第3話このチャンスを生かさないで、どうすんの~!

暗がりの森、レベル40以上ある私とジーナさんがいるし、しっかりねむちゃんをフォローすれば、問題なくエリアボスのポイズンドラゴンは倒せると思う。


「確か聖属性と火に弱いんだよね。あ、今の内にゲットしたルルナを呼び出そうよ、みゃーちゃん。」


「うん。あ、でもまだレベル1だから、フィオちゃんの後ろね。」


ジーナさんが早速反応する。

「えっ?!ちょっとみゃーちゃん、賢者ルルナ当てたの?」


「実は今日学校で、フィオちゃんのお呪(まじ)いみたいなのをやってもらって、そしたら引き当てられたんですよ。」


ちょっと得意げにねむちゃんは話し出す。


「てへへ。お呪(まじ)ないというか、ちょっとした魔法と言うか。」


返って来たジーナさんの反応は、淡白なものだった。

「ふ〜ん」

少し不満気にねむちゃん、あ、フィオちゃんで良いか、フィオちゃんは答えた。

「あ、信じてませんね、ジーナさん。」


「まぁ、流石にね。」


「じゃあじゃあ、みゃーちゃんの愛(いと)しの彼と、近くこのゲーム内で会えるよう、私の魔法掛けちゃいますね。」


突然の言葉に、私は動揺する。

「ちょっと!フィオちゃん何言い出すの?」


するとフィオちゃんは、分かりやすくする為にと、パーティチャットを始めた。

ボイスチャットだと、私の一生懸命さが伝わらないからねと前置きして。


(まぁまぁ、そう慌てずに。本当分かりやすいなみゃーちゃんは。任せといてよ!

そーれ!ルリルラリルレル〜みゃーちゃんの愛しの彼よ、みゃーちゃんの前に引き寄せたまえ〜!

‹‹\(´ω` )/›› ‹‹\(  ´)/›› ‹‹\( ´ω`)/››〜〜)


ボイスチャットに戻り、微妙な沈黙が流れる。


「………………」

「………………」


「はいそこ!同時に微妙な沈黙と、それと顔は見えないけど、可哀想な子を見るような目禁止!」


「いや、だって魔法ってね……」


「ね..フィオちゃん。学校で唱えた時と、微妙に違わない?」


「細かい事は気にしないの!それと今私のリアルの名前言いそうになったでしょ!白(しら)けるから禁止だからね!」


あ、白けるから禁止なんだ。と、それはともかく。そろそろ敵が出るエリアだ。


早速ポイズンスライム2匹と、ゾンビが3体、それにボーンナイトが1体現れた。

ジーナさんが、背中に装備しているライフル銃を取り出す。

ジーナさんの職業はガンナー(砲兵)だ。銃を扱うエキスパート。


「昔はコイツらに、結構苦戦したんだけど、ファイアーバレットで簡単に倒せるようになったから、楽ちん楽ちん!」


銃を連射するジーナさん。


「援護します!フィオちゃん、ファイアーかホーリー(聖)系の魔法お願い!ルルナは今使える魔法は…ホーリーアローでボーンナイトを攻撃!」


「OK!任せといて!ファイアーグレイブ!」


私は剣に火属性を与えるフレイムブレイドを唱え、ジーナさんの前に出る、それからポイズンスライムに剣を振り下ろした!


フィオちゃんの魔法はゾンビに命中!ジーナさんは更にゾンビに向けて銃を連射、流石にレベル差があるせいか、アッサリ倒せる——


「お、やっぱ効いてる効いてる!これはレベルアップかなり期待出来そうだね、みゃーちゃん!」


「フィオちゃん、ボーンナイト残ってる!」


「オケ、任せて。」


戦闘終了のBGMが流れた。

ジーナさんが反応する。

「ふー、流石に苦戦はしないか。頑張ったねフィオちゃん。リザルトはどうかな?」


リザルトとは戦闘結果の事で、この場合は経験値やモンスターが落としたアイテムにゴールドの事を言うの。


パーパラパパーパラパラー、ファファファー!

「やったよみゃーちゃん!ジーナさん!私レベルが28になった。ありがとう!」


「今倒したボーンナイトってレベルが31だったかな?良かったね。あ、ルルナはレベル15になったよ。」


「ありがとうございます。この調子なら、ここでレベル30まで鍛えられそうですね。アイテムは……」

リザルト画面が表示される。

(経験値3650、アイテム(ボーンアックス、ポイズンリング×2、毒消し3、)6400ゴールド獲得。)


「ふむふむ、ポイズンリングは持ってるし、ボーンアックスは私装備出来ないから、要らないかな?」


「あ、私もです。フィオちゃんは?」


「ポイズンリングないから貰(もら)います。毒消しは分けるとして、斧は要らないです。」


「りよーかい。じゃあ武器屋にアックスは売ろうよ。さぁ、ドンドン行こー!」


ジーナさんを先頭に、私達は暗がりの森を突き進んだ。

それから20分くらい経っただろうか?私とジーナさんは、それぞれレベルが43に44フィオちゃんは33になってた。ルルナは30。良い感じだよね。


暗がりの森を進み、そろそろポイズンドラゴンの居る最深部、祭壇が見えてくる頃なんだけど……。

ここで突然オープンチャンネルで男の人のボイチャが聞こえてくる。


「マジかよ!せっかくここまで来たのに…」


あれ?聞き覚えのある声のような?


「あー、これは興奮してオープンチャンネルにしちゃってるね。かなりヤバイ状況かも。みゃーちゃん、フィオちゃん、助けてあげようか?」


「ジーナさんが良いなら、私も行きます。」


「みゃーちゃんが行くなら、私も(笑)」


「OK、久しぶりに正義の味方やってみますか(笑)」


「はい!」

「はーい!」


私達は祭壇に向けてダッシュした。

そこには、全身からドス黒い煙を撒き散らす、巨大な黒い骨だけのドラゴンが、アンドロイドと思われるプレイヤーキャラに、巨大な右の鉤爪(かぎつめ)を振り下ろそうとしていた。


「マジかよー!」

アンドロイドのプレイヤーが叫んだ瞬間、ルルナとフィオちゃんの魔法が放(はな)たれる。


(ホーリーアロー!)

「ホーリーグレイブ!」

ポイズンドラゴンに魔法が命中し、瞬間アンドロイドが振り向く。


「えっ!?誰だ?」


ジーナさんが突っ込む。

「君!私達が引き受けるから、ちょっと下がってて!」


「助かった〜。もうHPギリギリで、ありがとうございます!」


あ、やっぱりこの声。いや、まさか、でも拾ったストラップのアンドロイドと同じだし、うーん。ともかくドラゴン倒さないと。


ジーナさんは聖属性の弾丸、ホーリーバレットを撃ち出す。私は少し離れて、ポイズンドラゴンの吐き出す毒の息を防ぐ為に、マジックバリアーの魔法を唱えた。


フィオちゃんはルルナと一緒に援護している。

「ジーナさん、ポイズンドラゴンは一気に必殺ゲージを溜めて、カオスブレスを使うから。」


「分かってるから大丈夫だよ。ルルナにシータの祈りを指示した方が良いかも。」


そうだった。ルルナを連れて来たのは、カオスブレス対策だった。

これをまともに受けると、毒、麻痺、石化、混乱、呪いと、状態異常のフルコース。

この暗がりの森が、レベルの割に難関なのはこのカオスブレスのせいだ。


「ルルナシータの祈りをお願い!」


ルルナはその場で祈る。

(承知しました。聖女神シータよ、悪しき者より我等を護りたまえ。悪しき者の力を封じたまえ。)


私達を眩(まばゆ).い光が包み、ポイズンドラゴンは特殊技を使えなくなった。


「よーし、さっき覚えた必殺技メガバーストで、一気にHP削ってやるからね!」


フィオちゃんが魔法を唱える。

私も援護しないと。


(グガー!グオングオン。ガーー)


ポイズンドラゴンは技を封じられて、鉤爪(かぎつめ)と尻尾を振ります。下手に近ずいたりしなければ倒せる!


「これでも、喰らえー!」


ジーナさんの必殺ゲージが溜まり、必殺技バーストバレットを使う。更にメガバーストが命中する。すると…。


(グガーーーーーーーーー)断末魔を挙げてポイズンドラゴンは倒れ、戦闘終了のBGMが流れた。


「おー、今のフィオちゃんかな?やったね!みゃーちゃんもナイスアシストだったよ!

1人じゃ絶対チャレンジしないクエストだけど。なんとかなった。

「倒せた〜。」

フィオちゃんが走って近づいて来る。


「見た?今の見た?私が倒したよね?ね?」


「うん!やったねフィオちゃん。あ、リザルトだよ。」


戦闘結果(経験値13000、アイテム、七色の杖、聖者のローブ、ポイズンソード、32980ゴールド獲得。)

レベルアップのBGMも流れる。

レベルアップでフィオちゃんだけレベルが35になった。

「やった!レベルアップ!それに欲しかった七色の杖と聖者のローブゲット!ありがとう、ジーナさん!みゃーちゃん!」


「運が良いねフィオちゃん!必ずドロップする訳じゃないのに。まぁ、次は私の無理に付き合ってよね!」


「頑張った甲斐があったね。ルルナも鍛えられたから、私は割と満足だよ」


三人で話していると、さっきのアンドロイドのプレイヤーが戻って来た。

「助かりました。ありがとうございます!」


間違いない、やっぱり彼だ。私はパーティ内プレイヤーにしか聞こえないボイスチャットで、その事をジーナさんとフィオちゃんに伝えた。


「えっ?!マジで?」


「あ、やっぱりそうか、でも、どうするのみゃーちゃん。あのジーナさんすいません。時間稼ぎお願い出来ますか?話を繋(つな)ぐと言うか……」


「ふふっ。了解。でもあまり時間は取れないよ。頑張ってね、みゃーちゃん。」


「はい……」


とは言ったものの、どうすれば……。


「どうしのみゃーちゃん、チャンスじゃん!」


「あうう…解ってはいるけど…」


そこにジーナさんが帰って戻って来た。

「彼途中まで仲間が一緒だったんだけど、用事が出来たとかで抜けちゃって、でもレベル40だから倒せるだろうと、1人でここまで来たんだってさ。召喚した仲間は倒されて、そこに私達が来たって訳。さて、ポイズンソードが欲しいみたいだけど、良いかな?」


「はい。構いませんよ。装備出来ないし。」


「お礼は別に貰っちゃいましょう。」


「了解(笑)それじゃあ、みゃーちゃん、覚悟は決まった?」


そうだった。私は…。

「やっぱり、やっぱりまだ勇気が……」


するとジーナさんかま珍しく声を荒げる。


「んもー、このチャンスを活かさないで、どうすんの〜!」


分かってはいる、分かってはいるのだ。私はスマホの前で胸に手を当て、心を落ち着かせる。それからまたスマホを手に取り、近くのプレイヤーに話しかける、ダイレクトボイチャを開き、彼に近づく。


勇気を出して、勇気を出して…

「あ、あの…」


(つづく)





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