4話目
「起きてください!マスター!グワルフさんがお見えになってますよ!」
「……んぁ?グラコロ?なんだ、昼飯グラコロだったのか?良かったな。」
「違いますよ!グラコロじゃなくてグワルフ!領主のグワルフさんですよ!」
「あぁ、そういやなんか連絡きてたな。しゃあねーから顔出すか。」
◾️◾️◾️
「この少年二人が倒しちゃったから討伐隊の話も無くなっちゃいました!」
グワルフの一言にギルド内では大騒ぎが始まった。
「こんな子供が竜退治なんて出来るわけないでしょ!冗談キツいっすよ。」
「珍しいっすけどこのデブの言う通りですよ!せめてあと五歳上ならまだしも。」
始めてのギルドで突然話題の中心になった二人は当然大変な目にあっていて。
「いやほんと全然記憶になくて。」
「臭いだけじゃなくてうるさくなってきた……。マジ無理。」
二人とも怒涛の質問攻めに気圧され今にも倒れそうになっている。
そんな騒ぎの中。
「おいグワルフ!用事ってなんだ!」
雷鳴かと思うような怒声がギルドに響き渡った。
と同時に一気にギルドが静まり返る。
二人が怒声の発せられた方向を見るとそこには上裸で腕組みをする男が居た。
「おぉ、ビスター!相変わらず元気そうだな!寒く無いのか⁈」
グワルフが何故か張り合う様に声を張り上げる。
「この騒ぎ見るにそんな世間話をしに来た訳じゃねぇんだろ。要件済ませてさっさと帰れ。俺は忙しいんだ。」
ビスターと呼ばれた色黒の男が不機嫌そうに声を荒げながら歩いてくる。
「さっきまで寝てたじゃないですか、マスター。というか服を着てください。」
その後ろを少女が服を持って追いかけてくる。
「君達は相変わらずだね。今日はこの二人の入会の手続きをしに来たんだけど今大丈夫?」
「連絡貰ってましたから!今すぐにでも出来ますよ!」
「それじゃあビスも不機嫌そうだし手早く済ませてもらおっか。」
「ランクも事前の話のままで大丈夫ですか?その、失礼なんですけどCはちょっとまだ早くないですか?」
少女が不安げに二人の方を見る。
少女の目に滲む感情に不吉な予感を感じた二人は少女に聞く。
「あの〜。ランクってなんですか?」
「俺たちギルドについてあまり詳しくなくて。」
その言葉に少女は驚愕する。
「えぇ、ランクも知らないんですか⁈なのにCランクに⁈」
少女がグワルフに詰め寄る。
「どういつつもりですか、グワルフさん⁈このお二人に死んで欲しいんですか。」
「二人はちょっと変わっててね。でも実力は保証するよ。」
普段のグワルフの冗談混じりな喋り方と似ているが、しかし凛とした言葉は少女を納得させたらしく。
「分かりました。グワルフさんがそういうなら。」
少女は空中に図を描いていく。
「ここ〈セイル・アウェイ〉では冒険者の皆さんにランク付けをさせていただいてます。ランクはAからEの5段階を基本としていて、ランク毎に受けられる依頼が変わります。」
少女がグワルフを指差すとグワルフの手の甲が光りだす。
「グワルフさんの手の甲の光。あれがギルドの一員としての印です。」
二人がグワルフの手の甲を見に行くと金の紋様が浮かび上がっている。
「グワルフさんはAの上。最高位のSランクですから印は金色です。」
「凄いでしょ。尊敬してくれてもいいよ。」
グワルフが自慢げに光を見せびらかすとギルド内が湧き上がる。
「あの人は置いといて。今からお二人に受けていただくのはCランク。基本的には冒険者として五年以上生きてきた人が挑むランクです。」
「え、それは僕らには難しくないですか。」
天光が不安げにグワルフを見ると。
「大丈夫だって。僕が言うんだから間違いないよ。」
グワルフが笑顔で答える。
「まぁ俺ら二人なら最悪でも死にはしないでしょ。」
闇堂もなぜか気楽に答える。
「はぁ……。それでそのCランクの試験というのは。」
天光が溜息をつきながら少女に聞く。
「基本的にランクはその人の冒険者としての実績での判断になりますので、お二人にはCランク相当の魔物の討伐をしていただくことになります。」
少女はそう言いながらバックから巻紙を取り出す。
「日時や詳しい説明はその紙に書いてますので。」
少女は巻紙を渡すと手を振って空中に描いた図を消す。
「それではまた後日。」
――時は少し経ち二人はグワルフと一緒に町を探索していた。
「明日の試験。なんかめちゃくちゃ不穏だったんすけど俺ら五体満足にいれますかね?」
「二本以上手足失ったら残りも捨てて〈五体不満足〉って小説書こうぜ。」
「異世界だからって不謹慎過ぎるよ。」
二人が下らない話をしながら歩いていく一歩後ろをグワルフが歩いている。
「そろそろ大通りが見えてくるよ。」
グワルフの言葉に二人が心を踊らせる。
なぜなら二人は初の異世界の繁華街に向かっているところだからである。
「異世界の服に家具、食器に調理道具。今から楽しみでしょうがないね!」
天光は先までの明日への不安など忘れて異世界の商品に心を踊らせている。
「異世界での食べ歩き。どんな美味いものに出会えるか楽しま過ぎる。」
闇堂も晩飯前だというのに食べ歩きに心を踊らせている。
「今日は僕が全部奢っちゃうから好きなだけ買ってくれていいよ〜。」
グワルフの言葉に二人は喜びの声を上げる。
「代わりに最後に何軒か僕の言う店にも付いてきてもらうよ。」
『もちろん!』
二人は元気に返事をすると繁華街に駆け出していった。
――二人がアルバチアで最も大きな繁華街を存分に味わった後。
「二人ともやりたいことは終わったかい?」
グワルフがヘトヘトになりながら二人に聞くと二人は満面の笑みで返事を返す。
「それは良かった。それじゃあ今度は僕の番だね。」
グワルフはそう言うと二人を少し離れた場所に連れて行く。
「とりあえず君たちの服と刀の鑑定をしないとね。」
グワルフはそう言うといかにも老舗といった見た目の武器屋に入っていく。
二人がその後ろをついて入っていくと。
「ゔぉぉぉぃ!久しぶりだなぁ!グワルフ!」
ギルドに居たビスターとはまた違った、濁った怒声が飛んでくる。
「そいつらがお前の言ってた面白いガキか。どれこっちに来てみろ!」
二人は言われた通りに店の奥へ行く。
男は二人を少しの間見つめると。
「ぶぁっはっは。コイツァ確かにおもしれぇ!おい、服脱げ。」
男は特徴的な笑い声を上げて机を叩く。そして二人が脱いだ上下の服を受け取ると代わりの服を投げつける。
そして二人の服を調べだす。
「なんだぁ、この服は。テメェらどこで手に入れた。」
「多分タイか韓国に二人で旅行に行った時に買いました。」
「ぶぁっはっは。聞いたことねぇ土地だな。流石異世界だ。こっちじゃ考えらんねぇレベルの加護が付いてらぁ。」
男は笑いながら服を更に調べる。
「デザインは死ぬほどダサいが加護の内容は半端じゃねぇ。おい、テメェらの身につけてるアクセサリーも渡せ。」
天光とはネックレスを、闇堂はブレスレットを渡す。
「なんだぁ、若い癖に全然アクセサリー付けてねぇんだな。ピアスとかしろよ。」
男はそう言いながら二人のアクセサリーを調べる。
「これまた中々な加護が付いてんなぁ。これも買ったのか。」
「互いに誕生日のプレゼントとして。」
「ならこっちは見た目は変えちゃいけねぇなぁ。」
そう言うと二人に投げ返す。
「こっちの服は変えちまっても大丈夫か?」
「見た目ですか?カッコよくなるなら全然。」
「俺も。なんかもっと異世界って感じになるなら。」
「そうかそうか。じゃあ次は刀だ。見せてみろ。」
二人が言われた通りに刀を渡すと男は受け取るか否や調べだす。
「こりゃまたすげぇな。目立った加護こそねぇが全てが最高クラスだ。大業物だぜ、これは。」
男が二人に刀を返す。
「おっしゃ、その刀に合わせたイケイケな着物をあしらえてやらぁ。明後日の朝八時くらいに取りにきな。弟子にはバラカスさんに頼んでた品をもらいに来たって言えば分かるだろうからよ。」
男はそういうと勝手に話を切って店の奥に戻ってしまった。
二人は店を出ると。
「なんかこの凄い変わった人でしたね。」
「てか弟子ってなんだよ。アイツが渡すんじゃねぇの。」
と、口々にバラカスについての感想を述べ出す。
「腕は確かなんだけど何分変わっててね。でも鍛冶屋としての腕は世界最高峰だから依頼の数は凄いんだよね。こんな風に店に顔を出すことも珍しいんだよ。」
グワルフが笑いながらバラカスの説明をする。
「生まれはヤハーンの方でね。十を過ぎたくらいで家を出てからはずっと傭兵として暮らしてたんだよ。そして三十過ぎたくらいから鍛冶屋を始めて、気づけばアルバチアは愚か人類を超えて全種族で最高峰になってたっていうね。」
「え、すげぇ。」
闇堂が思わず声に漏らす。
「そういえば僕達の服を作り変えるって。」
「そう、その技術を持ってるのは世界でもあの人の他には一人しか居なくてね。だからあの人は世界最高峰の鍛冶屋なのさ。」
『すげぇ〜。』
二人は同時に声を上げる。
「あの人に任せてれば服は絶対に大丈夫さ。それよりもう遅いし家に帰ろうか。」
――グワルフと二人は馬車に揺られながら二人の新たな家へと向かう。
「二人にはいい家を用意したからね。きっと見たらビックリするよ。」
「うわぁ。今から楽しみで仕方ないです。」
天光が新たな家に期待を膨らます。
「大通りからもかなり近いからね。あと少ししたら見えてくるはずだよ。」
「立地がいいのは凄い嬉しいな。」
闇堂も新しい家に好印象を抱く。
「もう着くよ。」
グワルフがそう言って少しすると二つの人影が見えてきた。
『おかえりなさいませ。』
リーシャとナディアが家の前で待っていた。
「もうすぐ帰ると連絡がありましたので。お風呂と一応の簡単な料理の準備ができていますが。」
「ありがとう。とりあえずはお風呂に入ろっかな。」
「俺も。飯は寝室に運んでてよ。」
「了解致しました。」
そんな四人を見てグワルフが笑う。
「うんうん。大丈夫そうだね。それじゃあ僕は今日は帰るよ。じゃあね!」
グワルフはそう言うと馬車に乗って帰っていった。
――二人がお湯に浸かりながら話している。
「やー疲れたね。色々ありすぎでしょ。明日も何かやりたそうな顔してたし。」
「まぁでもグワルフさん面白いし全然いいでしょ。それに俺的には刺激が有って楽しいよ。」
「あはは。それは言えてる。」
「よな。てか風呂上がったら何するよ。」
「僕は寝るかな。流石に疲れたし。」
「マジかー。俺も飯食ったら寝よかな。」
「相変わらず凄い食欲だね。」
「食うのは楽しいからな。じゃあそろそろ風呂上がっか。」
こうして二人の長い異世界生活二日目は終わりを迎えるのであった。
◾️◾️◾️
「四人の来訪者が世界を救う……か。ツバサとカズト以外の二人も早く探さなきゃね。」
グワルフは馬車の中で一人呟く。
「まぁアルバチア領じゃなかったらどうしようもないし、そんなことより明日のことを考えなきゃね。」
グワルフはそう言うと笑顔で明日の予定を立て始めるのだった。
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