5話目
闇が囁く。
「壊してしまえ。」
闇が少年の身体を包み込んでいく。
「もう道化をを演じるのは嫌だろう。」
闇が少年に深く入り込んでいく。
「さぁ君の想いを、全てを放ってごらん。楽になれるよ。」
闇に取り込まれた少年は幼き肩を震わせ何とも言えぬ叫び声を上げる。
目から溢れる血が、口から溢れる吐瀉物が重なり形を成していく。
少年から溢れる闇は周囲の全てを取り込んでいく。
少年の母も父も、少年が暮らしてきた家も。
その全てが過去のものとなり呑まれていく。
その中心で少年は一人。
泣き声とも笑い声とも言えない、奇怪な音を立てていた。
◾️◾️◾️
「……。久しぶりに見たな……。」
闇堂は汗にまみれたベッドを見つめながら震えた声で呟く。
「……これも異世界の影響なのか。若干やべぇな。どうしたもんかな。」
首筋を触りながら考えこむ。
「とりあえず天光に相談すっか。」
独り言を言っているうちに少し気が落ち着いたのか闇堂は立ち上がり部屋を出る。
「あ、おはようございます!」
ナディアの軽快な声が廊下に響く。
ナディアが闇堂の方に走ってくると同時に闇堂の様子に気付く。
「どうしたんですか⁈その汗。すぐにお風呂の準備をしますね。」
「あぁ、ありがとう。」
「熱とかはなさそうですけど何処か痛い部分などはありますか?」
「いや大丈夫。」
「それではお風呂の準備をしてきますね!カズト様はその間に汗を拭いて何か水分補給を!」
そう言うとナディアは凄まじい勢いで階段を降りていく。
その後を、まだ少し足元がふらつくのか頼りない足取りで闇堂が付いていく。
居間で闇堂が水を飲みつつナディアの作ってくれたおにぎりを食べている。
「まだ五時か。こんな朝から申し訳ないな。」
闇堂が独り言を呟きながら食事をしているとナディアから風呂の準備が出来たと連絡がくる。
闇堂が風呂場に向けて歩いていくとナディアが着替えなどを持って風呂場の前で待っている。
「シンドいようでしたらお背中お流ししますよ。」
ナディアがイタズラに微笑みながら言うと闇堂は。
「ははは。今日はいいかな。」
「ふふふ。ではこれお着替えです。いつでも流して欲しくなったら言ってくださいね。」
ナディアはそう言うと居間の方へ戻っていく。
知らなかったナディアの一面に微笑を浮かべながら闇堂は服を脱ぎ、浴室に入っていく。
「あ〜。やっぱり風呂はいいな。」
闇堂はささっとシャワーを浴びるとお湯に浸かりながら独り言を漏らす。
お湯に浸かること数十分。闇堂がそろそろ出るかと湯船に足をかけた時。
まだ疲れが残っていたことがあってか立ちくらみによって転倒してしまった。
――ガタンッ!
物が倒れた時特有の音が響く。その音を聞いたナディアが急いで風呂場にやってくる。
「失礼します!」
ナディアが風呂場に入るとそこには気を失って倒れてる闇堂の姿があった。
「大丈夫ですか⁈」
ナディアがすぐに駆け寄ると闇堂が薄っすらと目を開ける。
「……あぁ。朝から本当にすまない。」
ナディアの肩を借りて闇堂は風呂場を出る。
「すまない。嫌のものを見せた。」
闇堂が非常に申し訳なさそうに椅子に座りながら謝る。
「いえそれはいいんですけど。その……。お背中のって。」
ナディアがおずおずと闇堂の背中のタトゥーについて質問する。
「これは魔除け。正確には魔封じなのかな?」
闇堂が何でもないと言うように笑う。
「そうですか…」
ナディアはそう言うとそれ以上の詮索はやめる。
実際、闇堂の背中から腕と胸にかけては厳かなタトゥーが入っており目を惹くものだった。
「昔にちょっと有ってね。」
闇堂は少し悲しそうに笑いながらそう言うと上の服を羽織る。
「それよりいい匂いだね。」
「まだ作ってる最中ですけどね。」
「何か手伝えることとか有る?」
「そんな。お部屋で休んだ方が。」
「ちょっと何かやりたい気分でさ。」
「それじゃあ。」
―― 二人が一緒に朝食の支度を済ますと時計は七時を少し過ぎた頃だった。
「ただいま!」
リーシャの声が聞こえてくる。
「あ、帰ってきたみたいですね。はいはーい!」
リーシャを迎えにナディアが玄関の方へ走っていく。
「アンドウ様⁈もう起きていらっしゃったのですか。」
朝食の支度をする闇堂を見てリーシャが驚きの声をあげる。
「色々有ってね。」
闇堂は笑いながら答える。
「それじゃあ天光も起こしてこようかな。」
―― 四人が朝食を済ませて少し経った頃。来訪者を告げる音が響いた。
「やっほー。今日も来たよ。」
グワルフが二人に勉強会を開こうと言い出す。
明日の試験の対策だと言うので二人は付いていくことにした。
「勉強会って何するんですか?」
「魔術の勉強をやろうかなって。」
そう言うとグワルフは二人を馬車に乗せ自身の屋敷に向かう。
道中でグワルフが魔術の簡単な説明をしていく。
「魔術って言っても大きく分けて二つあってね。詠唱で魔力に形を与えるのと道具に魔力を宿す二つが有ってね。」
そう言うとグワルフが二人に手のひらを向ける。
『照らせ』
グワルフが言葉を発すると同時に手のひらが輝き出す。
「これが詠唱。魔術の基本だよ。詳しくは屋敷で教えるけどね。」
――そんなことをしているうちに馬事がグワルフの屋敷に着き二人はグワルフに連れられ中庭へ行く。
「それじゃあ詠唱の練習をしよっか。まずは腕を前に伸ばして手のひらを上に向けてみよう。そして光をイメージしながら何か光に関連した言葉を言うんだ。」
『照らせ!』
二人がグワルフの真似をして叫ぶ。
が光は起こらない。
「あれ?出ない。」
「前のガラス玉の時を思い出して。もっと手に集中するんだ。」
二人はグワルフに言われた通りにもう一度試す。
『照らせ!』
二人の手のひらが眩く輝きだす。
「うわっ⁈」
余りの光の強さに二人が思わず集中を切らすと光も消える。
グワルフがそんな二人に笑いながら喋りかける。
「第一段階は突破だね。次は光の強さの調節だ。」
そう言うとグワルフは空中に水槽の絵を描く。
「この水槽は君達の身体ね。詠唱って言うのは言って見れば魔力を外に出すための道を作る行為なんだよね。」
そう言いながらグワルフが水槽に管を書き足す。
「この管の大きさの調整が第二段階。コツは……。頑張ってイメージすることかな。」
グワルフの頼りないアドバイスを頼りに二人が詠唱を繰り返す。
始めは全く出来なかった二人だが数十分すると出来るようになりだした。
「よっしゃ!かなり分かってきた!」
「うんうん。上出来だね。」
魔力の調整に成功して喜ぶ二人を見てグワルフは満足げに首を縦に振る。
「魔力の放出、調整が出来たら最終段階。魔力の発現に移ろうか。」
グワルフの顔が突然真剣なものに変わる。
「発現は放出とは似てるけど全く違うものでね。その人が持つ魔力の属性を出す行為なんだ。」
そう言うとグワルフが二人を遠ざける。
『鷹よ翔け』
グワルフが詠唱をした瞬間。
放出段階とはまるで違う濃い魔力がグワルフの身体から溢れ出す。
魔力は熱を帯びて行き業火となってグワルフを包み込んで行く。
そんな中でグワルフが二人に言う。
「放出、調整はこの世界で生きるなら必須の技能。でも発現は違う。これはより専門的な技能だ。正直言って一日で身につくようなものじゃない。」
グワルフは自身を包んでいた炎を腕に集中させていく。
「今から僕が君達に攻撃をするから。そこで何かを掴んでみせてよ。」
そう言うとグワルフは二人に手を向ける。
突然のことに戸惑う二人は口々にグワルフへ向けて言葉を放つ。
がグワルフは構えを解こうとせず、二人も竜と向かい合った時と同じように構えに入っていた。
グワルフが炎を槍の形にして二人へと飛ばす。
槍が二人の間合いに入った瞬間。
二人の身体から魔力が吹き出し刀が槍を切り裂く。
「成功したみたいだね。良かった良かった。」
グワルフはいつもの調子で二人に話しかける。
一方二人は突発的に魔力を発現したからか刀で身体を支えてなんとか立っているような状態だった。
「いきなり過ぎる……。」
「……死んだらどうするつもりだったんですか。」
二人は思い思いの言葉をグワルフに投げかける。
がグワルフは上手くいったからいいじゃんという態度を取っていた。
「まぁ何はともあれ一度発現をして仕舞えば後は楽だからね。」
グワルフは二人に液体の入った瓶を渡す。
「飲んだら疲れが楽になるから飲むといいよ。」
二人が渡された液体を飲むと確かに体が楽になっていく。
「最高級品だし副作用もあるから乱用は出来ないけどね。そんなことよりも次で発現も終了してめでたく魔術訓練も終了だよ!」
グワルフが嬉しそうに二人にそう言うと二人の顔つきも真剣なものになる。
「最後は発現の鍵を作ることだよ。」
そう言うとグワルフは自身の手の指輪を二人に見せる。
「魔力の発現には詠唱と媒体が必要でね。例えば僕は詠唱が『鷹よ翔け』で媒体がこの指輪なんだけど。」
「詠唱と媒体。」
「そう詠唱と媒体。まぁそう難しく考えなくても大丈夫だよ。発現した時点で詠唱は分かってるはずだし媒体は自分の大切なものを選べばいいから。」
だったらと天光はネックレスを、闇堂はブレスレットを見せる。
「それじゃあそこを中心に魔力を爆ぜさせるイメージで詠唱をしてごらん。」
二人がそれぞれのアクセサリーを握りながら詠唱を唱える。
『行こう天狐』
天光が詠唱を唱えるとネックレスから雷にも似た魔力がほとばしる。
『喰らえよ夜叉』
闇堂が詠唱を唱えるとブレスレットから全てを染め行く闇が溢れ出す。
「集中して魔力を操ってごらん。」
グワルフの言葉を聞き二人が魔力を全身に纏わしたりする。
「完璧だよ!」
グワルフが拍手喝采をする。
と二人は魔力の発現を終える。
「これはもう二人とも卒業だね!あとは僕とひたすら模擬戦するだけだ!」
――結局二人はその日一日の食事以外の大半をグワルフとの模擬戦に費やしCランク試験に挑むのであった。
◾️◾️◾️
「出来上がったぜぇ!」
バラカスは大声で叫ぶと同時に二つの着物を掲げる。
「こいつは最高の出来だな!」
そう言うとバラカスはそれを弟子に預けてまた新しい仕事に取り掛かるのだった。
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