第22話 体育祭(3)
五十メートル走の結果? そんなの聞かないでくれ。僕は運動が苦手なんだ。
「へえ、四位って微妙な順位じゃない?」
戻ってきたら早々、ひかりが僕にそんなことを言ってきた。
お前、傷に塩を塗る行為をしてきやがって……!
しかし、そんなことを言っても分かってくれないんだろうな、うん。
「良いだろ、別に四位でも。これが偏差値に響く訳でもないんだから」
「まあ、これで優秀な成績納めても大会には何の影響もないしねー。そう思うあんたの気持ちも分からんでもない」
ひかりが珍しく乗ってきた。
「けれど! クラス対抗戦という意味では、うちのクラスが負ける訳にはいかないのだよ! 四クラスあるから、赤・緑・青・黄ってなっている訳だけれど……、これって何でこの組み合わせなんだろう? 普通、赤といったら白じゃない?」
さあな。もしかしたら五組目があったらそれは金かもしれないぞ?
「次は、何だったっけ? 徒競走か。私は出ないから応援だけれど。みんな頑張れー」
「お前がそういう競技に出ないのは意外だよな。何で? やっぱり最後のリレーに全力投球したい気分?」
「まあ、障害物走とかも出るけれどね。配点が高いのがリレーじゃない? 大玉転がしとかもあるけれど、あれって全員参加だからか大して配点高くないのよね」
そうなのか。
ってか、配点なんて詳しいことは知らないはずだったが……。
「やれー! いけいけー!」
そんなことを考えていたら、徒競走が始まった。
徒競走。
要するにかけっこだ。五十メートル走と何が違うのか分からないけれど、まあ、その辺りは先生のかっこいい事情でもあるのだろう。全然かっこよくはないけれど。だったら、五十メートル走を徒競走と呼んで欲しいぐらいだ。
ちなみに、徒競走で走る距離は……確か百メートル。グラウンド一周が三百メートルほどだったので、その三分の一を走ることになる。まあ、距離としては上々だ。
ちなみに我が学校の体育祭はそんな競争から全員参加の大玉転がし、一部参加のダンスなど幅広く開催されており……全部で何競技あるんだっけ? 詳しい数は覚えていないけれど、最終的に順位の一番だったクラス(学年ごとに別れているのではなく、クラスごとに別れている)が勝利、という計算になっている。ちなみにクラスといってもさっき言った赤・緑・青・黄で別れているから、僕達は青組ということになるのだろう。三組だからな!
ぴこん、とLINEの通知が鳴った。
ちなみに今日は携帯は解禁されている。適度に応援しつつ、携帯も操作して良い自由時間となっている訳だ。そもそも、我が学校はあまり携帯の所持に対して厳しく取り扱っていない。まあ、片親とか働いている両親とか居る訳だし。その辺りは時代のニーズに合わせて、なのだろう。
え? LINEの相手は誰なのか、だって?
そんなもの、言わずもがな、だろう?
『ガラムド>いやあ、暑そうですねえ(扇風機のイラスト)』
……初めて神様とやらに殺意を抱いた瞬間だった。
『Hayato>無駄用ならお前のアカウントにブロック決めるけれど?』
『ガラムド>うわー、辞めてくださいよそれ! 後で怒られるの私なんですから! 確かにこの部屋クーラー効いているし私はアイス食べながら暑い暑い言っている人間どもを監視している訳なんですけれど!!』
やっぱこいつ、馬鹿だ。
神様のくせに馬鹿とは、ほんとうに困りものだ。
「……はあ」
『ガラムド>今、溜息吐きましたね? それぐらい私にはお見通しなんですからねっ!!』
『Hayatro>はいはい。あんたの千里眼もとい監視カメラ機能に面倒臭いから文句を言うつもりはありませんよっと』
『ガラムド>なんかそこはかとなく馬鹿にされた気分だ!?』
『ガラムド>まあ、いいです。そんなことよりも、天使についてデータが手に入ったので送りますよ』
LINEで?
LINEで送るの?
ぴこん。
LINEで送ってきやがった。
画像を。
画像が二枚送られてきた。
二枚とも、良く知る『天使』の画像だった。いわゆる翼が生えていて、天使のわっかが頭の上に載っていて……ってやつ。一枚は、よくよく見ると、はるかの顔だった。
そしてもう一枚の顔もどこか見たことのある顔だった。
「あれ、この顔って……」
『ガラムド>もしかして、見たことがありますか?』
『Hayato>ああ、多分だけれど』
「あら? 応援もせず、スマートフォンを弄っているのはどうかと思いますけれどねえ?」
そう。
背後に立っていた。
振り返ると、そこに立っていたのは、先程の画像に出ていた顔そのものだった。
臥煙美耶子。
またの名を、生徒会体育祭実行委員長。
その人物が、僕の目の前に立っていたのだった。
「……臥煙……先輩」
僕は、言葉を紡いだ。その言葉しか紡ぐことが出来なかった。
臥煙先輩は不敵な笑みを浮かべたまま、僕に問いかける。
スマートフォンは一度スリープモードにして、ポケットに仕舞い込んだ。
「別に回収はしないけれど……、今日は体育祭よ? 少しはそちらに注力してみるのも良いと思いますけれど……。それとも、それ程気になる『相手』からの連絡だったのかしら?」
「……そんなことはありませんよ。臥煙先輩」
「臥煙先輩? どうしました?」
臥煙先輩とペアで歩いていた――恐らく彼もまた体育祭実行委員なのだろう――は告げる。
それを聞いた臥煙先輩はそちらに振り向くと、笑みを零す。
「何でもないわ。さあ、行きましょうか。警備の続き」
そう。
体育祭は、生徒だけしか参加することを許されていない。
同時に、それ程経費をかけることが出来ない、という弱点がある。
だから警備――正確には、熱中症などで体調を悪くした生徒を発見するなど――は、体育祭実行委員がやる羽目になっている、というのが実情だ。
ひかりもやる予定だったらしいのだが――陸上部の練習が忙しいから、と断ったらしい。噂によると(ってか本人から聞いたのだけれど)、臥煙先輩が自ら引き抜こうとしてきたらしい。
何を狙っていたのだろうか?
僕には――今更になって、分かったような気がした。
スマートフォンを再度取り出し、ガラムドへの連絡を取ろうとする。
『Hayato>ガラムド。相手が接触してきた。あれが……あいつが……、大天使なのか?』
その言葉に、一瞬の遅れがあった。
そしてガラムドは僕の言葉に、こう答えた。
『ガラムド>(笑顔のスタンプ)』
……いや、スタンプ送っている場合じゃないだろ!?
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