第34話 運命の日(2)

「隼人、どうだった? 成績は。その感じだと悪そうな感じがしてならないのだけれど?」

「……分かっているなら言うな。言わぬが花という奴だ」

「何? 言わぬが仏の間違い?」

「……そりゃ、知らぬが仏と言わぬが花をごっちゃにさせているだけだろうが。とにかく、成績については胸の奥底に秘めておきたいものだね」

「何よそれー。結局何も分からないくせに」

「……分からないのはお前の方だろ、ひかり」

「それは言わぬが……何だっけ?」

「花」

「そうそれ!」


 のぞみの言葉に続けて言うひかり。

 というか、そんなんで良いのかお前達双子は……。


「とにかく! 夏休みこそまともに勉学に励む必要があるわよね!」

「どうしたいきなり。頭でも打ったか?」

「そんなことある訳ないでしょう! ……私だって分かっているのよ。このまま続けるとヤバイって。部活続けること出来ないぐらいは分かっているわよ!」


 分かっているなら何より。

 さらに、ひかりの話は続いた。


「私としては、部活と学業は両立したい気分よね。出来たらそれが嬉しいけれど。出来ないのが悩みの種よねー」

「よねー、って。そんなこと言っても何も解決しないだろ」

「分かっているわよ、それぐらい!」


 何だよ、急に怒るなよ。

 驚くじゃねえかよ。


「……とにかく! 私としては、特段、困ったこともないから単位は選択制にして欲しいと思う訳よ!」

「……だったら私立とか高専に行けば良かったんじゃ?」

「嫌よ、あんなニッチなとこ」

「じゃあ、文句言わず勉強しろよ」

「そう言われましても……」

「いやいや、そうじゃなくてだな」

「話は終わったか、仲良し三人組」


 見ると、担任の先生がこちらを向いていた。

 いや、担任だけではない。生徒のほぼ全員(全員が全員、と言うと語弊があるので『ほぼ全員』ということにしておこう)がこちらを向いていたのだ。

 何だか急に恥ずかしくなってきて、僕達は前を向いた。


「それで宜しい」


 先生はそう言うと、パンパンと手を叩いた。


「それじゃあ、夏休みの過ごし方について簡単に説明するぞ」


 何を説明すると言うのだろうか。

 もう人生十六年も生きてくれば、それぐらい分かりきっていることではあるのだが。


「夏休み、ここには近寄っては行けません。さあ、何処だ?」


 ……え、まさかのクイズ形式?

 流石に驚きだったのだが、何人かが手を挙げている。何だよお前ら、本気でこのクイズを楽しもうとしているのか?


「ゲームセンターです!」

「はい、正解。次は?」

「パチンコ店です!」

「そもそも十六歳は立ち入り禁止だぞー。はい、次!」

「映画館です!」

「映画は見に行っても良いんだぞー」


 何か大喜利みたいな展開になってきた。


「じゃあ、海!」

「海は好きに行ってこい!」

「山!」

「遭難は絶対にするなよ!」

「川!」

「急な増水に気をつけろ!」


 キャッチコピーか何かですか。

 そんなツッコミは脳内でしとくとして、僕は一人その大喜利を楽しむのだった。



 ※



 そういう訳で。

 特にあまり話が入ってきた試しもなく、あっという間に先生の話は幕を下ろした。

 僕はというと、片付けに追われていた。夏休みなどの長期休暇では、一度荷物は持ち帰らないといけないらしく、僕もその例に漏れることなく、荷物を持ち帰ることになった訳だった。


「それにしても、何でこんなに置き勉してた訳?」

「……ひかり、お前が言う筋合いはない筈だけれど」

「あら! 何のことかしら?」


 とぼけやがって。

 机の上に置かれた教科書の山を見て見ぬ振りするつもりか。


「……私は部活一直線でやって来たつもりなのよ」


 嘘吐け。

 なら、さっき言ってた「部活と勉強どっちも頑張る」って話は何処に消えたんだ?


「とにかく、私は今この荷物を持ち帰らなくてはいけないのよ! ……のぞみー! お願いだから手伝ってー!」

「嫌です。お姉ちゃんはたまには懲らしめてあげないといけないから」


 おっ、言うねえ。

 僕はその態度、悪くないと思うぞ。


「……隼人も手伝ってくれないの?」

「甘やかすのは良くないからな」


 即、否定する。

 悪いことかと思ってしまうのだが、ここは本人のためだ。決して自分が重い荷物を持ちたくないからとか、僕はもう重たい荷物を持っているのだとか、そういう次元の話ではない。そう、そういう次元ではないのだ。


「……ふうん、隼人も私を拒むのね」


 拒む。

 そんなつもりは毛頭なかった訳だが、ほほう、そう来たか。

 そんなこと言われたら困る、と思っている男子を狙っているのかもしれないが、残念! 僕はその辺りちゃんとしているのだ。


「駄目だ。泣き落としで来ようとも無駄」

「うぇーん、隼人の馬鹿馬鹿馬鹿!」


 何度馬鹿と言われても無駄である。

 僕としては、こんな甘えた態度取って欲しくはないのだけれど、しかし、本人がそうやっているのだから、仕方がない。肯定、否定以前の話だ。


「……ほんとうに駄目?」

「ああ、絶対に駄目だ。何度言っても無駄だから早々に諦めろ」

「ええーっ、そんなこと言う? 普通」


 当たり前だ。お前は僕と何年付き合ってきているのだ。

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