第21話 体育祭(2)

「そういえば、隼人、あんた何出るの?」

「五十メートル走とパン食い競争。安心しろ、応援だけはしといてやるよ」


 列に並びながら、僕は言う。

 ちなみに、男女ごった煮背の順で並ぶのでひかりと僕は前後に並んでいる。のぞみは若干背が低いからちょっと離れた位置になるのだがな。


「応援、ってあんたねー……。やる気あるんだか、ないんだか、はっきりしなさいよね」

「ないよ、やる気は。何が好き好んでこんな真夏の暑い日に運動なんかせねばならんのだ。はっきり言って、内申点でも貰わないとやってられないぐらいだよ」

「あんたねー……」

「ほら、前見ろよ。列が進み出している」

「ばっ!? それは早く言いなさいよ!!」


 そんなこと言われても気づいたのがついさっきなのだから仕方がない――と言うよりも先に、ひかりはさっさと走って行ってしまった。仕方ないので僕も小走りで追いかけることにする。何であいつ走るかなー……。

 到着すると、ちょうど全員が集まったようで、実行委員のはるかがアナウンスをしていた。


「ただいまより、第七十五回体育祭を開始致します。先ずは、開会式を始めます。開会の言葉、実行委員長、臥煙さん。よろしくお願いします」


 へえ、実行委員長が自ら挨拶するんだ。

 でもまあ、確かにそういうタイミングぐらいしか実行委員長って出番ないような気がするしな。それにしても、実行委員長ってどんな人だったっけ?

 そんなことを考えていると、白い台……何て言うんだ、あれ? 朝礼台? に登っていく、いかにもたゆんたゆんしている女子生徒。そしてぺこりと頭を下げる女子生徒。ああ、あれが臥煙さんか。あれ、というのもどうかと思うが。だって一年先輩だし。


「ただいまより……」


 キィン、と耳鳴りのようなノイズが響き渡る。

 周囲を見渡すと、耳を塞いでいる人も居るようだった。まあ、苦手なのは分かる。

 ごほん、と咳払いを一つして。


「ただいまより、第七十五回体育祭を開催致します」


 それだけを言った後、頭を下げる臥煙さん。僕達もそれに従って頭を下げる。


「続いて、校長先生の言葉です。校長先生、よろしくお願いします」


 ああ、校長先生の言葉か。

 こういうときって長いんだよなあ。さっさと終わらせてくれないかな? 具体的には二分ぐらいで。いや、二分でも長いな。これから体育祭を始めます、ぐらいで良いんだよ。さっさと終わらせてくれ。

 そうして白い台――ああ、もう面倒臭い。正式名称知らないけれど、『朝礼台』で統一させて貰おう――に登る校長先生。お世辞にも髪があるとは言えない髪型をしている老齢の男性だ。流石にガラムドや天使の関係者じゃないことを祈るばかりだ。……流石に違うよね?


「今日は、晴天ということで、とても過ごしやすい一日になると思います」


 嘘吐け。今日の天気は晴天だが、気温は七月にしては珍しく、三十五度まで上がると言っていたぞ。何処が過ごしやすい一日だよ。だったらあんたらもテントの下から外に出てくれってんだ。


「皆さんの元気な姿を多くの方が見に来ています」


 先生以外に来ていたっけ?


「今日は、そんな皆さんの元気な姿を、是非見せつけてください」


 いつも見せつけているような気がしますけれど?


「さて、我が校の体育祭も今回で七十五回という節目の回になりました」


 あ、これ長くなる奴だ。知っているんだ、僕は詳しいんだよ。

 そんな突っ込みを入れるのも野暮だし、読んでいる人も面倒だろう。

 だったら、飛ばしてしまえば良い。そう思いながら、僕は頭の中を真っ白にさせていく――。


「……校長先生、ありがとうございました」


 お、終わった。

 時間は計測していないから分からないけれど、大体十五分ぐらい喋っていたか?


「……続いて、準備体操です。両手を広げても良い感覚に広がってください」

「何だよ、その感覚って」


 おっと、つい呟いてしまった。

 見ると、前に立っているひかりが笑っている。笑っている場合じゃねえよ。

 大体両手を広げても良い間隔に広がって(正しい漢字を使っていこうな?)、僕達は何がやって来るのか待機していた。

 すると、聞き覚えのあるあのメロディが流れてきた。


「あーたーらしいーあーさがきたっ きーぼーうのあーさーだ」

(ラジオ体操だあああっ!?)


 いや、練習のときに『ラジオ体操をやるよ』って体育の近藤先生が言っていたような気がするけれど! まさかほんとうにラジオ体操をやるなんて思いもしないじゃないか!

 ってか、そこから流すのかよ! 最初にいきなり第一体操じゃないのかよ!

 ……そんな突っ込みを入れていたら、行動が遅れてしまい、ワンテンポ遅れてラジオ体操に参加する羽目になってしまったのだが、それはまた別の話。


「これにて、準備体操を終わります」


 終わった……。

 いや、何か疲れた。まさか最初からこんなに疲れるとは思いもしなかった。……ってか、僕の予想というか、順番的に確か。


「続いて、五十メートル走を開始します。五十メートル走に参加する方は、入場門に集まってください」


 で、ですよねーっ!!

 最初から疲れる羽目になるじゃねえかーっ!

 僕はそんなことを思いながら、大急ぎで入場門の方へと走っていくのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る