第2話

――遥か昔。

世界には千を超える種族がいた。

それぞれが特異な言語と文化を持って暮らしていた。

そのうち、集落が大きくなるにつれて種族間での争いが起こるようになっていった。

土地を巡っての争いは徐々に熱を帯びていき、最終的には種族の存亡をかけた総力戦にまで至るようになった。

その争いは勢いを増し続け多くの種族を滅ぼし、土地を削った。

ある種族は淘汰され、またある種族は他の種族に飲み込まれ、千年の争いの末に千の種族はたったの八種にまで減っていた。

そんな中で残った八の種族の全員がこう思っていた。

「いつまで争いが続くのか」と。

「全ての種族が生きるためだけに全てを投げ打って争う意味はまだあるのだろうか」と。

八種族くらいなら大地は受け入れることは出来ると、互いに土地を分け合ったとしても全員が生きることは可能だと分かっていたのに。

どの種族も振り上げた拳を下すことが出来なかった。

最終的に全種族が自分達の持つ全てを賭した決戦が行われた。

決戦は計り知れないほど多くの戦死者を出し、そこでやっと全種族は争いを止めた。

長たちは土地を分け合い、そして国を築きあげた。


――争いが終わっておよそ百年。

世界は表面上は平穏であった。


◾️◾️◾️


「いや俺らは何もしてませんって!」


「気づいたらあそこで倒れてたんですよ!何も悪いことなんてしてません!」


少年二人が、馬者に乗せられた状態で自身の潔白を叫んでいる。


「黙れ!貴様らの刀についている血と何人もの死体。それに竜の死骸。明らかに怪しいだろ!」


監視役が声を荒げる。


「いや確かに竜は斬りましたけど!他の人たちに関しては俺らのせいじゃ無いですよ!」


「竜を斬っているのがおかしいんだ!」


「そりゃそうでしょ!あんなの見たの産まれて初めてですよ!」


闇堂と監視役が叫び合う隣で天光が御者に話しかける。


「僕たちって今から何処に運ばれるんですかね〜」


「とりあえずは警備隊に渡すためにアルバチアの壁の前までだな。」


「壁というのは?」


「そりゃ城壁だよ。どこの都市だって基本は囲まれてんだろ。え、アンタ見たことないのかい?」


「あ、いや実物は初めてですが話には。有名なところで言うとカルカソンヌとかと同じやつですよね。」


「カルカソンヌ?聞いたことも無いな。どこにあるんだい?」


「フランスって言う名前の国に。」


「フランス?聞いたことねぇなぁ。アンタの生まれもそのフランスって場所なのかい?」


「母が。自分は日本育ちです。」


「ニホン?また知らない土地だな。刀を持ってる辺りでヤハーンの方かと思ってたよ。」


「ヤハーンという場所にも刀の文化があるんですね。一度行ってみたいな。」


「ヤハーンはいい場所だぞ。一度行ってみたらいい。」


「はい!いつか必ず行きます。」


天光が御者と談笑をしているうちに馬車は壁に近づいていた。


「お、ちょうど壁が見えてきたぞ。何があったか知らんが君はきっと悪い子ではなさそうだし、早く誤解を解いてこい。」


「ありがとうございます!」


二人は馬車から降ろされ監視役に連れられて門に向かう。


「そいつらは?」


衛兵が気だるそうに監視役に聞く。


「コイツらが例の竜殺しだ。」


「こんなガキが?そりゃお前の勘違いだろ。」


「だが実際にコイツらは竜の血の付いた刀を持って倒れていたのだ。」


「マジかよ。そいつは流石に無視出来ねーな。」


そう言って衛兵が二人を小屋の中に入れる。

監視役だった男は門の方へと歩いていった。


「お前ら、マジで竜を斬ったのか?」


衛兵が笑いながら聞く。


「まぁ一応。」


「マジかよ。そいつはすげぇな。本来なら金貨大量だ。」


衛兵が更に大きな声で笑いながら小屋の扉を閉める。

と同時に衛兵の雰囲気が変わる。


「で、お前らどこ出身なんだ?」


衛兵が真剣な眼差しで問いただす。


「日本。」


「ニホン?どっかで聞いたな。まぁいい。その刀はどこで手に入れた?」


「気づいたら俺たちの手元にあった。」


「ふざけてんのか?」


「いや全くふざけてなんて居ないんです。本当に僕たちは何も知らなくて。気づいたらアソコに刀と一緒に倒れてたんです。」


「竜を見た記憶はあるのか?」


「一応。竜が見えたから刀持って逃げようとしたら急に身体が構えだして。気づいたら竜が死んでた。」


衛兵が頭を抱える。


「つまりなんだ。気づいたら刀と一緒に野原に居て、そんでもって不思議な力に操られて竜を斬ったと。そう言いたいのか?……ふざけるなよ!」


男が机を強く叩く。


「お前らが何を隠してるのか知らねーが言うなら今のうちだぞ。明日には領主様がお前らを見にくる。あの人は怖いぞ。」


「そんなこと言われても俺たちは本当に何も隠したりしてないんですけどね。」


「……今日はもういい。こっちに来い。」


衛兵が二人を地下に連れて行く。


「今日はここで寝てろ。」


二人は地下牢に入れられた。


「ねぇ闇堂。なんであんな風に逆撫でするようなことを言ったの?」


「なんかムカついたから。」


「いやムカつくのは分かるけどさ、それは良くないでしょ。」


「……悪りぃ。」


「まぁいいよ。で、これからどうする?」


「……。」


二人の間に静寂が満ちる。

気づけば知らない世界に飛ばされていたのだ。

こうなるのは当然のことだろう。

少しの間、互いに黙っていたところで空気に耐えれなくなったのか天光が口を開く。


「昨日の竜、覚えてる?」


「……あぁ。まるでゲームから飛び出てきたみたいな見た目だったな。」


「じゃあそんな化け物と向き合った時のことは?」


「覚えてる。逃げようとしたのに身体が言うことを聞かなかったことも、あの高揚感も。」


「なんだったんだろね、あれ。」


「分かんねーけど、でもああやってムカつく全部を斬れたら楽しいだろうとは思う。」


「好戦的だね〜。明日もヤバくなった刀奪って暴れて逃げるつもり?」


「出来そうならそれも有りだな。」


「ハハハッ。」


会話してる間にいつものペースを取り戻していく二人。


「てかあの兵隊みたいな奴の口臭くね?」

「分かる〜。てかいい歳こいてこんな場所で一人とか絶対無能でしょ。」


そんなたわいない話をすること数十分。段々と眠気が二人を包んで行き、気づけば二人は深い眠りに落ちていた。


「……きろ。起きろ!おい!」


衛兵の怒鳴り声で二人は起こされる。


「起きたか。あと一時間もしないうちに領主様がいらっしゃる。今のうちに辞世の句でも考えとくんだな。」


そう言うと衛兵はまたすぐに何処かへ行った。


「ん〜。おはよ。」


「おはよ。お前昨日なんか夢見た?」


「別に。闇堂はなんか見たの?」


「ん。まぁしょうもない夢だけどな。日高と伊月の夢を見た。」


「またなんで退学した二人なの。確かにしょうもないね〜。」


下らない話で笑いながらストレッチなどをして時間を過ごす二人。

そんな風に過ごすこと一時間くらい経ったころだろうか。


「領主様がお着きになった。付いて来い。」


衛兵に連れられて上に行くと如何にも高貴そうな男が居た。

短めの赤い髪に金色の目。身長は180センチほどだろうか。腰には二振りの剣を持っており、着ている鎧はベースの赤に金の刺繍が施されている。


「この二人が件の竜殺しかい?」


「はい!昨夜の九時頃にカダル山の方から運ばれてきました!」


「報告ありがとう。それと少し悪いんだけど席を外して貰えるかな。この二人と少し話しをしてみたいんだ。」


「了解しました!」


そういうと衛兵は足早に部屋を出て行く。


「僕の名前は


「で、君たちは何をしに来たんだい?竜殺し?」


「いえ違います。というか僕たちは自分の意思で来たわけじゃなくて。」


「どういう意味?」


「なんと言いますか、その、ホントに気づいたら平原に倒れてて。」


「ふーん。刀は何処で手に入れたの?」


「目を覚ました時に横に落ちてました。」


「ん〜。ねぇ君たちってこの世界の出身?」


その言葉は二人を大いに驚かした。

そしてその次の言葉はより大きく二人を驚かせるものだった

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