第18話 体育祭準備(中編)

 僕とガラムドの話は続く。


「そもそも、だ。あんたの考えは、どうにもおかしい。一度僕に任せろ、とは言わないが、少しは僕の価値観も考えて貰えないものか?」

『ええ、そうですかー? でも、最近は物騒ですよ。何でも、管理者側のくせに人間界にやって来てちょっかいかける管理者だって居るんですから!』

「あんたとか?」

『私は何もしていないでしょうが!! ……でもまあ、特定までは出来ていますよ。聞きますか?』

「一応教えて貰おうか」

『人間界にやって来たのは、いずれもこの世界を「ラブコメ世界」にさせたくない勢力だと言われています。……大天使が一名と、天使が数名ですね。……あなたも気をつけてくださいよ』

「どうして?」

『どうして、って……。簡単じゃないですか。「ラブコメ世界」にさせたくない勢力ということはですよ? ラブコメにしようとする勢力をどうにかするに決まっているじゃないですか。となると、どうなるかと言えば……』

「へえ、まさかこんな簡単に見つかるなんてね」


 声がした。

 その声を聞いて、僕は振り返る。

 そこに立っていたのは、はるかだった。


「はるか……、どうしてここに?」

『ちょっと待ってください、あなた! 今の声、もしかして……』

「何を言っているんだ? ちょっと待ってくれないか」

「まさか、こんなにも早く、『ガラムド様の手下』が見つかるなんて思いもしなかったわ」


 ガラムドを、様付けで呼んだ。

 となるとこいつは……。


「まさか……天使!?」

「ええ、その通りですよ。私は天使エリザ。……まあ、今は雅はるかという名前で呼ばれていますけれど。どちらで呼んで貰っても構いませんよ」


 はるかは告げる。

 未だ、電話は繋いだままだ。


「……それ、ガラムド様からの電話ですよね? 恐らく、『ラブコメな世界』にするためのアドバイス、といったところでしょうか。……まったく、忌々しいったらありゃしない」

「何故だ? 何故、わざわざこの世界にやって来て、僕達の足止めをする?」

「世界には、決められた末路というものが存在するんですよ」


 はるかは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 離れようとしても、こちらの背中は直ぐ壁になっている。離れることは出来ない。


「あなたから僅かな神性反応がありました。……もしかして、ただの偶然かと思っていましたが。やれやれ、ここまで簡単に見つかると張り合いがありませんね」

「……何故だ」

「何です?」

「何故、僕達の日常を破壊しようとする!」

『駄目です、隼人! 天使と会話をしては。無駄だと言うことを理解することになりますよ!』

「天使と話をしても無駄……ね。あなたが言う立場ではないと思いますけれど。ガラムド様」


 どうやら、電話の声ははるかにまで届いているらしい。

 はるかの言葉は続く。


「この世界は元々バックアップとして存在する世界だったんですよ。元の世界が滅んでしまったら、その世界を利用してこの世界をバックアップとして復元する。……非常に簡単なことではないですか。私達『管理者側』にとってみれば、あなた達の世界は0と1で表現されているだけに過ぎないというのに」

『……バックアップの世界を少しでもなくす、というのが我々「管理者側」の方針だったはず! あなた達はそれに逆らおうというのですか!』

「……バックアップの世界をなくしていく? そうしたら、バックアップされなくなった世界は、どうなってしまうというの? 0と1の世界にも、生きている生き物は居る。そして、我々の存在を知らないまま死んでいく生き物も居る。それについて、あなたは何も理解しないまま、このまま続けていこうというの? それすら間違っているというのに」

『バックアップの世界は……、いいや、世界を滅ぼそうという方向に持って行かなければ良いのに。ただ、それだけだというのに』

「ほんとうに?」


 はるかは、さらに一歩前に近づいた。


「この世界はバックアップの世界として存在していた。しかしながら、それを存続させようというのは、間違いではないのか? この世界も、バックアップさせることなく、生かしていけば良いのではないか?」

『……あなた、さっきから言っていることがごちゃ混ぜになっていることに気づかないの?』

「何ですって?」

『あなたが言っていることには一貫性がない、と言いたいのよ』


 こいつ、目の前に居ないくせに色々と言ってきているな。

 僕がひどい目に遭うと言うことに分からないのか、このポンコツ神様は。


「……いいや。私達の考えは正しい。常に、正しい。ミカエル様もそうおっしゃられている」

「ミカエル?」

『脱走して、この世界を「ラブコメ世界」にさせまいとしている勢力の第一人者……つまり、大天使の一人よ』


 大天使を数える時も、一人、って呼ぶのか。

 そんなどうでも良いことを考えながら、僕は反論に出た。


「さっきから聞いていれば……。僕達ここに住んでいる人間のことをまったく考えていないような発言をしているように聞こえるのだけれど?」

 

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