第23話 体育祭(4)

『Hayato>いやいや! スタンプ送っている場合じゃないだろ! あれが大天使なのか、って言っているんだよ!』

『ガラムド>今のはOKという意味だったんですけれど、伝わりませんでした?』

『Hayato>いや、何となく伝わったけれど! それをスタンプ一つで済ませるのもどうかと思うんだけれど』

『ガラムド>えー、良いじゃないですか、別に。それにしてもそちらは暑そうですねえ。私は別段問題ないのですけれど。あ、調整とか言っても無駄ですからね。幾重にも張られたセキュリティで管理されていますし、勝手に操作することは許されません。全てプログラミングされた天候操作システムによって動作していますので!』

『Hayato>そのプログラム、欠陥品なんじゃねーの?』

『ガラムド>欠陥品とは失礼な! 私がきちんとプログラムしているんですよ!』


 あんたがやっているんかい。

 てっきり下々の者にでも任せているのかと思っていたけれど。意外とやることやっているんだな。


『ガラムド>今、変なこと考えたでしょう? 神様には全てお見通しなのですよ!(怒り顔のスタンプ)』

『Hayato>いやいや、そんなこと考えていませんから……。絶対に』

『ガラムド>ほんとうですか? 私は気にしていませんからどんどん本音をぶちまけても良いんですよ。ほらほら!』

「さっきから、何スマートフォン弄っている訳?」


 僕はそれを聞いて、急いでスマートフォンをポケットに仕舞い込んだ。

 見ると、ひかりが頬を膨らませた状態でこちらを向いている。


「さっきから君さあ……。少しは体育祭に集中しようと思わない訳?」

「た、体育祭なんて大した物じゃないだろ。別に、高校受験に関わる訳でもあるまいし。それに、見ろよ? 僕以外にもスマートフォンを弄っているどころか、携帯ゲーム機で遊んでいる人だって居るはずだぜ」

「そりゃそうかもしれないけれど……。あ、次ダンスだ。行ってくるわね!」

「はいはい、行ってらっしゃい」


 ダンスは女子だけの競技である。ちなみに審査員は三名。実行委員長の臥煙先輩、校長先生と教頭先生の三名だ。臥煙先輩が居るのは、生徒代表として一人用意しておきたい、という学校側の意思なんだろうな。だったら、生徒会の会長とか使えば良かったんじゃねえの? って思うんだけれど。そこはまあ、あまり考えない方が良いんだろうな。

 ぴこん。

 LINEの通知が来て、僕はスマートフォンを再び見る。お前、電池のこととか気にしていないだろ。


『ガラムド>さて、邪魔な人も居なくなった訳ですし、作戦会議と洒落込みませんか?』

『Hayato>一応攻略ヒロインの一人だろうが。それを「邪魔者」扱いするのもどうかと思うけれど?』

『ガラムド>あら、そういう意思はちゃんとあったんですね。てっきりもう「ラブコメ世界」にする気がないのかと思っていました』

『Hayato>嘘だな』

『ガラムド>(?と書かれたスタンプ)』

『Hayato>もしお前が本当にそんなことを思っているのなら、とっくにこの世界を諦めているだろうよ。諦めていないということは』

『ガラムド>……成程。ご明察ですね。確かにその通りですよ。あなたの言う通り、この世界は未だ諦め切れていない。簡単に「ラブコメ世界」以外の世界にしてはいけない。この世界が生き残る術がそれしか残されていない、と言えばまた別の考え方になるのかもしれませんけれど』

『Hayato>やはり、どちらかを選ぶしか道はないのか?』

『ガラムド>ないですね』


 あっさりと。

 とてつもないぐらいあっさりと言いやがった。

 そして、さらにガラムドからのメッセージは続いていく。


『ガラムド>はっきり言いますけれど、この世界が続いていくには、あなたが誰かと結ばれなくてはならないんです。確かに、誰かが彼女達を狙うこともあるかもしれませんし、今回みたいな敵が出てきてもおかしくないと思っています。けれど、この世界がラブコメにならない限り、別の世界のバックアップとして有効活用するしか道はないんです。天使達はそれを分かっている。だから、止めようとしている。私達を』

『Hayato>話し合っていく道はないんだよな?』

『ガラムド>ないでしょうね。あるなら、さっさと解決出来ていますよ』


 でしょうね。


『ガラムド>ですから、こちらも使者を送ることにしました。いつ送るかは未だ決まっていませんし、あなたに伝えることも出来ませんけれど、ちゃんとした人材を送るつもりです』

『Hayato>ちょっと待て。どうして、教えてくれないんだ?』

『ガラムド>規則違反になるからです』

『Hayato>規則って何だよ……。まあ、良いけれど。仲間が居るなら心強い』

『ガラムド>でしょう? もっと褒めてくれても良いんですよ!』

『Hayato>あんた、普段は褒められていないんだな……』

『ガラムド>神様にあんた呼ばわりするのもどうかと思いますけれどね!』


 わーっ! と歓声が聞こえてきた。

 見ると、ダンスはちょうど全部の構成が終了したらしい。

 僕はスマートフォンを仕舞い、結果だけでも見ることにした。


「皆さん、ありがとうございました! 結果発表に移りたいと思います! ……結果、出そろいました! 結果は……満場一致で青組の勝利です!」


 おー、勝ったのか。

 見ると青組の連中はハイタッチしたりなどとしている。そりゃ、喜びたいよな。

 ちなみに他の連中を見ると悔しそうな表情を浮かべている。そりゃ、あんなに喜ばれている姿を目の当たりにしちゃ、悔しいだろうに。

 戻ってきたのぞみとひかりを見て、僕は呟く。


「お疲れ様。良いダンスだったよ」

「見てないくせに良く言うわねー」


 おっ。見てたのか……。くわばらくわばら。


「続いて、大玉転がしです。全員参加になりますので準備を進めてください」


 大玉転がしか。

 ……まさか中学生になってもそんなことをするとは思いもしなかったけれど。

 そんなことを思いながら、僕は立ち上がるのだった。

 

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