第25話 体育祭(6)

 さあ、諸君!! 楽しい食事の時間だっ!!

 食事と言っても簡単に言えるものじゃない。何せこの食事には、たくさんの愛情と友情が込められているのだっ!!


「……いつもの弁当と同じか」


 そう。

 いつもの弁当と同じなのだが、あまり突っ込みを入れると、母親に文句を言われかねない。だから、言わないでおく。別に母親が居ないから文句なんて言っても変わらないだろう、って? 何を仰いますか、今僕の目の前に居るのは幼馴染みの嘉神シスターズなのだぞ? 嘉神シスターズ経由で母親にそういう話が行くのは、もはや自明の理と言っても過言ではないだろう。


「何よ、何よ。何ぶつくさ垂れているのかしら? お母さんが作ってくれた弁当がそんなに嫌い? だったら最初から『作るなよ!』って言っておけば良かったんじゃなくて?」

「……別にそこまで言っていないだろ。僕は、『いつも通りの弁当』なのが気にくわないだけだ」

「ま、まあまあ……。ミートボールとかありますよ? あと卵焼きとか。たくさん作っちゃったので余らせたくないのですが……」


 へえ。嘉神シスターズはのぞみの手作りの弁当なのか。

 何か、羨ましいな。


「僕にも一口くれよ。そうだな、代わりに……冷凍ハンバーグなんてどうだ?」

「割に合わない気がするけれど……、まあ、良いわよ」


 紙皿の上に冷凍ハンバーグ(当たり前だが、解凍してある)を置き、卵焼きを一つ持っていく僕。

 ちなみに今日の弁当はおかずは一緒だが、お米はおにぎりになっている。もしかしてそれぞれ何か入っている具材が違うのだろうか? 三つあるけれど。


「ないない。隼人のお母さんに限ってそんな面倒なことするとは思えないわよ。どうせ、塩握りじゃない?」

「そうかなあ……。まだ食べてないから何とも言えないぞ! つまり、シュレーディンガーのおにぎり、って奴だ!」

「そんなかっこよく言えば何でも済むと思ったら大間違いなんだけれどなあ……」

「分からないぞ、食べてみないとさっぱり分からないんだ!」


 ぱくっ。

 口の中に、塩味が広がる――!


「どうだった?」

「……ああ、聞かないでくれ。想定通りというか、予想通りというか、確定事項だったというか。とどのつまりがそういう感じだったんだ。何も言わないでくれ」

「……つまり、ただの塩握りだったって訳ね」


 僕の言葉に、そう言って溜息を吐くひかり。

 ……そういえば、佳久はどうしたのだろう?



   ※



「はあ、はあ……!」


 佳久は、時空の割れ目から何とか元の時空に戻ってくることが出来た。

 しかし、既に体力を疲弊していた彼にとって、これ以上の戦闘は危険だった。


「これ以上、時間稼ぎをすることは出来ない、か……」


 彼は呟く。

 そうして、スマートフォンを取り出して、LINEからある連絡先にアクセスする。


「……もしもし、俺ですけれど」

『その声……サリエルですか? てっきり「堕天」した後行方をくらましていましたが、何をしていたのですか、あなたは!』

「それをあなたが言ってきますか。……『天使』と『大天使』をこの世界に招く事態まで引き起こしておいて」

『……それについては、申し訳ないとしか言いようがありません。けれど、どうしてそれをあなたが?』

「奴らにやられましたよ。手痛く攻撃を受けました。はっきり言ってこれ以上の攻撃は俺自身の存在意義に関わります。出来ることなら避けておきたいことなのですが……」

『ですが?』

「あいつが『キー』になるんでしょう? 十文字隼人が」


 それを聞いたガラムドは息を呑む。

 そして、さらに話を続ける佳久――サリエル。


「最初は、ただの世界だと思っていた。だから『堕天』した俺も問題なく暮らしていけると思った。違和感を抱いたのはつい先日のことだった。この世界に謎の亀裂が入っていることが確認出来た。どうしてそんな亀裂が入っているのか、調査を進めた結果……一つの仮説に辿り着いた。それが、天使と大天使の来訪です」

「天使と大天使の来訪……。そうですね、確かにその通りです」

「ガラムド様。この世界をどうなさるおつもりですか?」

『……それは、』

「ラブコメというカテゴリに世界を押し込めるということ。ほんとうにそれが正しいと思っているんですか?」

『……ええ。正しい。正しいと思っています。それが間違っていない、と。はっきりと言えることが出来ます』

「……そうですか。それを聞いて、少しだけ気持ちが和らぎました」

『あなたはどうなさるおつもりですか?』

「これ以上攻撃を受けることは出来ない。それに、敵が直ぐ傍に居ると分かった以上、暗躍する必要もないでしょう。俺はしばらく休ませて貰いますよ。来たるべき戦いに備えて、ね」

『そう……ですか。気をつけてください、としか言いようがありませんが……。一応、こちらからも使者を送るつもりです。どういう形になるかは分かりませんが、出会うことにはなるでしょう』

「そうだと良いのですがね」


 そして、二人の連絡は終了した。


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