第5話 異世界元勇者、高校生活開始

 何も特筆することのない高校の入学式も無事終わって、入学式の日の放課後。

 新入生独特の互いに探りあっている雰囲気のクラスの様子を横目にさっさと帰宅しようとカバンを手に取り席を立とうとすると、一人の男子生徒から声をかけられる。


「高校に入っても同じクラスなのに、挨拶もせずに帰ろうとは少々軽薄ではないか?」

「別に、そういうわけじゃない。お前のことだから、何かしら予定があると思ってたんだよ。」

「確かに予定はある。が、それより幼馴染への挨拶を優先させるのは至極当然だとは思わないか?」

「お前が常識を語るのが意外だよ、伊織。」


 言葉の中にもあった通り、俺に声をかけてきたのは幼馴染の一人でもある矢吹伊織という男である。こいつを一言で表すなら、残念イケメンだ。見た目としてはサラサラの地毛の暗めの茶髪、切れ長の細い目、すっと通った鼻筋にこれでもかと言わんばかりの高身長小顔にモデル顔負けのスラっとシルエット。だが、残念イケメンと言われる所以も持ち合わせている。


 伊織との付き合いは小学生のころからだが、そのころには「俺は将来〇〇ジャーになる!」と宣言していたが、中学生に上がるころには「いつか特撮監督になる!」と豪語していた。そこまでなら何もないのだが、何を血迷ったのか愛読書は世界中のオカルト関連をまとめた雑誌だったり心霊現象を特集した本だったりする。それに加えて……いや、これ以上は俺の黒歴史にもかかわるのでここまでにしておこう。


「それで、何の用だ?」

「さっきも言っただろう?挨拶だと。向こうもそうしているようだぞ?」


 そういって伊織の視線を追うと、朋花と…小学生と間違えられそうなくらい小柄な黒髪の女子生徒が何か会話していた。


「あいつらは会えばいつもあんな感じだろ?」

「やれやれ。双海はわかっていない。親しき中にも礼儀ありと言うだろ?」

「今更だが、その言葉そっくりかえしてやるよ。」


俺がこう返す理由は、俺の黒歴史にも関わってくるので黙秘させていただく。そう言いながら俺と伊織が会話していると、向こうはひと段落したのか朋花と黒髪の女子生徒がやってくる。


「さっきから、ツートップバカで何話してたのよ?」

「俺は伊織に絡まれただけだ。それとツートップバカとか言うな。」

「何、親しき中にも礼儀ありと双海に説いてやっていただけだ。そうは思わないか、百瀬朋花、宮尾琴葉。」


そう言って伊織は朋花と黒髪の女子生徒…幼馴染の一人の宮尾琴葉に話を振る。

 宮尾琴葉は一言で表すなら、ザ・大和撫子と言った装いの小柄な女の子だ。サラサラな背中にかかる程度の黒髪に、前髪は所謂ぱっつん、ぱっちりとした大きな目。ぷっくりとした瑞々しそうな唇。そして先にも言った通り小学生にも間違われそうなくらい小柄な身体(本人は気にしているようだ)。よく言われるのは可愛い系の大和撫子らしい。

そんな琴葉が会話を広い、続ける。


「確かに、伊織さんの言葉にも一理ありますね。挨拶は大事なものですから。」

「だそうだぞ、双海。それなのに、お前はさっさと帰ろうとしてたよな?」

「…今更すぎると思ったんだよ。別に、後でメッセージでも入れとけばいいってのもあったしな。」

「酷いなー、私傷ついたなー」

「俺も、双海からぞんざいな扱いをされているのかと寂しくなったものだ。」

「つまり、翼さんに取って私は軽い女と思われていたということですね。ショックです…。」

「お前ら…。」


口ではこう言いながら、伊織も朋花も、琴葉ですらからかってますよという表情が丸わかりである。しかし、いくら勝手知ったる幼馴染相手とはいえ3体1はあまりにも不利すぎるので、俺はさっさと白旗を上げる。


「…近くのコーヒーショップで1杯な。」


この時、3人とも喝采の声を上げたのが理不尽でならない。

だが少なからず高校生活ぼっちで3年間というのはなさそうで一安心である。

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