第13話 六月最後の週末(5)
ひかりの注文したAランチ(ラーメンとと餃子のセット)と、のぞみの注文した餃子定食、それに佳久の注文したパーコーメン定食が続々とやって来て、僕達は昼食をすることに相成った。僕は麻婆豆腐を食べながら、少し辛いなと思っていた。思っていただけで、口には出さない。というか、みんなそうだった。誰か食事に関する感想を言えば良いのに、って思っていただけで、みんな誰も口に出すことはしなかった。いや、まあ、食べながら話をするのはマナー的に良くないのだけれど。
「……ねえ、麻婆豆腐、一口寄越しなよ」
そう言って、スープ用のレンゲで麻婆豆腐を一口掬っていくひかり。
「あ、それ辛いぞ」
僕がそう言い終わる前に、ひかりは麻婆豆腐を既に口の中に放り込んでいた。
「ちょ、辛っ、げほっ、ごほっ……。あんた、辛いなら辛いって言いなさいよ!」
「言う前にお前が食った。だからノーカン」
「……っ、あんたねえ……」
「辛いならデザートの杏仁豆腐でも食えば? それが嫌ならご飯をかっ込むか」
「私のAランチ、ご飯がついていないことを知っていて言うのね、その台詞!」
「あ、そうだった。済まん、済まん。悪気はないんだ、許してくれよ」
「許してくれってあんたね……」
「まあ、良いじゃないですか……二人とも。喧嘩をすると、食事が美味しくなくなりますよ?」
のぞみの言葉を聞いて、ひかりは仕方なくそれに従った。
「……ひかりが言うなら仕方ないわね……」
それを聞いて僕は少し安心した。
「しかし、この麻婆豆腐辛いな……」
僕の言葉に、耳をそばだてるひかりなのであった。
※
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
食事を終えたのは、ちょうど一時ぐらいだっただろうか。それを確認した僕は、全員が食べ終わったのを確認して、問いかける。
「何処か行きたいところはあるか? 未だ一時間ぐらいあるし、何処に行くでも構わないぞ。……まあ、二時までには刑部駅に着いていないといけないから逆算するとあと五十分ぐらいしか時間がないんだけれどな」
「別にないわよ。ヨッシーは?」
「俺も特段……。のぞみちゃんは?」
「私も特に……。隼人くんは?」
「僕もこれといってないんだよな、これがまた」
そういう訳で四人が四人暇な訳であって。
仕方ないので、自由行動を取ることになるのだった。
会計を済ませ、僕達は別れることになった。
「それじゃ、一時間後に南刑部駅の改札口で集合な」
「了解!」
「俺はひかりちゃんと一緒か……。まあ、別に良いんだけれど……」
「あのっ、私と一緒で楽しいんでしょうか、隼人くん」
言ったのは、のぞみだった。
ちなみにどうしてこのような別れ方をしたのかというと、グッパージャスで決めたからである。え? グッパージャスって知らない? 調べてくれ、それぐらい。
「良いんだよ、別に。好きに別れればそれで良いんだ。……そういう訳で一時間暇を潰さないといけない訳だが。どうする? 好きにして貰って構わないぞ」
「ええっ!? 急にそんなことを言われると困りますよ、私! ……えーと、そうですね。だったら、ここに行きませんか?」
いつの間にか用意されていたエーテルタウン刑部のパンフレットを開き、ある場所を指さすのぞみ。
のぞみが指さした場所は、ゲームセンター刑部と書かれている場所だった。
「……ゲームセンター?」
「クレーンゲームで遊びたいのですが……どうでしょうか?」
「良いよ、別に。のぞみが好きなところに行けばいいし」
「……じゃあ、そこにお願いします」
「了解」
そういう訳で、僕達は一路ゲームセンターに向かうことになるのだった。
ゲームセンター刑部。
こちらもかつてゲームセンターがエーテルタウン刑部があった場所にあったらしいのだが、今ではエーテルタウン刑部に組み込まれているらしい。らしい、ってかそれが正解なのだけれど。
「……何だか」
「カップルだらけだな……」
右も左もカップルしか居ない。何というか、カップルしか集まっていないのかってぐらいの場所だった。
「あ、これが原因だったりして……?」
のぞみが言うと、壁掛けポスターに視線が移る。
壁掛けポスターにはこう書かれていた。
『カップルデー開催中! カップルには百枚コインをプレゼント! さらに抽選で五組に五千円相当のグッズをプレゼント致します!』
「カップルデー……ねえ」
「あ、お客さんもカップルですか? 今日はカップルデーだからカップルが多いんですよねえ」
「あ、そういう訳じゃ」
「はい、そうです」
って、のぞみさん!? いったい何を言っているんですか!?
突然そんなことを言われたら困惑するに決まっていますよ!!
「カップルデーなら、百枚コインをプレゼントしますよ。さらに、抽選に参加出来ます! どうです、やっていきますか?」
「お願いします」
何だか今日ののぞみ、ぐいぐい来るな……。
そんなことを思いながら、僕はのぞみの赴くままに従うばかりだった。
抽選と言われたのだが、正確に言えば、くじを引くシステムになっているようだ。何だ、コンビニでよくある七百円でくじを引くシステムと同じじゃないか。そんなことを考えながら、僕はのぞみに全てを任せることにした。
「……え? 隼人くんが引かないんですか?」
「ここはのぞみに任せるよ。のぞみが選ぶものに僕は従うし」
「それなら良いけれど……」
のぞみは箱に手を入れて、しばらくかき混ぜる。
やがて手を止めて、一枚の紙を取り出した。
その紙には――『当たり』と書かれていた。
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