第33話 運命の日(1)
結局。
七月末の終業式。ガラムドが言ったところの『運命の日』はあっという間にやって来てしまった。学力テストというイベントはどうなった、って? ははっ、そんなものとっくに過ぎ去ってしまったよ。特にこれと言ったこともなくね!
では、どうしたら良かったのか。
それだけが気になることだったのだけれど、要するに、僕がやらねばならないことは一つだけだった。
「……どちらを選ぶか、ってことだよなあ……」
そう。
二人のうち、どちらを選び、どういう道を歩むのか。
それについて、多少ばかり考えなくてはならなかった。
いや、多少じゃ済まないな。多分、それ以上だ。たくさんのことだ。たくさんのことを考えねばならなかった。
考えたところで、何が解決するとも思えなかった。
「……何も進まないよな……」
所詮、戯言だ。
僕と、彼女達の関係が、どう続いていくのか、ということについて、少しは吟味していかねばならないだろう。
分かってはいる。
分かってはいるのだ。
しかしながら、いざそれを表に出そうと考えた時、やはりというかなんというか、難しいものがある。
それが『価値観の違い』であるとして。
それが『認識の間違い』であるとして。
それが『言葉の擦れ違い』だったとして。
それをどう捉えていけば良いのだろうか?
それをどう潰していけば良いのだろうか?
それをどう考えていけば良いのだろうか?
考えても、考えても、考えても。
答えは見えてこない。暗中模索である。
では、僕は。
僕はどうすれば良かったのだろうか?
或いは。
僕はどうしていけば、良かったのか?
「……戯言だよな」
昔流行った小説のキャラクターを真似てみる。
真似たところでそれは真似に過ぎなくて、それこそただの戯言に過ぎないのだけれど。
では。
やはり。
しかして。
これから先をどう見ていくかは、君の目で確かめて欲しい。
僕はそう願うばかりだ。
※
七月末に終業式が行われることは、普遍であり普通であり当たり前のことだと思う。僕もそう認識しているし、皆もそう認識している筈だ。
夏休みに入れば、会える人と会えない人が出てくる。例えば故郷や行楽地で過ごす人が出てくるからだ。我が十文字家は貧乏暇なしなので外に出歩くことはほぼなく、強いて挙げるなら近所の図書館とか、学校の図書館とかそれぐらいしか行くところがない。……ああ、この前行ったショッピングモールでも良いんだよな。
「夏休みは何処か行くの?」
ひかりに言われて、僕は首を横に振る。嘘を吐く必要がないし、幼馴染であるひかりとのぞみに嘘を吐いたところでどうせ分かってしまうから仕方がないことなのだ。
「何処にも行く用事なんてないよ。強いて挙げるなら、御墓参りぐらいかな。まあ、それでも歩いて五分の共同墓地だけれど」
「ああ、あそこね。……プールに行くとかしないの?」
「何それ、誘ってくれているのか?」
「ば、馬鹿ね! そういうつもりで言ったんじゃないんだから!」
そこでツンを出されても困るのだが。
「お、お姉ちゃん、隼人くんが困っているでしょう? あんまり、変なこと言わない方が良いよ……」
のぞみは相変わらずだ。
そんなことを思いながら、教壇を見る。
「はい、静かにー。これから通知票配るからな。それと、再試験を受ける人は今のうちにスケジュール確認しておけよ」
「……そうだった」
再試験。
即ち、点数が足りず、もう一度試験を受けねばならない状態のこと。
僕は物理だけ赤点(この学校の赤点は三十点である……恥ずかしい)を取ってしまい、再試験コースになってしまった訳だ。
ちなみに、物理の赤原先生は「絶対に生徒を合格させる!」という意志のもと動いているらしく、物理の補習を夏休み中に数時間分用意していた。
……とどのつまりが、その時間は学校に出向かなくてはならないということだ。
ちなみに、ひかりは物理と数学が赤点である。とはいえ、陸上部の練習があったりするので、実際はもっと学校に出向くことになるのだろう。
のぞみは再試験こそ免れたものの、図書委員として夏休みは学校に数日居なくてはいけないらしい。所謂司書としての働きをして欲しいとのことなのだ。……それぐらい、専門職を用意しておけ、って話になるのだが。
「……それじゃ、結局僕達三人とも学校に出向く用事があるって訳?」
「そうなるね!」
「そう……なりますね」
どうやら、そうなるらしい。
「のぞみー! 早く通知票受け取りに行きなよー!」
女子からそう言われて、のぞみは慌てて教壇に向かう。コケそうになっていたが、すんでのところでそれは何とかなった。
続いて、ひかりが取りに向かう。
二人は通知票を見合って、そして笑っていた。結果には満足、といった状態なのだろうか。
さて、僕はというと。
「隼人、お前もう少し頑張れると思うぞ。だから、次の学期では、もう少し本気で取り組んでみたらどうだ?」
……本気で取り組んだ筈なのだけれど、それがどうやら、先生には届いていないらしい。
僕はそんなことを思いながら、取り敢えずありがとうございますとだけ言って通知票を受け取るのだった。
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