3話目
「ん〜。ねぇ君たちってこの世界の出身?」
あまりに突然の、それでいて深く本質を見抜いた言葉に二人は驚愕を隠せなかった。
「その顔を見るにホントに異世界から来たみたいだね。僕たちの王と同じで。」
「……王と同じ?今貴方達の王も異世界出身だと言いましたか⁈」
余りの衝撃に天光の声が裏返る。
「なぁアンタ!その王様と会うことは出来るのか⁈」
闇堂の声にもやはり驚愕の色が深く混じる。
「いやちょっと待って。落ち着いて。」
余りの二人の勢いに押されて焦りながら止める。
「まだ君たちの処罰も決めてないし。そもそも互いの名前も知らないでしょ、今。」
その言葉が二人に自分達が置かれている状況を再確認させる。
「やっぱり僕たちって牢屋に入れられて尋問されたりするんですかね。」
「いやそんなことはしないよ。ただ君たちがこっちの世界でどう生きるかは決めなきゃね。」
「俺たち二人とも働いた経験とか無いんですけど……」
「大丈夫。そのへんもきちんと配慮するから。とりあえず今後のことを考えるのにも一回僕の城に向かおうか。」
そう言うと領主は横の部屋から衛兵を呼んだ。
「この二人を城に連れて行くから手錠を外してあげてくれるかい?」
「外してしまっても良いのですか⁈竜殺しですよ?」
「大丈夫。」
領主の言葉のに従い衛兵が二人の手錠を外す。
「それじゃあ行こっか。」
領主に連れられ二人は馬車に乗り込んだ。
――馬車に乗って幾ばくかの時間が経った頃。
「僕の名前は天光翼って言います。」
「俺の名前は闇堂一寿。」
「アマミツ・ツバサとアンドウ・カズト。うん、覚えたよ。僕の名前はグワルフ。アルバチアの領主さ。」
「そのアルバチアと言うのは都市の名前ですか?」
「そっか。君たちはこっちの世界のことを知らないよね。まだ時間はあるしちょっと説明しよっかな。」
――こうして二人はこの世界の歴史を、かつての大戦から始まり幾つもの争いを経て出来た現在の情勢を学んだ。
今現在世界には八の種族がそれぞれで国を作って暮らしており、人類の国は九の大都市と周辺の村などで構成されていることなどを。
「……お、ちょうどいい感じに町が見えてきたね。じゃあ続きは城で話そうか。」
二人は言われるがままに城に入っていき、二階の部屋に入る。
「さてと、それじゃあいきなりだけど本題に入ろうか。これから君達がこの世界で生きていく上で必要なことを教え、そして今後を決めよう。」
そういうとグワルフは様々な道具を持ってきた。
「とりあえずこの世界で生きていくために必須なのが金と魔力だ。金は君達が稼げるようになるまでは面倒を見るつもりだから大丈夫だとして、まず君達には魔力について学んでもらう必要がある。」
「魔力……ですか?」
「そう、魔力。と言っても別にそんな難しいものじゃないよ。大抵の魔具には補助具がついてるからね。」
グワルフが二人にガラス玉を投げ渡す。
「それを手のひらに乗せて深呼吸しながら力を入れてみて。そしたら君達の魔力の質と強さが分かるから。」
「力を入れる?こんな感じか?」
「こうかな?」
二人が全身に力を入れる。
「いいねいいね。そのまま深呼吸して意識を手のひらに集中するんだ。」
「――!」
二人の持つガラス玉の中に変化が起こる。
天光の持つ玉には眩い輝きが、闇堂の持つ玉には底なしの闇が沸き起こった。
「おぉ、これはまた珍しいね。光と闇か。面白いね。」
グワルフは笑いながらそう言いつつ自身もガラス玉を一つ持った。
「魔力には種類があってね。基本的な四つ、火と水と風と地。それに加えて少し特異な二つ、光と闇があるんだよ。」
グワルフが話しながらガラス玉に魔力を通すと中に業火が生まれた。
「このガラス玉は持つ人の魔力の質を表してくれる優れものでね。それに反応の激しさで魔力の強さも分かるのさ。」
「俺たちの魔力の強さはどれくらいなんですかね?」
「初めてで反応をこれだけの時間保ててることも、反応の強さも素晴らしいよ。」
「僕たち割りかし優秀なんじゃない。」
「全然疲れてないしな。」
「まぁ竜を倒した訳だしね。あ、ガラス玉はそろそろ置いても大丈夫だよ。」
グワルフが新しく何かが書かれた紙を取り出す。
「魔力について分かったなら次は仕事についてだね。何かしたい仕事ってあるかい?もしくは仕事に出来そうな特技。」
「俺は両方とも特には無いですね。」
「僕も無いかな。」
「じゃあギルドに行くか練兵場かな。」
「練兵って兵隊になるってことですよね。」
「正解。衣食住はアルバチアが、つまりは僕が保証するし良い仕事だとは思うよ。若干危ないけど。」
「ギルドと言うのは?」
「冒険者の組合みたいなものかな。簡単な依頼から骨のある依頼まで多種多様だよ。ギルド自体もいくつもあるしね。生活の保障は無いけど楽しくはあるかもね。」
「うわ、どっちにするべきなんだろ。」
「俺はギルドかな。兵隊とかってのはちょっと渋い。」
「でも生活が安定しないかもしれないよ。」
「いやまぁなんとかなるでしょ。」
「……まぁ闇堂がそう言うなら。」
「うんうん、若さだね。それじゃあ僕の知り合いのギルドに連絡を入れよっかな。それともギルドも自分で見つけるかい?」
「あ〜まだこっちのことがよく分からないので僕的には取ってもらえると。」
「俺も取ってもらえると嬉しいです。」
「了解、了解。それじゃあひと段落したしご飯にしよっか。」
そう言うとグワルフは部屋から出ていった。
「ん〜昨日から波乱続きでヤバイね。」
「そんなことより俺は飯が楽しみで仕方ないね。」
「呑気だね〜。でもホントにギルドで大丈夫なの?刀だってホントに使えるか分からないのに。」
「なんとかなるっしょ。それより折角面倒な世界から解放されたんだし楽しまなきゃ損でしょ。」
「面倒な世界ね。背中の方は大丈夫なの?」
「あぁ、全然問題ないよ。それにもしヤバくなってもお前がなんとかしてくれるっしょ。」
「いや道具無いけど。」
「あ、ヤバくね。まぁなるようになるでしょ、知らんけど。」
――二人が色々と今後のことなどを話すこと数十分。
「ご飯の準備が出来たよ!下においでよー!」
グワルフの明るい声が壁のパイプから響いてくる。
「お、飯が出来たみたいだし早く行こうぜ。」
「いやそんな急がなくてもご飯は逃げないでしょ。」
二人が駆け足で階段を下っていくと豪華な料理が机いっぱいに並んでいた。
『凄っ。』
思わず二人の口から声が漏れ出る。
「さぁさぁ座って。熱いうちに食べよう。」
グワルフの声に合わせてメイドが二人を席に案内する。
「それじゃあ手を合わせてせーのっ。」
『頂きまーす!』
異世界転移をしてから二人は何も口にしていなかったため凄まじい勢いで口にしていく。
「いい食べっぷりだね〜。」
グワルフはそんな二人を楽しそうに見つめている。
「そういえばギルドへの連絡も取れたし家も一つ取っておいたよ。」
「ありがとうございます。」
「あと君たち二人だけだと少し心配だから僕の使用人も二人連れていってもらうね。」
「え、そんないいんですか?」
「いいよいいよ。さっきから君達の隣にいる二人についていってもらうね。カズトに近い子がリーシャでツバサに近い子がナディア、二人ともいい子だからよろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
二人が挨拶をするとメイド達も挨拶を返す。
「今日からお二方のお世話をさせて頂きます。リーシャとナディアです。まだこの仕事についたばかりですので至らぬ点も有るかと思いますがよろしくお願いします。」
――こうして二人はグワルフやそのメイド達と談笑をしながら食事を済ませ。
「本当にご馳走になりました。」
「全然気にしなくていいよ。それより今日中にギルドへの登録も済ましに行っちゃおっか。」
『はい!』
二人は腹が膨れたこともあってか非常に元気よく返事をする。
「こっちの準備はもう出来てるし、その様子だと君達も準備は出来てそうだね。」
グワルフに連れられ二人はまた馬車に乗りこむ。
「あれリーシャさんとナディアさんは。」
「二人には君達がギルドに登録をしてる間に家の準備をね。」
「なるほど。いやでも本当にお世話になり過ぎで申し訳ないです。」
「そんなの全然気にしなくていいよ。君達のおかげで竜のための討伐隊を組む必要も無くなったんだし。」
「あーあの竜めちゃくちゃに暴れてましたもんね。」
「全く持って困ったもんだよ。彼らは最下位だから言葉も通じないし。」
「……最下位?あれで?」
二人は竜の圧を思い出して唾を飲む。
「あれは龍種の最下位。魔力も薄いし知性もない。まぁ肉体の強さだけは龍種って感じだけどね。」
「あれが最下位……」
「龍種は現存する種族の中でも最強格だからね〜。中でも龍種の最上位は生命としての格が違うよ。」
グワルフが笑いながら言う言葉に〈復讐〉という言葉を思い出し震える二人。
そんな二人の気持ちを察したのかグワルフは。
「大丈夫大丈夫。龍種はみんな友好的だし最下位の竜なんて気にもとめてないだろうから。」
その言葉に安堵をする二人。
「血が近いだけで全然別の生き物だしね。人と猿くらい違うよ。」
――そんな話をしているうちにギルドが見えてくる。
「ギルドが見えきたよ。ほら君達も見てみなよ。」
グワルフに半ば無理やり〈ギルド〉と呼ばれる建物を見せられる二人。
煉瓦造りの荘厳な雰囲気を醸し出す建物である。
「あれが〈ギルド・セイルアウェイ〉だよ。とりあえず冒険者登録だけ済ましに行こっか。」
二人はグワルフに連れられギルドに入っていく。
「グワルフさんじゃねーか!なぁ竜の討伐はいつにするんだ⁈」
「あ、おいデブ!てめ、何一人で先走ってんだ。グワルフさん!こんなアホより絶対に俺のが役にたちますよ!」
「そんなことより今日はメイドちゃん達はいねーの?」
グワルフの姿を見た人たちが周りを囲んでいく。
「グワルフさんってば凄い人気ですね。」
「俺こういう密集した臭い無理なんだけど……。無理だ、吐きそう。」
「これでも領主だからね。」
グワルフが笑顔で周りの相手をしていると。
「ん、グワルフさん。その後ろの二人は誰だい。」
「やっと気づいてくれた。そう、竜討伐の話で一つ伝えなきゃいけないことがあってね。」
なんだなんだと周囲がざわめき出す。
グワルフの放った一言にギルドの人間は大半が絶句し、二人は胃を痛めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます