7話目


◾️◾️◾️


「早く……早くこのことをギルドに伝えなければ。」


男は失った左手から滴る血で地面に魔方陣を描く。

男が呪文を唱えると魔方陣から隼が現れる。

男はそれに同じく血で何かを書いた巻紙を持たせ飛ばすと地面に倒れ込む。

それっきり男はピクリとも動かなくなった。


◾️◾️◾️


リュックを揺らして楽しそうに跳ねて歩く闇堂。


「初出勤!」


闇堂はそう言うとギルドの門を勢いよく開く。

そんな闇堂を諌めながら天光がクエストボードへと向かって行く。

二人はギルドに入って初となる〈お仕事〉をしに来たのだ。


「簡単そうな討伐依頼があれば良いんだけど。」


天光が依頼を探しているとギルドでポテトを買ったらしく闇堂がそれを食べながら依頼を一つ手に取る。


「この依頼とか報酬もいい感じじゃね。」


闇堂が手に取った依頼書には〈猪退治依頼〉という見出しが付いており報酬の部分は上から新たに書き足した跡が残っていた。

特に何かこだわりがあるわけでも無いため天光も了承し、二人は依頼書を受け付けに提出しようとすると。


「え、その依頼はちょっと……」


受け付け係の人は少し困った顔をすると依頼書を持って受け付けの裏へ行き、数分するとやはり困った顔で戻ってきた。


「実は先日このクエストに挑んだ駆け出しの冒険者が三名居まして。他にも猟師が数人。ですがその…結果としては二人が重傷、他に関しては消息不明となっています。ですから依頼のランクを上げ報酬も上乗せしているのですが。」


係員は口ごもりながら言葉を紡ぐ。


「お二人はまだ依頼経験が無いためこの依頼は少し。」


そう係員が二人に説明をしていると別の二人組が横から現れる。


「じゃあ俺ら追加で。」


「イワンさんとバルドルさん⁈」


天光が驚きの声を上げる。


「俺らも一緒なら大丈夫っしょ。」


「え……まぁ……。」


係員も突然の二人に面をくらいながら依頼書を再度受け取る。


「よっしゃじゃあ行きますか!」


イワンは係員から確認を受けるとすぐに出口へ駆けていく。

そんなイワンを無視してバルドルは二人に話しかける。


「すまんな。横から突然。アイツがお前らと依頼を受けてみたいって言ってうるさくてよ。」


「いえいえそんな。むしろ助かりました。」


三人は必要な分の医療用品や食べ物の確認を済ませてイワンが乗っている馬車へと向かう。

馬車は四人を乗せ依頼書に書かれた場所へと向かって行った。


――馬車で簡単な自己紹介や世間話をして親交を深めたりしていると依頼の目的地が見えてくる。

所謂山側の田舎村といった風体の村に四人が着くと村人達が集まってくる。

やはり前の冒険者が依頼に失敗したこともあってか村人達は明るさの中に少しの不安があるように見える。

するとイワンはそんな不安を拭うためにか腕の印を輝かせる。


「大丈夫!皆さんの生活の邪魔をする猪は全員俺らが退治しますから!」


イワンの冒険者としての経験が生む自信と安心感は村人達を安心させるには十分だった。


―― その日は猪の群れの大きさや基本的な活動パターンについての情報収集に徹し四人は村の宿へと向かう。

そこで風呂を終え山菜を使った田舎寿司や天ぷらなどに舌鼓を打っていると一人の少年が大人の目をかいくぐって部屋へ入ってくる。


「どうした坊主。俺らの冒険譚でも聞きたいのか?」


バルドルがおどけた調子でそう言うと少年は首を横に振って四人に首飾りを見せる。

少年の首飾りを持つ手は震え、口は今にも泣き出しそうに曲がっている。

が目はしっかりと四人を見つめていた。

そんな少年の只事では無い様子を見て四人は姿勢を正す。


「これさ。父ちゃん達が昔に俺と友達たちに誕生日の祝いとしてのくれた首飾りなんだ。」


少年は今にも泣き出しそうに震えながらゆっくりと言葉を紡いでいく。


「父ちゃん達は猪なんかには絶対に負けないんだ。多分父ちゃん達はきっと罠に引っかけられたんだ。」


そう言って一度下を向くともう一度四人を見つめなおす。


「俺たちはまだ弱いから仇を取れないから!だから!俺たちの分も!頼むから仇を取って!」


少年は大粒の涙を流しながらそう叫ぶと四人に首飾りを差し出す。

四人はそれを受け取ると少年の前でそれを首にかける。


「任せとけ。絶対仇は取る。」


全員が口を揃え少年に誓うように、また自分達の気持ちを固めるようにその場で言った。


――各々が部屋で準備をした夜が明けて次の日の朝。

ギルドから四人に帰還の手紙が届く。

内容としては依頼の討伐対象が猪で止まらない可能性が大いにあるため一度ギルドに戻れと言うものだった。

が四人は一切の迷いなくその手紙を破り捨てた。


「気に食わねぇな。裏に何か居るから手を引けだと。ビスターさんらしくもねぇ。」


「全くだ。おおよそ裏に別の国家か種族かが絡んでいるのだろう。」


イワンとバルドルは怒りをあらわにして山へと向かう。

闇堂と天光もまた、昨日の首飾りと少年への誓いを胸に山へと向かう。


――ブォォォォ!――


四人が山の中を進んでいると何処からか猪の鳴き声が聞こえてくる。

四人はそれらを無視して予定の平原へとたどり着くとそこに陣を敷く。

まだ周りから猪の気配がすることを確認すると。


「かかってこいやぁぁぁ!」


闇堂が雄叫びを上げると猪の群れが突っ込んでくる。


『地崩し』


バルドルの詠唱で四人の周りの大地が崩れ突進していた猪達が落ちていく。

が突進の後続に居た猪達は急停止や方向転換により散らばっていこうとする。


「え⁈猪突猛進って言うんやし前に突っ込んでこいよ!」


闇堂はそう言うと弓を構えて一匹の背中を射る。


「まぁ知ってるけどな。」


闇堂が射た弓矢には天光の魔法で作った糸が付いていた。


「もしコイツらが操られてんならこれで分かんじゃん。」


そう言うとイワンが天光の糸に指を当て目を瞑る。


「心合」


イワンの意識が魔力の糸を通して猪へと繋がっていく。

少し経つと無意識状態になっていたイワンが笑い出す。


「ビンゴだ。アイツら全員操られてやがる。」


そう言うとイワンが立ち上がってある場所へと歩き出す。


「黒幕野郎の場所も分かったし殴りに行くか。」


残りの三人もイワンの後を追っていく。


そうして四人は黒幕がいるらしい場所へと辿り着いた。


「まさか山の中にこんな場所があるなんてな。」


岩で作られた大きな扉の前で四人は驚愕の声を上げる。

まぁとりあえず中に入りますか。


『黒穴』


闇堂が扉に手を当てて詠唱をすると扉に穴が空く。

四人が中に入って行くと中は何かの実験室の跡のような有様だった。


「なんだ、これは。」


四人が中を進んで行くと奥に人の影が見えた。


「出てこい!」


イワンがそう言って魔力弾を放つと、それをはじき返しながらローブを被った二人組が出てくる。


「貴方達は誰?」


小さい方が女の声で問いを投げかける。


「〈ギルド・セイルアウェイ〉の冒険者だ。それよりお前らこそ一体何ものだ。猪を操って何を企んでやがる。」


「あらあら。冒険者なの。じゃあもしかしたら私の探し物も知ってるかも。」


女が指を鳴らすと五つの椅子と一つのテーブルが突然現れる。

女がそれに座るともう片方が何処からかティーセットを用意する。


「互いに聞きたいことは沢山あるみたいだし一度お茶にしましょ。」


女のふざけた態度にイワンと闇堂は怒りをあらわにするがバルドルと天光は椅子に座る。

バルドルと天光が座ったのにつられてイワンと闇堂も席に着く。


「ルイス。彼らにもお茶を用意してあげて。」


女がそう言うとルイスと呼ばれた男がまた何処からともなくお茶を用意する。


「じゃあまずは自己紹介でもしようかしら。私の名前はアグノラ。好きなものは紅茶と紅茶に合うお菓子。よろしくね。」


アグノラの自己紹介を聞いて四人も自己紹介をする。


「ルイス。貴方も自己紹介をしたら?」


「いや俺は。」


ルイスは首を横に振って断る。


「あらそう。彼はルイス。私の執事よ。」


「アグノラさんとルイスさんですね。お二人はどうしてここに?」


「ちょっと探し物があってね。猪さん達に手伝ってもらってたの。」


「お前の探し物ってのは人を何人も殺さなきゃいけねぇモノなのかよ。」


イワンが敵意を剥き出しにして机を叩く。


「落ち着きなさいよ。私は冒険者が殺されたのとは全く無関係よ。」


「あ?だが実際にお前は猪を操ってんだろ。」


「私は感覚を借りてるだけよ。だから当然貴方達が威嚇をしたりしたら本能的に彼らは突っ込んでいくわ。」


「それよりまだ死体は見つかってないにも関わらず何故殺しと言われてすぐに冒険者殺しと思ったのですか?まだ怪我人が出たとしか世には出てないはずなのに。」


怒り心頭のイワンに変わって天光が質問をする。


「その犯人にも用があるからね。」


「犯人を知っているのですか?」


「えぇ。名前はアンテノーラ。かつてエルフの英雄と言われた男よ。」


「アンテノーラだと。そいつはまた凄まじい大物が出てきたな。」


バルドルはそう言うと荷物を自身の元へと寄せる。


「政治的な理由とかならクソ喰らえだが流石に相手が悪過ぎる。帰るぞ。」


「あぁ……俺らじゃどうしようもねぇ。」


バルドルとイワンはすぐに山を下りようと準備を始める。


「そんなにヤバい相手なんですか?そのアンテノーラって言うのは。」


「あぁ。もし相手にするならSかA上位数名が必要になるレベルだ。それでも倒せる保証は全く無いが。」


バルドルの言葉を聞くと天光は不服そうな顔をしている闇堂を説得しに行く。

初めは渋っていた闇堂だが自身の意地で周りにも危険が及ぶと聞くと渋々下山に賛同する。


「アグノラさんでしたっけ。最後に一つだけ聞いてもいいですか?そのアンテノーラって奴が何故ここに来ていたのか分かりますか?」


「きっと私たちの探し物と同じ。大戦の落とした影の残りね。」


「それはこの実験場では無いのですか?」


「この実験場で作られたモノよ。」


闇堂は最後の質問を終えると荷物を手早くまとめ足早に下山していく。


「大戦の遺物ね。明らかにヤバいものだよね。」


「だろうな。あの女もエルフの英雄様もそれで何をするつもりなんだか。」


「破壊と再生だよ。」


四人の後ろから一人の男が現れる。

四人がその男をアンテノーラだと理解し臨戦態勢に入るまでの数瞬の間にアンテノーラは四人のすぐ側に来ていた。


「安心しなよ。僕はエルフだ。君達をとって食ったりなんてしないよ。」


そう言いながらアンテノーラは闇堂の頬を手で撫でる。


「君の魔力は変わってるね。ちょっと見せてよ。」


アンテノーラの手に魔力が集まるまでの一瞬に闇堂が刀で斬りつける。


『喰らえよ夜叉』


闇堂が魔力を解放するとアンテノーラが笑い出す。


「君可愛いね。自分の魔力を恐れてるのかい?」


そう言うとアンテノーラが腰の短剣に手に持つ。


「キチンと名前は呼んであげなきゃ。こんな風にね。」


アンテノーラの周りから凄まじい魔力が吹き出してくる。

強大な魔力が風となり突風が四人を吹きつける。


『奪えよテアーノ』


アンテノーラがそう唱えると風が止みアンテノーラの横に一匹の豹が現れる。


「君の魔力の全てを見せてくれよ。」


そう言うとアンテノーラは闇堂に斬りかかっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る