第4話 異世界元勇者、両親に贈り物とお願いをする
制服の採寸をして、シルバーアクセサリーに使う道具や材料を買っても数日が立った。あの日から昨日まで俺は自室で色々と作業をしていたのだが、なんというか気になる問題点が出てきてしまっていた。まず向こうの世界の銀とこちらの世界の(アクセサリーの素材の)銀だが、加工のしやすさが全然違うのだ。こちらの世界の銀の方が形状を整える加工がしやすいのだが…魔法付与—簡単に言えば身につけているだけで、ある特殊な効果がでてくるような加工—がしにくいのである。これでは両親にプレゼントして宣伝してもらうにしても、後から販売したものとの品質差がかなり出てしまう。具体的には、向こうの世界の銀だとすんなりいくつか魔法付与できるのだが、地球産の銀だと1つしか魔法付与ができない上に付与した魔法の効果まで弱くなってしまう。
そこで、プレゼント分は俺が持っていた向こうの世界の銀とこちらの世界の銀を混ぜて、何とか自分の中で誤差だと言える範囲まで落とし込んだ。自分の両親…それと育ての親ともいえる、朋花の両親(俺から見たら叔父叔母にあたる)にもいくつか魔法付与がされたアクセサリーを渡す予定である。普通に売る分に関しては地球産の銀で作ったものにする予定だ。
そうして、完成したアクセサリーを持って今日は両親がいるであろう自宅のリビングへ行き、声をかける。
「父さん、母さん。少し時間いい?」
「あら、どうしたの翼?」
まず声をかけてきたのが俺の母親の双海麗華。こげ茶色の髪に意志の強そうな目、筋の通った鼻筋に小さな口元。それらが俺の目から見ても小さな顔にバランスよく配置されている。…これで化粧とかしてないんだから、大したものだよな。
「翼からそう言ってくるなんて珍しいな。何かあったか?」
続いてテレビで競馬を見ていた父親、双海昴が声をかけてくる。少し前に流行ったらしい某サッカー選手を真似したモヒカンみたいな髪型に、大きな鼻。糸目までは言わないまでも細い目に、すっきりした口元。今でこそ座っているので目立たないが、父親は背が低い。俺よりも低くて…というか母さんよりも低く、150センチ台らしい。これに関しては母さんが女優なんて仕事をやっている関係上、女性にしては背が高く165センチを超えているのもあるが。俺?大体母さんと同じくらいの身長だよ。ともあれ、両親と俺の3人家族が揃っていたので、さっさと本題に入る。
「そんな大事なことでもないんだけどさ。プレゼントとお願いしたいこと…それとやってみたいことができたから、その報告。」
そう言って俺は母さんにはイルカを、父さんにはフクロウをモチーフにしたペンダントトップをつけたネックレスをそれぞれ渡して言葉を続ける。
「まずはこれ、俺が作ったアクセサリー。これを2人に贈りたいっていうのが一つ。で、ここからが俺のやりたいこととお願いってことに絡むんだけど。バイトの代わりにアクセサリーを販売したいと思ってさ。だから宣伝兼ねてつけてくれると助かるなって。」
「へえ、これを翼が作ったの?よくできてるじゃない。」
そう言いながらネックレスをしげしげと眺める母。
「そうだな。このフクロウなんて、特徴的な羽根まで細かいところが加工してあるな。」
そう言いながらペンダントトップのフクロウを細かく見る父親。
「どこまで売れるかわからないけど、やってみたくてさ。それに、2人に渡した物には効果あるかはともかく、疲れが取れるおまじないもかけておいたから。」
「まだ高校が始まる前なのに、もうアルバイトのことを考えてたなんてね…。」
「単純に翼も小遣いが欲しいんじゃないか?少なくとも、俺はこのくらいなら挑戦してみていいと思うけどね。」
「…それもそうね。ダメだったらいつでもやめていいし、何だったら他のアルバイトをしてもいいものね。」
「もちろん、それも視野に入れてるよ。後で叔父さんと叔母さんにも渡しに行こうと思ってるんだけど。」
そう会話しながらもなんだかうれしそうな両親を見て、俺は無事にアクセサリー販売を始めてみることになった。…なぜか叔父さんと叔母さんに渡しに行く時に朋花の分も渡すことになったが。
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