を導くのはそれからでも遅くない。
今は――目の前にある障害を乗り越えて見せろ。
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