第17話 体育祭準備(前編)
体育祭まであと一週間と迫ってきていた。
迫ってきていた、と言っても何かする訳でもなく、大体のことをするのは実行委員だったりする。僕達一般生徒は何もすることなく――あると言えば実行委員の手伝いをするぐらいだろうか――過ごしているのだった。
そして、放課後。
「あっ、のぞみに隼人。良いところに来てくれたじゃん」
ひかりと――隣に立っているのは、確か。
「はるか……だったか?」
「あら。私の名前を覚えているなんて、嬉しいことやね」
雅はるか。
京都からの転校生――中一の入学式にやって来たのだから、その概念はどうかと思うけれど――だった。ひかりと同じ陸上部に入っている。そして、持っている体育祭のテントの布から推測するに。
「実行委員になったのか? ひかりとはるか」
「私は違うよ。けれど、はるかがなったから、私も手伝っているだけ。早く終われば、それだけ練習に打ち込めるしね!」
「そういうことやねえ」
「……なら、仕方ないね。……で? 良いところに来た、というのは?」
「いや、ちょっとこの仕事手伝って欲しいなって思ったんだけれど」
「断る! ……僕もやらないといけないことがある」
「ふうん。何?」
「……知らないとは言わせないぞ。榊原先生から宿題を出されただろうが! 体育祭でちょうど授業が一回潰れるから再来週の提出だと言われたけれど、それでも早めにやっておいた方が何かと便利だろう? だって、体育祭で疲れた後に宿題なんて絶対にやりたくないしな」
「え? 未だやるべきじゃなくない? 早すぎない?」
「だから言っただろ、やる理由については。……まさか、忘れたなんて言わせないぞ?」
「いやいや、そこまで揮発性のメモリじゃないから」
「お前が揮発性なんて言葉を知っているのは驚いたが。……とにかく、僕はパスだ。これから宿題を片付けるんだ」
「のぞみと一緒に?」
「……のぞみとは偶然会っただけだ。話を合わせたつもりはない。それにのぞみは図書委員だろう? そして僕は宿題を片付けるために図書室へ向かう。別段、不思議じゃないだろ?」
「そりゃそうかもしれないけれどさ……。あ、宿題だったら後で見せてね」
「断る。お前は自分でやれ」
「えー、ひどい! 私だってやりたいけれど、まともにやる時間がないんだってば!」
「うふふ。私で良ければ教えてあげるけれどねえ」
はるかの言葉に、目を輝かせるひかり。
「ほんとうっ?」
「ほら。なら良いじゃないか。はるかは学年一位を狙えるかもしれないぐらい頭が良いんだし。僕はたいして頭が良い訳でもないし」
「そんなこと言って宿題の点数いつも満点のくせに。何言っているんだか」
「いや、それとこれとは話が別だろ。僕は別に満点を取りたくて取っている訳じゃないんだし」
ぶるる、とスマートフォンが震えた。
「ちょっと待った。家から電話だ」
そう言って僕は少し彼女達から離れる。
彼女達はというと、準備に追われているはずなのにのぞみと歓談に入っている。さっさとそのテント何処かに持って行けよ。
「……もしもし?」
『もしもし? 見ていましたけれど、何ですかあの無様な感じは! 私だったら好感度めちゃくちゃ下がりますよ?』
パリパリ。
「……そうかい。んで、そのパリパリって音は何だ? まさか煎餅でも食いながら見ているとか言わないだろうな?」
『そんなことはありませんよ! 何言っているんですか!』
パリパリパリパリボリボリ!!
駄目だこいつさっきからボリューム上げてわざと音を聞こえるようにしてきやがった!!
『そんなことより、ですね。あの無様なやり方はどうなんですか、と言っているんですよ。流石の私もムカついてきますよ?』
「ほう? じゃあ、どうにかするのか?」
『いや、それはしませんけれど。管理めんどくさいんで。あと申請するのだるいんで』
申請しなくちゃいけないのかよ。
神様の世界も面倒だな。
「……で? それをしないというならどうするつもりだ? また『アドバイス』でも送るつもりか?」
『アドバイスというか、やりとりというか……。まあ、めんどくさいなあ、と思ってはいるんですけれど……』
「おい神様」
『まあまあ! 良いじゃないですか、私の好き勝手に世界をあれやこれやするより、あなたが自由に世界を変えることが出来るんです。良いとは思いませんか?』
「別にそうは思わないけれど」
『ぐぬぬ……。言わせておけば、さっきから……』
あ、何か不味いライン越えたか?
「何か言っちゃ不味いことでも言ったか?」
『いいえ、別に! ……それよりも、このペースで行ったらあなた、この世界を滅亡させることになりますけれど、それでも良いんですか?』
「良くはないだろ、良くは。この世界が滅んだら……そりゃ、困るし……」
『困るような物言いしていないんですけれど!! 見たら、困っているような表情もしていないし!!』
「さっきから何なんだ、お前は! 何処かにカメラでもついているのかよ!?」
『カメラ? ありますよ。あなたに見えない位相から、あなたのどんなものでも丸裸に見えます。凄いシステムだとは思いませんか? まあ、神様の世界ならこれぐらい常識といえるものなんですけれどね』
「……おう、そうかい。今、僕は最高にあんたを軽蔑したよ」
『軽蔑っ!? その言い方はどうかと思いますよ、その言い方は!!』
「そう言われてもなあ……。やっぱり、何というか、軽蔑する気持ちも分かってくれよ。例えばあんたが二十四時間監視されています! なんてことを言われたらどう思う?」
『軽蔑しますね』
「ほら、そうだろうが!」
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