6話目
新たな装いを身に纏い意気揚々と家から出ようとする二人。
黒を基にした着物を着た闇堂と白を基にした着物を着た天光の並びはとても美しくリーシャとナディアも大きく賞賛していた。
「素晴らしくお似合いですよ。」
「まるで絵画みたいですよ!」
あまりの褒めっぷりに少し照れながらも芯の通った声で出かけの挨拶をしグワルフの馬車に乗る二人。
「似合ってるね。試験受かったら絵でも描いてもらおっか。」
グワルフはいつもの通りに冗談混じりに二人に話しかける。
と同時に二人の調子を確認して安堵の笑いをこぼす。
「その調子ならCは余裕そうだね。」
「グワルフさんのお墨付きだし絶対合格できんじゃん。」
「闇堂の悪い癖だよ、それ。油断してたら落ちるよ。」
グワルフの言葉に浮き足立つ闇堂とそれを諌める天光を見てグワルフが大きく笑う。
――そんな雰囲気の中で三人が談笑していると馬車がギルドへ着く。
ギルドには中庭への道が出来ていて多くの観衆が二人の登場を待っていた。
二人が馬車から降りてギルドへと歩み出すと観衆から声援が湧き上がる。
「竜殺しの力を見せてくれよ!頑張れー!」
「こんな脳筋デブでもなれるし気張り過ぎんなよ!」
二人がギルドに初めて行った日から何かとよく見る二人組も観衆の中に混じって応援をしていた。
「うぉぉぉっ!やってやるぜ!」
観衆に向けて闇堂が手を振りかざしてアピールすると声が強まる。
そして二人が中庭へ着くとギルド長であるビスターと付き添いの少女が待っていた。
少女が紋様の描かれた紙に血を垂らすと紙からゴーレムが召喚される。
「これよりCランク試験を開始する!」
ビスターがそう叫びギルドの紋様の描かれた旗を地面に刺すと地面に文字が浮かび上がっていく。
それは二人とゴーレムを囲むと同時に光を放ち壁となる。
「合否の判断は簡潔明瞭!ゴーレムを倒せたかどうかのみ!時間制限は十五分!それでは始め!」
ビスターの叫びと共にゴーレムが動き出し壁にはタイムリミットが表示される。
「手始めに喰らえや!『爆』」
闇堂が叫ぶとゴーレムの周囲が爆発する。
がゴーレムは微動だにせず、爆風に紛れて懐に入ろうとした闇堂に拳を振りかぶる。
が闇堂は速度を落とさずに向かっていく。
『守って』
天光の声に合わせて光が闇堂を包み込むとゴーレムの拳が弾かれる。
と同時に闇堂が刀を構え叫ぶ。
『喰らえよ夜叉』
闇堂から吹き出す闇の魔力が刀を包み込む。
「闇纏い一閃!」
闇堂が自作の必殺技名を叫びながらゴーレムの胴体を切り裂く。
とゴーレムの身体が二つに分かれゴーレムが崩れ落ちる。
その様子を見ていた観衆から歓声が湧き起こる。
闇堂と天光は試験の終了を告げる声を待たずに帰ろうとするが壁は消えていない。
二人が困惑していると後ろから機械が組み立てられていくような音が聞こえだす。
「うぉっ⁈」
二人に向けて後ろからネジが飛んでくる。
二人が刀で弾きながら後ろを見るとゴーレムが復活していた。
「あぁ?なんだコイツ。」
そう言うと闇堂が先と同じように突撃していく。
そして先と同じように拳を弾き懐に入った時。
ゴーレムの腹部から闇堂に向けてトゲが飛び出してくる。
「ちっ!」
闇堂はトゲを躱すために体制を崩してしまいゴーレムを倒し切れずに距離を取る。
「コイツの倒し方分かんねぇことにはどうにもなんねぇな。」
「多分心臓みたいな部分壊せばいいんだろうけど。どこにあるのかな。」
二人はゴーレムの攻撃をいなしつつ相談をしている。
残り時間内に心臓部を見つける手段に悩む二人。
そこで闇堂が刀を鞘に納める。
「俺実は凄い技思いついてるんだよね。時間稼ぎしてくんね?」
「それ倒し切れるの?」
「分かんないけど闇雲に攻撃しても勝てないしやるしか無くね。」
「それもそうだね。何分ほしいの?」
「三分。」
そう言うと闇堂は全身に魔力を漲らせていく。
闇堂が技の準備に入ると同時に天光がゴーレムの足止めに走りだす。
『行こう天狐』
天光の全身から雷の如き魔力が噴き出る。
がその魔力は天光から離れ空中に集まって行き、それは狐の形を成した。
「悪いけど少しの間だけ付き合ってもらうよ。」
そう言うと狐がゴーレムに飛びかかっていく。
ゴーレムが狐に気を取られ隙が出来るたびに一太刀を入れてはすぐに距離を取ることで消耗戦を仕掛け時間を稼ぐ天光。
こうして二分と少しが経った頃。
闇堂の魔力が突如として爆発的に上がりゴーレムが闇堂に飛びかかろうとする。
と同時に狐の身体が四散しゴーレムの全身の傷から天光の左手にかけて光の糸が生まれる。
天光が光の糸を使って闇堂の目の前でゴーレムを引き止めると同時に闇堂が刀に手をかける。
「派手に決めちゃえよ!」
そう言うと天光が左手を握りしめ、その動きに呼応して光の糸がゴーレムの全身を貫き身動きを出来ないようにする。
『黒葬・縛』
闇堂がそう呟きつつ鞘から刀を抜くと刀から闇が溢れ出す。
闇がゴーレムを呑み込むと闇堂が刀を鞘に納めていく。
『黒葬・滅』
そう言って闇堂が刀を鞘に納めると同時に闇が圧縮され棺の形になる。
すると闇堂はその棺を手で持って高く掲げ握り潰した。
「これで試験合格っしょ?」
闇堂が手の中に残るゴミを払いながら言うとビスターが笑いながら壁を解除する。
そしてビスターは旗を持つと。
「アマミツカズトとアンドウツバサのC級昇級をここに認める!」
と大声で叫んだ。
すると観衆から今日一番の歓声が沸き起こった。
天光と闇堂が観衆に向けて手を振ったりしているとビスターと少女が近づいてくる。
そして二人の手の甲にギルドの一員を示す紋様を押す。
「新たなギルドメンバーの誕生を祝って!今日は無料で飲み放題食べ放題だぁ!」
ビスターの叫びに観衆が雄叫びを上げる。
――こうして無事試験を終えた二人は凄まじい量の冒険者に話しかけられていた。
「まさか〈マル君八号〉をぶち壊すなんてお前らすげーな!」
「大半は後ろの安全装置を頑張って押すかコアの位置を見つけて一点集中なんだよ〜。」
特に何故か二人のことを凄く気にかけてる冒険者二人組は最早友人かのように二人に横に座って飲んでいた。
「今頃メイビスの嬢ちゃんは泣いてんじゃねーのか。」
「メイビスさんっていうのはあのマスターの横にいつも居る?」
「そう。あの子。まだ若いのに術師としての腕はすげぇ高いんだよな。やっぱ血なのかね。」
「あのマスターの子だからな。」
そう言うと二人はまた大きな声で笑い出す。
「ところでお名前を伺っても?」
「あれまだ名前言ってなかったっか。俺はバルドル。で横のコイツはイワンってんだ。」
バルドルは大きなお腹を揺らしながら紹介をする。
バルドルの紹介に合わせてイワンも自己紹介をする。
「俺はイワン。このデブとは腐れ縁でね。今は二人で冒険をしてるのさ。」
そう言うとイワンが腕の紋様を見せ、それに合わせてバルドルも紋様を見せる。
「こう見えても俺らBランクなんだぜ。」
誇らしげに言うイワンに闇堂がどうすればなれるのかと聞くと。
「C以上は実績のみだからな。お前らの実力なら依頼積めばすぐになれるぜ。」
そう言うと二人は様々な冒険者の知識を話し出す。
そして割りかし話した頃に少し用事があると言って何処かへ行った。
するとまた別の冒険者達が二人に話しかけ気づけば日が暮れていた。
――二人が家に帰るとリーシャとナディアがすごく喜んだ様子で迎えてくれた。
「無事試験に合格なされたのですね。」
「ホントにおめでとうございます!お風呂の準備も出来てますよ!」
二人はリーシャとナディアが用意してくれた風呂で話をする。
「冒険者ってのは変わってるけどいい人達ばかりだな。」
「闇堂ってば途中から女性冒険者にデレデレだったよね。」
「んなことねーよ。」
そんなたわいのない話をしながら二人は身体を休める。
「そう言えば背中は大丈夫?」
「あぁそういやまだ話してなかったな。昨日久々にあれの夢を見たよ。」
「えぇっ!大変じゃんか!早く封じの道具見つけなきゃ。」
「ははは。大げさ過ぎんだろ。もう俺も一七だぜ。今更暴走したりなんかさせねーよ。」
天光は心配そうに闇堂の背中を撫でる。
が闇堂の方は大丈夫だと言って気にも止めていなかった。
◾️◾️◾️
「ねぇ、まだ私が嫌い?」
少女が闇堂に問いかける。
「当たり前だ。お前のせいで俺と周りの人間がどんな目にあったと思ってる。」
少女がクスクスと笑いながら闇堂の顔を撫でる。
「でも気づいてるんでしょ。こっちの世界じゃ私の力が要るって。」
少女がそう言って闇堂に抱きつくと闇堂の全身に魔力が漲る。
「妹の姿でふざけるなよ。」
闇堂が少女を離そうとすると少女の姿が煙となる。
煙は集まり別の姿を取る。
「そう邪険に扱わないでよ。ちょっとした冗談じゃん。」
角を生やした所謂鬼の姿で。
それでいて可憐な少女の姿でソレは闇堂に話しかける。
「そう言えばヤハーンって国にはお前と同じ鬼が居るらしいぞ。」
「私とは生命としての格が違うよ。」
「お前のが下?」
「上。」
ソレは舌を出して戯けた顔をして答えると空を舞いだす。
「そんなことより彼には私と仲良く喋ってるって言わなくていいの?」
「仲良くねーよ。」
闇堂は不服そうにソレに言う。
「俺は別にお前を許したわけじゃねぇ。」
「それでこそ人間。」
ソレは楽しそうに笑うと闇堂にキスをする。
「許さないにしても魔力を使う時くらいは名前を言ってくれたらいいのに。酒呑童子って。」
酒呑童子はそう言うとまた煙となって消えていく。
「正しく呼べば呼ぶだけ乗っ取りにくんだろ。」
闇堂は悪態をつきながら空へ向け中指を立てると深い眠りに落ちていった。
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