第16話 六月最後の週末(8)

 それから。

 モンブランなどのケーキを食べ終えたら、ちょうど営業終了時間に相成ったものだから、お僕達はそそくさと外に出ることにした。別段、誰も居なかったからもっと居ても良かったのかもしれないけれど、自由時間を奪う訳にもいかない。そう思った僕達は、食べ終わったらさっさと出ようということを何となくではあるけれど固めていた訳だ。話もしないでそんな風に考えつく僕達って割と凄いような気がするけれど、そんなことはまた別の話。どうだって良い、とまではいかないけれど、どうでも良いの類いには入るんじゃないだろうか。

 それはそれとして。


「まあ、無事に週末を乗り切った訳だが」

『それの何処が「無事に」なんですかー? たまにヒヤヒヤした場面とかあったでしょうに。私は見逃していませんよー、何せ神様なので』


 ……この神様、ほんとうにイライラする。


『何か言いましたか?』

「いいえ、何も」

『それより、あなたの学校はこれからイベントのデッドヒートですね! 体育祭に学力テストに夏休み……。まあ、学力テストの点数が悪ければ補習とかありますもんね? あなたの成績ならそこまで悪くはならないと思っていますが』

「何でお前、人の学校のスケジュール把握出来ているんだ」

『だって、神様ですので』

「……、」


 何も言わなかった。

 何も言えなかった、の方が正しいのかもしれない。

 神様がどんな権力を使って、僕の学校のスケジュールを把握しているのかはさておき。


『……イベントが盛りだくさんなんですから、もっと色々と考えないといけませんよ! きっと二人の好感度は今回のイベントで上がったことでしょうから……』

「好感度なんて把握出来るのかよ!?」

『出来ますよ。だって神様ですから!』


 ……あんぐり。

 何も言えなかった、パート2。


「……分かった。お前が把握しているのは分かった。でも、教えてはくれないんだろ?」

『ええ、教えたらそれはそれで問題ですから。人生はギャルゲーではありませんので』

「確かにそういうゲームなら教えてくれるかもしれないけれどさあ!!」

『……とにかく! あなたが成し遂げなくてはならないことはたった一つです』

「分かっている。どちらかを選ぶことだろう?」

『そう。その通りです。それをしなければ、世界が滅びます。滅亡します。完膚なきまでに滅びます。それでも良いならどちらも選ばない選択肢でも良いですけれど』

「好き好んで、世界を滅ぼす方向に持って行く馬鹿が何処にいるんだよ……」

『居るんですよ、世の中には、そういう人間が。……ま、それはさておいて、あなたがやらなくてはならないこと、それを突き止めて貰わなくてはなりません。そのために、大ヒントー! 私からのサービスです。是非受け取ってください』

「何か胡散臭いなあ……。受け取らないという選択肢は存在しない訳?」

『神様からのプレゼントを受け取らない、と!? 私を信奉している信者からしたら最強のコンテンツだというのに!!』

「調べたよ。『新たなる光』だっけ? 胡散臭い新興宗教のように見えるけれど。それでもあんたからすれば立派な信者って訳?」

『そういうもんですよ。世の中というのは、常に新しく進化し続けていくのです。そしていつかは私をほんとうの神様だと信じていくことになるのですから……』

「おー、こわこわ。そんなことある訳ないだろうが」

『……ひどいですねえ、さっきから。処罰を与えてあげたいレベルですよ』

「さらっと恐ろしいことを言うな、お前は!?」

『まあ、それはそれでおいておくとして。……やらなくちゃいけないことを再整理しましょう☆』

「再整理って……。言わずとも分かっていることじゃないのか?」

『あら。そうですか? だったら言ってみてください。何をするべきなのか』

「僕はこれから二人のうちどちらかを選択する。そして、その一人の好感度を上げる。そして告白イベントに持ち込む。答えは見えきっていることだろうが」

『そうでしょうか?』

「……何が言いたい?」

『あなたは二人のうちどちらかを選び、世界を救うことが出来る。裏を返せば、どちらも選ばないことで、あえて世界を滅ぼすことだって出来る。その場合、キャラクターは再置換され、物語は一からやり直しになる。けれど、それでも良いというのなら……』

「それって、実質僕達に死ね、と言っているようなものじゃないか」

『そうですね。……そうなります』

「ガラムド。あんたはどっちを狙っているんだ?」


 ガラムドからは、一瞬の沈黙があった。

 そして、ガラムドは話を続ける。


『私はどちらでも……ええ、どちらでも構わないのです。世界を再構築させようとも、この世界を存続させようとも。私にとってはどちらでも構わない。それが「管理者」たる私の意思です』

「……ふうん。そんなものか」


 僕は呟く。

 時計を見ると、時刻は十一時を回っていた。


「……そろそろ寝るから、電話を切って良いか?」

『あ、はい。そうですね。それじゃ、最後に一つだけ』

「?」

『やり直しは利きませんから、ちゃんとした行動を取ってください。正確に言えば、「覚悟」をしておいてください、ということですね。この世界も、あなたの人生も、やり直しは利きません。もし世界を再構築させることになったら、あなたという存在も全てなくなってしまうのですから』

「……肝に銘じておくよ」


 そうして、僕達は電話を切った。


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