第30話 体育祭(11)
「さあ、最終競技はこちらになります! 体育祭恒例の、クラス対抗リレー対決でございます! この対決を勝した者こそが、今回の体育祭の勝者に相成ります! いったいどのチームが勝利するのかー!」
なんやかんやで。
最後の競技であるクラス対抗リレー対決が始まった。
走る選手は、一番多い三十人超え。一クラス八人が参加して、それが四クラス分プラスアルファなので、三十六人になるのかな?
「お姉ちゃんが出るんだから、応援しないといけないよね、隼人くん」
「お、おう。そうだな」
そういう訳で。
僕とのぞみは、ひかりが出る青組代表チームを応援することに相成った訳である。
まあ、そうなるのも当然かもしれない。実際問題、僕達が出来ることってこれといってないのだから。これといってないのなら、やるしかない――というのが僕の運命と言えるだろう。運命は言い過ぎだって? へへ、そう言うなよ。照れるだろ。照れるなよ、って? それは言わぬが花って奴だ。
「位置について、」
スタンディングスタートの姿勢を取る、第一走者の面々。
「用意」
続いて、スタートのポーズを取る。
いや、スタンディングスタートとただのスタートとは、何が違うのだろうか。
何も違わないような気がしてならないのだけれど。
「ドン!」
そして、走り出す走者達。
僕達は応援を開始する。
「行けー! 追い越せー!」
「が、頑張れ……っ!」
のぞみが、声援に負けているような気がしてならない。
僕は、それに否定しないように何とか応援をしていくことにするのだった。
ちなみに、全員の声援が百とすれば、のぞみの声援は四十。六割減ぐらいと言えば良いだろうか。
しかし、それを言ったところで何が変わるとも思えない。
何が変わるとも言い難い。
「……それにしても、だ」
どうして、こういう場面の応援って盛り上がることが多いんだろう。
盛り上がらざるを得ない、というか。
盛り上がらないといけない、というか。
「何というか、形容しがたい何かがあるよな。こういうのって」
「隼人くん、そんなこと言っていないで応援に戻ってよー」
おっと、しまった。
応援に戻らないと、のぞみに怒られてしまう。
というか、のぞみぐらいじゃないか? 僕のことをしっかり見ているのって。
のぞみも真面目に応援していない、ってことを意味しているのかもしれないけれど。
そんなことを口にしたら、きっと怒られてしまうだろうから、言わないでおくことにするのが理路整然とした僕の生き方なのだ。
……そうなのだろうか? 答えは見えてこない。
僕には何も見えてこない。
僕には何か分かっていない。
僕には――何をすれば良いのか分からない。
(僕は……どうすれば良いんだろうか?)
神の言葉をそのまま信用して良いのだろうか?
神の言葉の代行者たる天使に反抗しても良いのだろうか?
分からない。分からない。――分からない。
僕はどうすれば良いのか、僕はどう動けば良いのか、僕はどうあれば良いのか?
……何だか悩めば悩むほど、天使側の言い分が強くなりそうな気がしてならないのだけれど、僕にとっては、それをどう処理すれば良いのかということについて、僕は考えなくてはならないのだろう。
何だか、哲学的になっちゃったけれど、僕は未だ未だ元気です。
というか、そんなことを続けているのが間違っているのかもしれないけれど。
「さあ、レースは終盤戦に突入しました! 青組がリードを続けています!!」
……何だか、実況みたいになってきたぞ? 僕はそんなことを考えていたのだが、さらに司会の話は続く。
「赤組、頑張ってください! 緑組と黄組も追いかけていく、追いかけていく、追いかけていくぅ! でもでもでもって、未だ未だ出来ないような感じがしてなりませんっ! ……えーと、私としては、青組に頑張って欲しいなあ、って思ったりしています! 何せリードを続けている訳ですしっ! けれど、私は赤組に所属しているんですよね……。この葛藤、どうすれば良いのでしょう!?」
おい、いきなり何を言い出したんだ。
赤組なら赤組の応援をしろって思うんだけれど、そこはどうなんだ!?
「へえ、司会の人も、青組を応援しているんですね。これって勝ちな気がしません? しませんか?」
のぞみも何だかそんなことを言い出した。
いや。
いやいやいや。
それってどうなんだ?
僕は思った。
そして、僕は考えた。
やはり、というか何というか。
僕としては、青組に頑張って欲しいけれど、それはそれでどうなんだろうか? って思えてくる。
そして、レースのアンカー――ひかりにバトンが回ってきた。
ひかりは陸上部でもエースとして有名だ。一年生にしてエース扱いって破格の扱いのような気がするんだけれど、そうならないのは僕だけなのだろうか?
そして。
そして。
そして、だ。
青組は走り去っていく。
残り一周を駆け抜けていく。
それだけだったのに。
それだけのことだったのに。
僕は、景色を見た。
僕は、風景を見た。
僕は、世界を見た。
ランナーが世界を切り裂く様を。
ランナーを取り巻いていく世界を。
ランナーのために生きていく世界を。
思い切り走っていたのが――彼女だったのだ。
嘉神ひかり。
そういう人物だったのだ。
そういう世界だったのだ。
そういう現実だったのだ。
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