第6話 異世界元勇者、体力測定をする
俺が今年の春から通う高校である、「桜守学園」では高校の例に漏れず学年の最初に体力測定がある。が、この桜守学園。何しろ生徒数が半端じゃなく多い。後で聞いた話によると3学年で全校生徒が大体2400人にも上るんだとか。
生徒数が多い理由は、私立なのに公立並に安い授業料。部活動が盛んで、部によっては全国大会に進む部もあるらしいこと。そして地元枠という付近の中学生のみが対象になる所謂特別合格枠があるからなんだとか(俺達も地元枠での受験だったが)。
何故こんな話をしたのかというと、今日がその体力測定の日なのである。しかしそこはマンモス高とでも言うべき生徒数を抱える桜守学園ならではの方法がある。
それは、1日を使い学校内を回って体力測定の種目をこなせという、ある種のオリエンテーリングのようになっているのである。
こうした形で体力測定が行われるため、ある程度仲のいい集団で各種目を回ることになるのはもはや様式美なのだろう。つまりは俺、朋花、伊織、琴葉の4人で回っているのである。もっとも、残すは2種目だけなのだが。
「で、双海。お前はいつの間にそんなに運動ができるようになったのだ?」
「あ、それは私も気になる。翼って中学では運動部じゃなかったはずよね?」
「そうですね。私の記憶が正しければ、人並み程度だったと思いますが…。」
「この1年間で少しずつ筋トレしてた成果が出たんだよ。それ以外にないだろ。」
そんなわけで幼馴染連中と校内を回っているのだが、いくら手を抜こうが異世界スペックに染まってしまった俺の身体は運動が抜群にできるはずの伊織と同じくらい動けてしまうのだ。
「アンタが筋トレ…?3日坊主で続くはずないでしょ?」
「だが、双海が運動ができるようになっているのも事実だ。」
「お前ら、本人を前にして言いたい放題いてくれてるな、おい。」
異世界に行く前は事実その通りなのだし、こちらに戻って来てからも詳しい事情を話していない以上はこう言うほかないのも事実である。
「それにしても、運動ができるのは羨ましいですね。私なんてダメダメですから。」
「そう言いながら、琴葉だって人並みにはできるじゃない?」
「ずっと朋花と一緒にいたからそう感じるんだろ。お前、身体を動かすことだけは何をやっても全国クラスだろ。」
「あら、翼は私が運動しか能がないとでも言いたいの?」
「そんなことは言ってないだろ。それより、体力測定の残り種目ってなんだ?」
「50m走と持久走だ。俺と双海は1500m、百瀬朋花と宮尾琴葉は1000mだな。…せっかくだ。双海、どこまでできるかは知らんが一つ勝負と行こうではないか?」
「負けたらジュースおごるとかか?」
「それくらいが妥当だろう。」
「よし、乗った。後悔しても知らないからな。」
…悪いが、伊織に負けることはないだろう。
案の定、50m走でも持久走でも俺は伊織に負けることはなかったが、お互い悪乗り(?)が過ぎて持久走の1500mで4分ジャストの記録を出してしまい、伊織ともども陸上部に勧誘されてしまったのは笑い話である。
異世界から帰還した元勇者は普通の生活を望む キサロハ @shiny
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