第26話 体育祭(7)
昼食を終えて、それぞれの時間を過ごした。正確に言えば、ひかりとのぞみはそれぞれのクラスメイトと会話することになり、僕は佳久を探しつつも暇で仕方ないのでスマートフォンのゲームに夢中になっていた。過去の英霊が出てくるロールプレイングゲームなのだが、これがなかなか歯ごたえがあって難しい。課金を容易に出来る年齢じゃないのが唯一の救いだよな。こういうゲームに課金をする人間の心情が分からない。いや、でも福袋は気になるけれど……。
そんなことをしていると、LINEの通知が入った。
未だバトルが途中だったのでそのまま放置していたら今度はLINEの通話が入ってきた。
「はい、もしもし? ……何だ、あんたか。今バトルで忙しいんだけれど」
『忙しいんだけれど、じゃないですー! こっちは色々あったから話をしに来たって言うのに。それすら分からないんですか、あなたは! ほんとうにあなたは、ラブコメ世界にさせる気があるんですか! ないんですか! どっちなんですか!』
いや、そんなことを言われると決意が揺らいでしまうのだけれど。
「……あるかないかと言われたら微妙だな。何せ僕は今の日常で良いと思っている訳だし」
『……はー、そう言うと思っていましたよ。そういう訳で情報を持ってきました。あなたの友人である佳久くんはご存知ですね?』
「知っているけれど……佳久がどうしたんだよ。まさかそっちの味方だったりするのか?」
さっきの会話からして、その可能性が充分に高まってきた訳なのだが。
『ええ、その通りです。……と言っても、彼はどちらかといえば中立を維持していますがね』
「中立派? そんなの、居るのかよ。そっちの内情も分からないけれど、困った物だな」
『そう言われても困るんですけれどね……。で、さっきサリエル……佳久くんから連絡がありました。しばらくそちらの世界には干渉しないことにするそうです』
「どうして?」
『どうしてでしょうねえ。それも彼なりのルールみたいな、或いは矜持のような、何かなのでしょうね。良くは分からないですけれど』
「分からないなら、言ってくるなよ。……じゃあ、佳久は今後出てこない訳?」
『さあ、どうでしょうねえ。彼のことです。何処かで力を蓄えているかもしれませんね……』
そんな、どこぞのサイヤ人じゃあるまいし。
「じゃあ、僕を守るという話はどうなったんだ? 使者は佳久だったのか?」
『いいえ、違いますよ。……また別の人物を用意しています。まあ、人物というよりかは天使なんですけれど』
文字通りのな。
「じゃあ、それまでの間は僕は無防備って訳か……。それで良い訳? あんたにとっては」
『良い、と言える訳ないじゃないですか。出来ることなら、サリエルに保護を頼みたかったですよ。でも、サリエルが駄目って言うんですから仕方ないじゃないですか』
「……天使に対して甘くねえ?」
『甘くありませーん! 私はちゃんと私のルールに則ってやっているのです』
「……そうかよ」
僕はもう何も言えなかった。
何も言いたくなかった。
何かを言える訳でもなかった。
※
「午後の演目が始まります。午後は、障害物競走から始まります。障害物競走に参加する方は午後十二時五十五分までに入場門に集合してください」
時刻は、午後十二時五十分。
体育祭実行委員も休憩をして、漸く午後のスタートとなる訳だ。
それにしても、あいつらは昼休み中にはちょっかいをかけてこなかったな……。やはり、ひかりとのぞみに気づかれたくなかったからなのだろうか?
「……やあ、十文字隼人くん」
「あなたは、臥煙先輩。……それとも、どっちで呼べば良かったですか?」
「あら。私、天使名言ったっけ? まったく記憶にないのだけれど。……それに、臥煙先輩で良いわよ。少なくとも今の状況ではね」
臥煙先輩は僕の隣に座り、話を続けた。
「サリエルは我々の手で下したわ。知っていたかしら?」
そうか。未だ知らないのか。……サリエル、つまり佳久が無事だという事実は。
ならばその事実は隠しておいた方が良いだろう。……隠し球は取っておくに超したことはない。
「……で、何の用事ですか? まさか、わざわざ倒したと言うことを言いに来たんですか?」
「まさか。用件は別にあるわよ」
さらり、と髪を撫でながら、
「あなた、私の軍門に降るつもりはないかしら?」
……これは予想外の質問だった。
ちなみにひかりは障害物競走の選手として、のぞみはその応援としてそれぞれ元の席に戻っている。僕はギリギリまでこの日陰で涼んでいようと思っていた訳である。
従って、今この場に居る生徒は僕と臥煙先輩だけ。
「……何を突然言い出すんですか」
「あら? あなたにとって悪い話ではないと思うのだけれど」
悪い話じゃないかどうかは、これから決めるんだ。
僕は話を聞く態度を取るために、前を向いた。
「……話を聞く、という態度だけはあるようね。それだけでも有難いことだわ」
「言っておきますけれど、味方になるつもりは毛頭ありませんよ」
「あら? そうなのかしら」
「そもそも、神様と天使の抗争に巻き込まれること自体、僕は嫌なんだ」
「まあねえ、言いたいことは分かるわ。いきなり『世界を変えよう』なんてこと言われて納得出来る訳ないものねえ」
臥煙先輩は身体をくねくねとうねらせながら、話を続ける。
いったい何が目当てなんだ、くそっ。
「私は、あなたが神様……ガラムドの味方をしなければそれで良い、と考えているのよ」
「……でも、それだと世界は崩壊する?」
「ふふ。そうね。間違いなく、世界は崩壊するわ。だから、それを止めなくてはならない」
ちなみに。
電話はまだ繋がっている。とどのつまりが、この『密会』もガラムドの耳には全て入っている、という訳だ。何を話していたのか――ということについては、言わないでおこう。
それを知ってか知らずか、さらに臥煙先輩は話を続けた。
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